ひとつのこたつで みっつの布団の 暖をとるのです。 理屈上は もうひとつ 4人まで出来るのですが それはしません。 だって ひとつは北枕に なってしまいますので それを嫌っているのです、 父が一番奥 私と母 姉 が寝ます。 母は 慎重に 掛け布団を 掛けます。 勢いよくやると 豆炭の上に 掛けてある 灰が 飛んでいくのです。 辺り一面 灰だらけにならないためには 慎重しかありません。 そんな風に敷き終わると 寝る準備は 一応完成です。 それから 母は 姉の 勉強を見る時間になります。 裸電球が ひとつ下がっている 北の部屋に行きます。 姉も 一緒について行き 父が作った 机の前に 座ります。 母は 鯨尺 (着物を作る時に使う物差し) を持って 姉の勉強を 見るのです。 母は 学校の先生に なるのが夢だったのです。 でも 貧乏のため 高等小学校を卒業すると 交換手として 勤め始めました。 女学校に行って 師範学校に行って 先生になりたかった母は 娘に その夢を 託したいと 言っていました。 厳しい 指導を見た 私は いつも びっくりしていました。 母は 平素は 本当に優しい 母でしたが その時だけ 厳しくなるのです。 私も 大きくなったら こんな目にあるのかと 恐ろしくなっていました。 でも その 恐れは 杞憂だったんです。