私の住むところは 戦後間もない頃までは 川辺郡園田村と言いました。 戦前の園田村では 知らぬ人はいない 大地主で 「人格者」として有名な ○○様がいました。 ○○様は もちろん 大金持ちですが 小作人には 優しく接していて 年貢を 少なくしたりして 評判の人でした。 戦後 占領政策で 農地解放が行われて ○○様は その田地の大半を 失ってしまったのです。 私の父も ○○様の 小作人でした。 農地解放の政策は ある限度までは 小作地として 残すことができるのですが 私の父の 小作地については 父が 「良くやってくれる」という理由で 小作には残さず 渡してくれたのです。 私が 今まで生活できるのは ○○様のおかげと言っても 嘘ではないと思います。 ○○様は 戦後は その人徳を買われて 裁判所の調停委員として 働くことになります。 隣村に住む○○様が 裁判所まで行くのは バスですが たまたま私の母が 乗り合わせました。 帰ってきて 母は 「バスの中で ○○様と会ったけど ○○様の革靴に 穴が開いていた」と 私に言いました。 昔は 園田一の大金持ちだったのに 破れた靴を 履いていたことに 母は大変驚いていたのです。 ○○様は きっと お金がないから 破れた靴を履いていたのではなく 何か外の理由があったのだと思うのですが 今となってはわかりません。 ○○様の家は 今は 文化財に指定され お料理やさんに なっています。 私の靴も 破れていたので そんなことを 思い出してしまいました。 でも 私と ○○様は 全く違いますよね 私は単に お金がないだけですもの