あずさが
疲れていなくて
眠くなくて
そして
満腹でなかったなら
こんな失敗はしません。
でもそうではなかったあずさは
鞄のチャックに
爪を挟んでしまうのです。
それほど伸ばしてはいなかったのですが
職業柄
少し伸ばして
きれいにマニキュアを付けていました。
あずさは
少し慌てました。
チャックから
爪がとれないのです。
強く引っ張れば
とれるでしょうが
爪がとれたら
困るので
そーとあっちにしたり
こっちにしたりしていました。
でも
少し慌てるアナウンスが流れました。
「西宮北口行き普通電車は
8番線よりもうすぐ出発になります。
御乗客のお客様はお急ぎ下さい。」
それを聞いた
あずさは
眠いし
疲れているし
満腹だし
その上爪が鞄と引っ付いてしまっていたので
もうなんだかわからなくなって
倒れていきました。
その時あずさを支えてのは
茶髪男でした。
その茶髪男は
洗いざらしの
青いティシャツに
破れたジーンズと
油の付いた靴を履いていました。
その出会いは
あずさにとっては
何でもないような気がしました。
何しろ
意識朦朧としていましたから。
遠くから自分を見るような目で
見ていたのです。