ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

ブログ小説「アスカルの恩返し」その6から16まで

老人は
ハッキリと
「この犬にします」と
僕を指さし
言ったのです。

何と言うことでしょう
僕が
選ばれたのです。

筋向かいの
ケージに入っている
仔犬の方が
小さくて可愛いと
僕にはみえました。

もうすぐ処分されて
この世から
「おさらば」できると
思っていたのに
「この老人は
なにをするのだ」とも
思いました。

一番若い看護師さんが
私をケージから出して
老人に
手渡しました。

「可愛いでしょう

可愛がってやって下さいね」と
看護師は
言いました。

老人の手に
抱かれた
僕は
どうしようと
思いました。

当たり前ですが
もちろん初めてなので
どのような
リアクションをとれば
良いのか
わかりませんでした。

とりあえず
ジッとしていました。

看護師さんよりは
ごつごつしたような
感じでした。

抱かれて
あまりパッとしない自動車に乗って
老人の家に
到着しました。


7
老人の家は
建設中のように
僕にはみえました。

老人は
帰ると
家族に
私を見せて
「新しい家族です。

可愛いでしょう

名前は
アスカルと言います。

みんな仲良くしてね」と
話しました。

その時に
私の名前は
アスカルになってしまいました。

それまで
わんちゃんと
呼ばれていたのが
アスカルですから
相当の変わり方です。

アスカルって
私は
気に入っています。

あの老人
いや飼い主が
こんなに粋な名前を
付けるとは
外見からは
想像だにできません。

家族は代わる代わるに
私を抱いて
頭を撫でて
「可愛いね」と
言ってくれました。

家族は
飼い主の
母親

長男
長女
次男でした。

飼い主は
初めての飼い犬だったので
犬の飼い方が
まったくわからないばかりか
犬の気持ちなど
わかるはずもなかったようです。

飼い主は
自営業で
建築のことをしていました。

私を引き取った時は
飼い主は
自宅を建築中でした。

忙しいので
よく働いていると
最初は思っていました。

しかしそうではなく
いつも
働いていました。

パッとしない
服装で
パッとしない
靴を履いて
働いていました。

僕を
朝晩
散歩に連れて行ってくれていました。

忙しくても
連れて行ってくれました

飼い主は
僕を
可愛がってくれましたが
あまり時間は
費やさなかったように
思います。

それではというわけではないですが
ぼくも
あまりなつかなかったのです。

いや
あとで考えると
飼い主のせいではなく
なつかなかったと
今では思います。

当時は
世をはかなんで
みていたのです。

僕は
犬より
猫の方が
好きだったのです。

9.

今となって
よくよーく考えると
初めての猫との出会いは
動物病院に預けられた頃のことでした。

僕のケージの
斜め前上に
それは綺麗な
猫のお姉さんが
いたんです。

猫は
不治の病で
入院していたのです。

始めて
目があったとき
その猫は
僕を
見ていました。

それは
忘れかけていた
母親の目と
同じだったように思います。

僕は
ハッとしました。

他のケージの
犬には
そんな感じがしなかったのに
お姉さん猫に
始めて
愛情のような
思いを
感じたのです。

丸丸になって
薄目で
そのケージを
じっと見ていました。

数日経って
その猫は
息を引き取りました。

飼い主は
たいそう
悲しんでいました。

猫の飼い主は
泣き叫んでいましたが
僕も
はじめて
悲しい気分になりました。

その時の僕は
犬だったから
涙は出なかったけど
悲しかったのです。

10


犬は
やたら
犬と見たら
吠える
吠える
それが
僕にはイヤだった。

それに引き替え
猫は
吠えたりしない
優しく
ニャーと
泣くくらいです。

そんなこんなで
僕は
犬だけど
猫が好きです。

飼い主のところに
来た頃
こんな事件もありました。

僕が
ひとりで
外で番犬をしていたとき
一匹の猫が
やって来ました。

筋向かいの家の人が
飼っている
半分飼い猫
半分野良猫の
猫ですが
僕の方に近づいてきたのです。

たぶん
僕の
残っている
エサを
食べに来たのですが
僕は
近づいて行きました。

僕は
猫が好きですから
もっと近づいたとき
その猫は
「猫パンチ」を
あびせてきました。

猫は
私の目に
爪を立てました。


11

僕の
目から
血が噴き出しました。

ものすごく
痛くて
キャーンと
思わず
吠えてしまいました。

猫は
悠然と
去っていったようです。

それを見てた
飼い主は
慌てふためいて
自動車で
僕を
動物病院に
連れて行ってくれました

さいわいにも
爪は
白目のところで
失明は
しませんでした。

白目のところに
血腫が残った程度でした。

飼い主は
それを見て
私と同じだと
声を上げました。

僕は
飼い主の顔を
そして目をよくみると
左目の白目のところに
茶色いものがありました。

僕と
飼い主が
そんなところで
似ているのを
見付けたのですが
本当は
もっと
もっと多くのところが
似ていたのです。


12

猫に
文字通り
そんな目にあっても
僕は
猫が好きでした。

もちろん
犬よりもです。

人間は
論外です。

僕は
人間は
嫌いです。

飼い主は
人間ですから
嫌いです。

しっぽなど振りません。

散歩をするときだけ
引っ張って
飼い主を連れて行きます。

そうでないと
帰ってくるところが
わからなくなるからです。

少し辛そうに
ついてくる
飼い主には
今となっては
可哀想に思えました。

子供の時に
ながく
動物病院で過ごした関係か
犬なのに
方向音痴なんです。

餌も
もちろん
くれますが
絶対に全部食べません。

いつも
少し残して
時々来る
猫にあげるのです。

でも犬ですから
野生の心は少しだけ残っていて
猫のためにとっておいた
餌を横取りにした
鳩を
私は
成敗したこともあります。


13

飼い主の家には
少しだけの庭があって
そこには
良い香りの
ラベンダーが
植わっていました。

飼い主が
育てていたみたいです。

私は
首輪をさせられていて
そのラベンダーまで
いけませんでした。

いつの日にか
ラベンダーの上で
寝てみたいと
思っていました。

また同じように
そばに
水路もありました

ラベンダーには
近づけませんでしたが
水路には
近づけたので
川面にひかる
小魚を見たとき
思わず
飛び込んでしまいました。

そしたら
意外に
深くて
泳げなくて
足をバタバタしていたら
飼い主に助けられました。

その時は
死ぬかと思いました。

でもその時に
死んでいたら
こんな話は
しなかったかも知れません。

僕は
散歩以外の時は
夏なら涼しい土の上で
冬なら陽が当たるところで
丸丸になって
寝ているのが
普通です。

飼い主が
帰ってきても
しっぽを振って
出迎えたりしません。

「どうせ
どうせ
僕なんか」という
考えです。

14

僕は
世の中に必要ないし
愛されていないと
思っていました。

もちろん
飼い主からもです。

飼い主が
僕にしていることは
形式的だと
思っていました。

朝になったら
散歩をして
食べ物を与え
時々頭を撫でて
夕方になったら
また同じことをして
僕たち犬を手なずけしているとしか
思えませんでした。

僕の飼い主は
前にも言ったように
老人です。

見た目は
70歳くらいで
小学生の子供と
ファミレスに行ったら
おじいさんと間違えられる始末です。

そんな老けた飼い主を
散歩させなければならない
僕の努力を
いかばかりか
考えて下さい。

飼い主は
時々僕のところに来て
僕に話をするんだ。

くだくだと
話をして
僕の頭の毛を
触りながら
「この
ジョリジョリ
ふさふさの毛が
良いよね、

触っても
気持ちが良い」などと言って
僕の頭を
触ったり
撫でたりして
楽しんでいました。

なにぶん僕は
飼い犬なんで
イヤとは言えず
丸丸になって
甘んじていました。

15

僕の頭を
撫で撫でする飼い主は
普通に考えると
優しい人間のようにも
思えたのですが
人間なんて
嫌いだと
思い込んでいたのかも知れません。

時間は
ゆっくりと
過ぎていきましたが
僕の歳は
何時しか
10歳を超えていました。

人間にとっての
人生に対して
犬にとっての犬生は
6分の1ほど短く
いくらゆっくり時間が過ぎても
僕は
老いてしまいました。

若いときは
飼い主を
引っ張って
散歩したけど
よる歳なみにはかてず
あまり引っ張れなくなりました。

でも
散歩の時だけは
空元気を出して
頑張っていました。

帰ってくると
へとへとになって
水を
しっかり飲んでいて
それを
飼い主に見られたので
何だか恥ずかしく思いました。

16

10歳を超えた頃
私は
病気になりました。

獣医さんが
飼い主に言っていたのですが
耳が垂れている
犬には
よくある病気だそうで
名前もいってましたが
耳たぶが
腫れる病気です。

痛くはないのですが
耳たぶが
ぱんぱんに腫れてきて
気持ち悪いのです。

飼い主は
すぐに気が付いて
私を
動物病院に
連れて行って
手術を
してくれました。

注射するときは
痛かったけど
後は麻酔で
寝ていました。

しばらくの間
ケージに入れられました。

偶然ですが
子供の時に入っていた
ケージと同じでした。

あの時は
小さかったから
広く感じたけど
手術のあと
入ったら
ものすごく狭かったです。

丸丸になって
寝るだけでした。

以前は
人間世界から
遠ざかるために
丸丸になったのですが
今回は
それもありますが
物理的な
広さのためもあったように思います。