ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの68歳の老人の日記です

ブログ小説「笑顔のアイコンタクトに魅せられて」その22まで

笑顔のアイコンタクト その22は最後の方です。 9000字も 書いてしまったのに まだまだ 登と薫子は出会いません。 いつ登は 笑顔のアイコンタクトに魅せられるのでしょうか。

皆様は
運転はされますでしょうか。

私は
車の運転は
苦手ですが
仕方がないので
運転しております。

先日
あまり
車の通らない
大きな交差点で
右折しようとしたときのことです。

横断歩道に
自転車が通るゾーンがある
交差点です。

右折するときは
前方からの歩行者や自転車に注意すると同時に
右側手前から自転車や歩行者にも
注意しなければなりません。

前方を見て
対向車が来ないのを
確認してから
右手前を
目視するために
首を
右側に回しました。

午後4時頃でしたでしょうか。

たぶん
40才くらいの
女性が
自転車に乗って
横断歩道の
自転車ゾーンを
走ってきました。

彼女は
私に
アイコンタクトで
「渡ります」と言って
走っていきました。

皆様
交通安全のためには
アイコンタクトは
大切ですよね。

アイコンタクトによって
優先を確認するのですよね。

人間のアイコンタクトですから
笑顔が基本だとは思いますが
彼女の笑顔は
今までにない
笑顔だったんです。

その笑顔を見て
その日は
満足で楽しい一日でした。

会ったのはその日だけでしたが
もっと別の人が
会ったらと考えていました。

構想1分
ブログ小説を書くことになりました。


次回から
期待せずに
お読み下さい。

もちろん
どんでん返しや
感動の結末など
ありません。

拙文を覚悟の上
読んでいただけたら
嬉しいなと思います。





1

この物語には
主人公は
ふたりいます。

車を運転していた
登と
自転車に乗っていた
薫子
です。

物語は
登の話と
薫子の話の
ふたつで
行ったり来たりします。

混乱せず
お読み下さい。

薫子から
始まります。

薫子は
昭和50年に
京都の片田舎で生まれました。

茅葺きの
家で生まれました。

もちろん
出産は
近所の産科で出産でしたが
夏の初め
家に帰ってきた
母子は
涼しい座敷で
緑一杯の
景色を見ていました。

父親は
風薫る日に生まれたので
薫と
名付けたかったのですが
男性と間違われたら
困るので
薫子としました。

薫子は
緑の中を
走り回り大きくなっていきました。


薫子が
生まれた頃
登は
公害で
問題になっていた
街で
学年は同じでが
既に生まれていました。

窓からは
煙突の煙が
見える家でした。



2

登の家の
道路を隔てた
工場は
平炉メーカーで
平炉を開けたとき
煙が建物全体から
出てくるのです。

もう
殆ど見えなくなるくらいです。

一日に
何度かあるのです。

平日は
洗濯物を
外に干すことができないと
登の母親が
言っていました。

薫子と登の両親は
戦後のベビーブームの時に生まれ
子供を出産していました。

薫子と登とは
第二次ベビーブームの
子供達です。

幼稚園小学校中学校と
登は
たくさんの同級生がいました。

登の住む街では
新しい
小学校が新設され
その初めての
新入生となりました。

登は
小学校では
成績は
パッとしません。

両親は
共働きで
帰ったとき家にいなのを
良いことに
あまり勉強をしなかったためだと
登は思っていました。

学校では
目だ立たない子供でした。

友達もなく
存在感が薄いという感じでした。

薫子は
田舎の学校にしては
たくさんの同級生がいて
先生の指導がよかったのか
クラス一丸で
勉強やスポーツ・学級活動していました。

その中で
薫子は
中心的な役割でした。













3

小学校の5年生の時
交通安全のための
活動がありました。

薫子の小学校の周りは
田んぼばかりで
車も殆ど通っていなかったのですが
都会に出たとき
困らないようにと
管轄の警察署が
企画したものでした。

小学校の前に
唯一
横断歩道があるのですが
横断歩道の渡り方を
警察官が
「にぎにぎしく」教えるのです。

素直な
薫子ですので
超関心を持って
見ていました。

「横断歩道では
手を挙げて
車が停まるのを
待ってから渡りましょう」と
言って
渡って見せます。

その中で
運転手さんの目を
見る事が
重要だと
大柄の警察官が言いました。

自動車が止まったからと言って
歩行者に気付いているかどうか
わからないというのです。

単に止まっただけかもしれないので
注意が必要だと言いました。

運転手さんが
自分を見ていたら
気が付いていると言うことで
「これをアイコンタクトと言います」と
説明しました。

小学校5年生の
薫子には
「アイコンタクト」という言葉の意味が
よくわかりませんでした。

そこで
質問の時間に
アイコンタクトについて
警察官に尋ねました。








4

薫子は
大きな声で
「アイコンタクトって何ですか」と尋ねました。

先生役の警察官は
「アイコンタクトとは
目と目を合わせて
相手を確認することです。

目は口ほどにものを言うと言って
目は心の窓です。

では
私が
あなたに
目で言葉を話すので
聞いて下さい」と言って
目を薫子の
目を見て
目配せしました。

「わかりましたか」と
聞いてきて
薫子は
「わかりました」と
答えました。

周りは
ドッと笑いが
起こりました。

実際のところ
わかりませんでしたが
そう答えたのです。

そんな事があってから
薫子の
クラスでは
アイコンタクトが
話題になりました。

先生が
生徒を見ると
アイコンタクトをしているとか
薫子のアイコンタクトは
分かり易いとか
そんな話です。

登の方は
もちろん
交通安全の学習を
習ったと思いますが
アイコンタクトについて
知るのは
自動車教習所で
先生に教わる
10年後です。

登は
殆ど目立たない
小学生を経て
中学生になりました。

中学校では
三つの
小学校から
生徒が
集まってきました。

その中に
粗野な
中学生がいました。






5

中学生になった
登は
小学生の時のように
目立たぬように
中学生生活を
送りたいと思っていました。

しかし
その願いは
粗野な中学生によって
実現できなくなります。

登は
理由もなしに
叩かれ
いじめられます。

叩かれたあとに
「バカだから
たたいてやった」と
言うのが
口癖です。

跡が残らないくらいに
叩くので
家族や
先生が気が付くことがないのです。

登には
歳の離れた
姉がいます。

姉が
心配して
登に
忠告しました。

「やはり
成績が悪いのは
これから
生きていくのには
都合が悪いよね。

登は
小学校の時は
成績がもうひとつだったけど
中学校になったら
気張って
頑張らないといけないよ。

小学校と
中学校は
勉強の仕方が違うから
小学校で
成績が悪くても
頑張れば
成績が上がるよ。

算数が
数学にかわるように
他の科目も
そうなんだよ

中学からやり直せるんだから

悪い成績だったら
彼女もできませんよ」と
言われてしまいました。

成績が
トップクラスの
姉の言うことは
正しいのだろうと
思いました。

あの
いじめた
中学生に
「バカ」と
言わせないためにも
頑張ることにしました。

遊ぶ友達にいないので
勉強するしか
なかったのも
事実です。

6

登は
大方のことは
懐疑的です。

何でも疑ってかかります。

先生が
「蟻はのすべては
勤勉な蟻ですか」と
クラスのみんなに尋ねたことがあります。

蟻とキリギリスの話にもあるように
蟻は勤勉と決まっています。

みんなが
勤勉の方に
手を挙げるのは
当然です。

しかし登は
違いました。

先生が
勤勉とわかっている蟻を
勤勉かどうか
尋ねるのだから
きっと
勤勉でない蟻も
いるのだろうと
類推したのです。

ひとりだけ
勤勉でない方に
手を挙げた
登に
その理由を
尋ねました。

登は
「先生が
当たり前のことを
聞くのだから
答えは
きっと逆だろうと
思います」と
答えたかったのですが
前に
この様に
答えて
怒られたことを思い出し
「何となくです」と
答えました。

先生は
「蟻の中には
ずるをしている
蟻もいることが
観察されているそうです。」と
答えを言いました。

こんな風に
登は思考します。

勉強も
殆どこのやり方と同じです。

試験は
山を掛けます。

先生のクセを見抜くのです。

先生が試験を出す所を
何となく
登にはわかるのです。








7

登の予想のすべてが
当たるわけでもなく
登の成績は
上がり下がりしましたが
次第に
「バカ」と言われないほどの
成績になっていきました。






薫子も
中学生になって
少しだけ悩んでいました。

薫子の中学校は
みっつの小学校が集まって来ます。

薫子は
天気の時は自転車で
雨の時は
バスで通っていました。

小学校の
実績を買われて
クラス委員になっていました。

世話好きの
薫子ですから
適任と
考えられます。

同じ小学校から来た
クラスメートは
クラス委員に
協力的です。

しかし
他の小学校から来た
生徒の中に
掃除を
サボって
いる者がいたのです。

薫子は
注意する役ですので
注意すると
「お前には関係ない
お節介なんだから」と
言って
帰ってしまうのです。

薫子は
悩みました。

どうすれば
聞いてくれるのか
悩んでいました。

それで
小学校の時の
先生に教えてもらうために
学校に行きました。

先生は
話を聞いて
「させようとしたら
してくれないよ。

笑顔のアイコンタクトを使うのよ

小学校の時は
よく使っていたでしょう

笑顔で
ありがとうと
言うのよ

焦ったらダメ

きっと聞いてくれるから

ゆっくり笑顔で待つことよ」と
アドバイスしてくれました。

薫子は
小学校の時に
自然に
笑顔のアイコンタクトを
使っていたと
先生に言われて
気が付きました。

「ありがとうございます。」と
笑顔で答えて
学校をあとにしました。








8

早速
笑顔のアイコンタクトを
をすることに
しました。

朝の挨拶の時
クラス会の時
連絡事項を
説明する時
帰る時
笑顔のアイコンタクトを
クラスのみんなに
してしまいました。

同じ小学校の出身者は
薫子らしいと
思いました。

他の
クラスメートは
薫子に
何か良いことがあったのかと
思いました。

掃除当番を果たさない
クラスメートも
変だとしか思いませんでした。

そんなことが
二三日続くと
笑顔のアイコンタクトを
知らないクラスメートも
薫子は
何か凄いものを
持っていると
考え始めたのです。

数日後
例の
掃除をさぼるクラスメートの
掃除当番が回ってきました。

薫子は
そのクラスメートに
笑顔で
「今日の掃除ありがとうございます。」
と
前もって
言いました。

いつもは
「関係ない」と
言うのですが
掃除をする
薫子を見ていると
帰られず
掃除をすることになりました。

薫子は
笑顔で
手伝い
クラスメートも
笑顔で
掃除していました。








9

クラスのみんなは
薫子の
やり方に
驚いていました。

同じ小学校出身者は、
あの
クラスメートを
言うことを聞かせるという
手際の良さに
いつもながら感心しました。

このために
笑顔のアイコンタクトをしていたのかと
思いました。

でも
ズーと
笑顔のアイコンタクトは続きます。


登は
笑顔とは
無縁の
中学生生活です。

勉強というか
先生のクセを
見抜くのに
勤しんでいました。

中学三年生になって
高校進学が話題になりました。

登の父親は
課長代理に出世して
年功序列制で
お給料も増え
余裕もあって
経済的には
登には問題ありませんでした。

登は
同じ中学校の生徒が
行くであろう
近くの公立高校は
行きたくありませんでした。

少し離れた
私立の
高校に
行きたいと思っていました。

そのためには
すこし
成績が足りません。

「頑張って
勉強しない」と
三者面談で
先生に言われてしまいました。

頑張ろうと
登は思っていましたが
何しろ
根が
怠惰な性格ですので
それほど
成績は
上がりませんでした。

「バカ」とは
言われませんでしたが
そんな間にも
登は
言われなき
暴力を受けていました。

身なりが
少し貧しい
登は
お金をゆすり取られるというような
ことまではありませんでしたが
殴られたり
足を掛けられたり
突然
突き飛ばされたり
していました。

その暴力を受けるたびに
少しずつ
頑張る
力が
増えてきたように
思いました。













10

暴力を受けるたびに
勉強をする力が
増していきます。

多くの暴力を受ける
登は
相当勉強しました。

山を掛ける勉強ももちろんしましたが
正当な勉強もしました。

高校の
試験の
クセを読むことは
少し無理なので
正当な勉強も
する必要があったのです。


その成果も
徐々に上がってきていました。





薫子の家は
少し貧しくて
高校は行けても
大学は
無理だと
親に言われていました。

高校も
公立でないと
行けないことになっていました。

薫子は
もともと
賢い聡明な
生徒でしたから
今まで通りのやり方でよいと
先生に言われていました。

今まで通りと言うことで
薫子は
笑顔のアイコンタクトは
なくなることはありませんでした。

学校のみんなも
いつも笑顔の
薫子を
羨望の目で
見ていました。

薫子には
好きな人がいました。

同じクラスの
少しおとなしい男の子です。

薫子は
特に
その男の子には
笑顔のアイコンタクトを
数倍
投げかけました。

でも
その男の子とは
相思相愛には成れませんでした。

薫子は
「縁がなかった」と
思うようにしました。

男の子は
薫子が好きだったんですが
あまりにも
薫子が
まぶしくて
近づきがたかったからです。

薫子は
高嶺の花と
思われていたのです。

そんな所が
薫子にはありました。







11

別に
難なく
公立高校に
行くことができました。

薫子の行った
高校は
地域では
名高い
進学校で
誰もが
大学に行く学校でした。

勉強に
明け暮れる
クラスメートの面々は
友達付き合いが
苦手でした。

薫子は
いつものように
笑顔のアイコンタクトで
友達の輪を
作ろうとしていました。


しかし結果だけを言うと
失敗でした。

「笑顔のアイコンタクトが
功を奏しないことも
あるんだ」と
薫子は
初めて思いました。

「そんなことも
あるかもしれない。

私の力が
足りなかったのかもしれない」と
反省もしました。

薫子は
作法クラブに入っていました。

お茶・お花・作法の
ことを
高校の先生の中で
上手な人に
習う
クラブでした。

薫子は
面白いと思っていましたが
クラブの部員は
3人しかいませんでした。

学校で
一番賢い美奈子さんと
少し変わった男の子の陽一君と
薫子です。

美奈子さんには
笑顔のアイコンタクトを
必ず返す
女学生でした。

でも
それだけです。

陽一君は
笑顔のアイコンタクトには
反応しません。

目を合わせませんので
アイコンタクトは
できませんでした。


この2人が
進学校での
友達でした。

おとなになっても
続きます。



12

薫子は
一年生の時から
担任の先生に
進学しないことを
告げていました。

高校は
進学のカリキュラム一色でしたので
薫子が
就職するためのものは
ありませんでした。

就職するなら
例えば
商業簿記とかが
必要です。

作法クラブの
顧問の先生が
商業簿記を教えられる
先生を捜してきてくれました。

薫子は
正規の勉強も
もちろんできましたし
就職のための教科も
難なくこなしていました。





登の高校受験は
登に言わせると
ラッキーでした。

試験の時だけ
よかったような気がします。

高校生になった
登は
暴力から
遠ざかれたかというと
同じような
人間が
徐々に
出てくる恐れがあります。

登は
目立たぬように
していました。

当時はやっていた
忍者ブームの
忍者のように
「気配を消して」いました。

叩かれて
痛い思いや
屈辱的な
経験をするよりも
目立たぬように
おくるほうが
登は
まだいいと思っていました。









13

登の
学校生活は
学校では
目立たぬような
陰気な時間を
送っていたのと
裏腹に
家では
やりたい放題でした。

乱暴な生活をしていたというのではなく
勉強をしていたのです。

勉強と言っても
高校の勉強ではなく
自由勉強です。

図学や
数学です。

ひと筆書きの
勉強もしていました。

そのようなものが
ひと筆書きができるかという
研究していました。

親や
姉は
よくわかりませんでした。

していることがわからないのではなく
役に立ちそうもない
そのようなことを
するのかが
わからなかったのです。

だから
やりたい放題でした。

高校の勉強は
例の山掛けで
よかったり
普通だったりです。

何になりたいという
夢も特になかったのですが
大学へ
何となく行くことが
決まっていたので
そこそこの
勉強をしていました。

やはり
登に言わせると
怠惰な毎日でした。



14

登の姉は
将来先生になる夢があって
頑張っていました。

その
夢に向かって進んでいる
姉を見ながら
うらやましく思っていました。

何になりたいというわけでもなく
登の高校生活は
過ぎていきます。



薫子の
将来の夢は
単純です。

仲のよい両親に
憧れて
お嫁さんになることでした。

そのために
作法クラブに
入っていたのです。

顧問の先生は
何でもできる先生で
いろんなことを
教えてくれました。

時には
料理も
教えてもらいました。

同じクラブの
美奈子さんに
将来の夢を
聞きましたが
はぐらかして
答えてくれませんでした。

陽一君は
「僕も結婚」と
答えて
先生を含めて
爆笑です。

しかし
これは
本当の夢だったのですが
薫子には
その時は
冗談だと
思っていました。

薫子が
高校三年生になった時
就職が
課題となりました。

世話好きの
顧問の先生は
地元の
会社を
あたりましたが
なかなか見つかりませんでした。





15

バブル景気が
終わって
不景気になっていく
その年だったので
到底
京都の山奥では
仕事などは見つかりませんでした。

そこで
何とか通える
京都で
就職先を
探しました。

進学校で
求人票など
来ない学校だったので
顧問の先生の
紹介で
何とか
面接まで
こぎ着けました。

証券会社で
全国展開していたのですが
京都だけの
地域職に
応募していました。

面接の
前日
「笑顔で
全力を出してきてね」と
助言してくれました。

高校では
笑顔のアイコンタクトについて
話していませんでした。

しかし
みんなは
私の
笑顔を
知っていたのだと
薫子は思いました。

電車に乗って京都の
証券会社の
支店に行きました。

数十人が
応募していました。

高校の制服を着た
人達は
「私より優秀のように見える」と
思いました。

すこし
寒気がしました。

心の中で
笑顔のアイコンタクトと
言い続けて
順番を待ちました。












16

薫子が呼ばれました。
五人同時に
面接です。

試験官は
鋭く突いてくる
質問もありました。

薫子への
質問も
同じものですが
薫子は
試験官と
笑顔のアイコンタクトをしてから
答え始めます。

薫子自身
他の4人の方が
的を射た答えだと
思いました。

「ダメかな」と
思いましたが
最後まで
笑顔のアイコンタクトで
行くことにしました。

午後は
筆記テストです。

特に難しいものでは
ありませんでした。

この日は
職場見学をして
解散となりました。

数日後
手紙が来て
2次面接の
知らせです。

「あれだったのに
良かったんだ」と
薫子は
少し驚きました。

先生に言うと
「笑顔が良いのよ」と
言われました。

呼び出しの日に
同じ支社に行くと
すぐに呼び出されて
面接です。

面接というか
口頭試問でした。

国語や
社会の問題を
口頭で
聞いてくるのです。

薫子ひとりに
5人の面接官です。

薫子は
まだ18才で
おとな連中が
よってたかって
聞いてくるのです。

萎縮してしまうのが
当たりまですが
薫子は
笑顔のアイコンタクトを
忘れずに
行っていました。

終わったあと
薫子は
疲れましたが
笑顔を忘れませんでした。






17

笑顔で
会社をあとにはしましたが
心の中は
半泣きの状態です。

口頭試問には
的確に答えられなかったし
笑顔のアイコンタクトも
そのため
顔が引きつっていたように
薫子には
思えたからです。

しかし
結果は
内定です。

12月に
内定をもらいました。

「良かった」と
薫子は
心の中から
思いました。

高校出たら
OLになって
それから
結婚という
薫子の
夢に
近づいたと
思ったのです。


薫子の
通っている
高校には
3学期の
始業式は
作法クラブの
琴の演奏会が
恒例としてありました。

3年生になると
作法クラブは
一応退部と言うことになるのですが
この年の
作法クラブの面々は
退部しません。

薫子は
内定をもらって
進路はもう決まっています。

陽一君も
12月に
大学に合格していました。

美奈子さんは
大学受験を控えていて
そんな事ができない立場ですが
お琴を
弾きたいと言うことで
参加していたのです。

薫子は
「さすが
学年一の
秀才だから
余裕の
美奈子さん」と
思っていました。

でも
それは
違っていたのです。






18

作法室での
お琴の練習は
夕方近くで
終わります。

薫子は
家が遠いので
あまり遅くまで
できません。

そこで
日曜日も出てきて
練習です。

練習する曲は
正月の琴の曲としての
定番
「春の海」と
アンコール曲として
「愛は勝つ」を
です。

家には
お琴がないので
学校でしか
練習できませんでした。

噂によると
美奈子さんの家には
お琴があるそうで
子供の時から
弾いていたそうです。

陽一君については
何もわかりませんが
かなりうまい方でした。

正月も
3日から
練習に励んで
高校生活
いや学生生活
有終の美を
飾ろうとしていたのです。

音楽が
苦手な
薫子には
相当のハードルです。


薫子にとっては
最後の晴れ舞台となる
始業式の日が
やって来ました。

校長先生の
訓辞が終わって
舞台の
幕が開き
作法クラブの
面々が
お琴を弾き始めます。

その中で
一人だけ
あでやかな
振り袖姿の
美奈子がいました。

薫子をはじめ
学校の全員は
驚いていました。



19

春の海は
定番曲ですが
歌詞がありませんので
聴衆は
静かに聞いていました。

そして
恒例の
アンコールです。

拍手して
作法クラブの
面々の
名前を
大声で
呼ぶものも出てきました。

一番大きく
たくさんの声がかかったのが
薫子です。

学校では
人気があったのです。

他の者の
名前を呼ぶ者も
いましたが
少数です。

もちろん美奈子さんの
名前を
呼ぶ者も
いました。

拍手が
続いて
薫子達が
目配せして
アンコール曲を
弾き始めようとした
その直前
美奈子さんが
弾き始めました。

事前に練習した曲とは
全く違う曲です。

「木綿のハンカチーフ」です。

正月で
始業式の日に
合うかどうかは
よくわかりませんが
美奈子さんは
弾き始めました。

曲に合わせて
美奈子さんは
歌も歌いました。

美奈子さんの
近くに
マイクがあったので
歌声は
会場中に
響き渡り
先生をはじめ
生徒も
薫子達の
作法クラブ員も
リズムと取りながら
聞いていました。

3番まで
歌って
美奈子さんの歌は
終わりました。








20

曲が終わって
またアンコールです。

今度は
美奈子さんの
名前を
呼ぶ者も
多く出てきました。

学校で一番
優秀で
多芸の
美奈子さんが
人気がないことは
ありません。

アンコールは
恒例では
一曲までと
決まっていましたから
薫子は
終わりにしようかと思った時
美奈子さんが
「アンコール曲を
弾きましょう」と
みんなに声を掛けました。

目配せして
「はい」と
言って
「愛は勝つ」の
演奏が始まりました。

薫子は
楽譜を
見なくても
弾くことができたので
できるだけ
みんなの方を見て
演奏して
歌を歌いました。

学生達も
一緒に
歌いました。

「信じることだ
必ず最後に愛は勝つ」と
大合唱です。

予想通りの
大盛り上がりです。

アンコールの
拍手は止みませんでしたが
次の
軽音楽クラブが
待っていたので
幕は
下りてしまいました。

琴を持って
脇に下がりました。

軽音楽部の
演奏を
袖で
美奈子や薫子陽一達も
一緒に聞いていました。

演奏が終わって
作法室に帰ろうとした時
美奈子さんが
薫子に
近づいてきて
言葉を掛けました。












21

美奈子さん:
薫子さん
私は
高校生活では
あなたに負けたわ

小学校中学校とは
いつも
一番の人気があったの

でも
私は
あなたに負けたわ

でも
これから
大学
そして
社会に出ると
もっと
もっと
多くの方に
負けるかもしれないわ

高校生活で
あなたと会って
そして
負けたことが
きっと
将来役に立つと
思いました。

それに
あなたに負けた理由も
わかったし
それを
糧に
今度は
絶対に負けないわ

あなたに負けた理由は
「笑顔」よね

これからも
良いライバルでいましょ


薫子:
美奈子さんを
ライバルだなんて
思ったことありません。

美奈子さんは
私の目標です。

美奈子さん:
そうなのよね
そんな風に
言えるところが
偉いと思うの

薫子:
本当のことです。

美奈子さんは
みんなに人気はあるし
その上
成績は優秀
スポーツも
何でもできるでしょう

美奈子さん:
成績が優秀でも
大成はできないわ

あなたは
私の持っていないものを
持っているわ

薫子:
なにも
私は
持っておりません。


薫子は
美奈子さんにそんな風に言われて
驚いてしまいました。