冴子は 「ありがとう」と 小さい声で言いました。 電車に乗って 空席があったので となり同士に座った時に 「前の前の旦那さんに 会えましたか」 と尋ねてきました。 冴子は ハッとしました。 「そうなんだ あの家には 登がいるはずなんだ まったく そんなこと考えていなかったわ 登は いつもいないものだと 思っていた」と 気付いたのです。 「会ったほうがいいですか 会った時に何を話せばいいのですか」 と 逆に 聞いてしまいました。 川上さんは 答えが見いだせませんでした。 いつものように 川上さんとも 話さず 黙って 川上さんと別れて 家に帰りました。 子供たちが 立派になっていたことや やっぱり 何も言わずに 家を出たことに対する 罪悪感からでしょうか 冴子は その日一日 何もせずに 電気も点けずに 家にいました。 夜になっても 眠られずに いました。 朝方になって ウトウトとした時に 夢の中で 図らずも 勇治に出会いました。 勇治は 前の夢と同じように 「幸せになってね」と 言っていました。 朝目覚めて 冴子は 「今日もがんばるぞ」と 気合いを入れてしまいました。