口には出しませんが 小作人なら 誰しも 地主になることを 願うのは 当然です。 しかしそれは 実現が 絶対できない 夢です。 現金収入が ほとんどない 小作人が 田んぼを 手に入れることなど 全く不可能です。 しかし 状況は 少しずつ 変わり始めていたのです。 ふたりは それに気が付いていました。 代々小作人の 亀太郎の家でも 現金収入が 入ってくるあてができたのです。 年末になると その夢は 夢ではなく 達成可能な 計画に変わりました。 節季(盆と暮れの時期)になると 酒蔵が 水運びの代金の 支払を始めたのです。 300回あまり運んだ 亀太郎は 清左衛門と一緒に 酒蔵に行きました。 今までに見たことのない 銭です。 それもまとまった その銭を 見た時は びっくりしました。 銭は 糸を通してあります。 清左衛門は 満足そうでした。 亀太郎を見て 「よくやった。 いくらか持っていくか」と 尋ねてきました。 「すべて 蓄えておいて下さい」と答えました。 銭をもらった 連中の中には 西宮へ 遊びに行くものも 多くいました。