美奈子: あんなに優しい 陽一君と ケンカしたの 薫子: 一度だけですよ 一度だけ その後は 気を付けていましたから ケンカしたことはありません。 美奈子: どんなことで 薫子: テレビを見て すこし 論戦になったんです。 美奈子: そうでしょうね。 薫子さんが ケンカするなんて 考えられないですもの どんな論戦なんですか 薫子: 思い出しますよね あのケンカ 今となっては 楽しかったです。 美奈子: へー あとになって 楽しいケンカなんですか。 そこが 薫子さんですよね ますます気になります。 どんな論戦だったんですか 薫子: あれは 結婚して 和歌山にいた頃かな テレビでね 「夫が死んだ後 残された妻は 結婚すべきかどうか」と言うことを トークしていたんです。 私は 再婚しないと言ったんですが 陽一君は 再婚してと 言うんです。 するしないで 相当 言い争いになったんです。 美奈子: 陽一君は どんな風に言ったの 薫子: 陽一君はね 『僕が死んだ後 薫子が幸せになることだけを 願っています。 ひとりで 淋しく生きていく 薫子のことを思うと 死んでも死にきれない』と 言って譲らなかったの 美奈子: ふたりは そんなことで 論戦って 仲が良いわね 薫子: その時は 仲が悪くなったわ その夜は 一緒に寝なかったくらいですから