十詞子は 交差点の信号が赤なので 立ち止まりました。 前を見るともなしに見ていると 悟によく似た男性が見えました。 十詞子は もしかして 悟かと思い じっと見ました。 十詞子は 少し近視で 少し前に進んで よく見てみました。 その時 その男性は 横を見たので 十詞子には はっきりと 悟と分かりました。 「あっ 悟さんだ。 大阪に来ているんだ」 と思って 駆け寄って行こうとした時 思わぬ光景が目に入ってきました。 悟が 横の女性と 仲良く何か話しているのです。 十詞子は 全身の血の気が引くのが分かりました。 正常な考えが出来ない 十詞子は その足を止めました。 声も出ませんでした。 十詞子は 何も出来ずに そこに立ち止まりました。 悟と見合いの相手は 信号が青になったので 渡り始めます。 十詞子も自然と 後を付いていきました。 悟と女性のふたりは 信号を渡って 阪急百貨店の前を通り過ぎて 左に曲がり 動く歩道に乗って 阪急三番街の前に出て エスカレーターを降りて 川の流れる街を 通り過ぎて 映画館の前まで行きました。 ふたりは 映画の看板を見て なにやら話した後に チケットを買って 中に入っていきました。 十詞子は 夢遊病者のように 後をつけて 呆然と映画館の前で 見送りました。 何時間ぐらい そこに立ち止まっていたのか 分かりませんが、 十詞子は 我にかえって 気がつきました。 十詞子は 初恋が 終わったと 思いました。