ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

ロフトで勉強しましょ 完結編 その1

十詩子は
商品企画・営業・総務・人事・社長秘書室
などの職を歴任していました。

十詩子の勤めている会社は
鉄鋼の会社で
元々堅く
堅実異な経営で知られていましたが、
バブルの時期に
土地に手を出さなかったり
能力給がに移行しなかったり
金融商品にに投資しませんでした。

これらの時期に
十詩子の仕事が関わりがあって
それらの判断の下となる資料を
作ったのです。

資料を作った当時は
十詩子を
直接批判するものさえいました。
しかし何年か後
結果が出て
資料の正当性が
評価されるようになったのです。

そんなことで
十詩子の
会社の評価は極めてよかったのです。

56歳に十詩子がなったとき
十詩子はそれなりに
顔のしわもでき
頭の生え際には白いものが目立つようになっていました。

しかし
何事にも
積極的な
十詩子は
年齢を感じさせない
若々しさがあって
今も若い部下に
先輩のように慕われていました。

7月に
役員室に呼ばれた十詩子は
専務に
「十詩子君
いつも会社のためにご苦労様だね。

君の評価は
役員全員の知るところで
君を役員に推すものも多いんだが
中には
君の職歴に
難を言うものもいるんだ。

君が
本社つとめばかりで
地方に行っていないと
言うんだよ。

君は
一年だけ
尼崎工場にいたけど
その時は
総合職でなかったとも言うんだ。

僕は
そんなこと気にする必要がないと言ったんだが
社長が
『そんなに言うのなら
十詩子君のために
地方に行ってもらいましょう』
おしゃったので
全員賛成することになりました。

と言うことで
来年から
地方に
悪いんだけど
一年だけ行ってくれないかな。

部長職があるところなんだけど
君は豊岡出身だね。
姫路が一番近いかな。

工場長が
部長職だから
工場長に
一年行ってくれるかな。

普通に
やっていてくれたら
必ず再来年は
本社役員と言うことになるから。

でも君のことだから
何かやるとは思うけど
それも会社のためだから
良いよね。
姫路の人には
少し悪いけど」
と言われました。

十詩子は
恐縮しながら
少し考え
「ありがとうございます。
そのように評価していただいて
光栄です。
少しだけわがまま言っても良いでしょうか。」
と答えました。

専務:
珍しいね
君が人事で上申するのは
どこが良いんだね。

十詩子:
尼崎工場に転勤したいんです。

専務:
尼崎ね
あそこの副工場長は
部長職だけど
あっ
確か
11月に
定年退職で
空きになるはずです。

12月から赴任しなければならないよ。
尼崎は
大きいから
大変だよ
十詩子君がそういうなら
良いけど

君が尼崎にいたのは
38年前で
もう誰もいないんじゃないの
別に僕は良いけど
人事部長に言っておくよ

十詩子は
大きく頭を下げて
お礼を言って
役員室を出ました。

十詩子は
「やったー」
と心の中で叫びました。

すぐに
前住んでいた
尼崎の家主さんに
電話をしました。

尼崎に行くたびに
家主さんのところには
行っていたので
家主さんとは仲がよかったのです。

電話をすると
前にいたお部屋が
空き家になっていると言うことでした。
すぐに借りるように
話をしました。

待ち遠しく
11月の末に
新宿から引っ越ししました。


こうして
十詩子は
33年間に住んでいた
尼崎に
住むことになったのです。

年に数度
尼崎にやってきていますが
何か尼崎に来ると
心が
ウキウキします。

悟が
住んでいる
この街にいると
同じ空気を吸っているんだと
感じるのです。


悟の方はと言うと
ひとつ違いですから
57歳です。
十詩子と違って
かなり年齢を感じさせる
容姿になってしまいました。

大阪の市役所で
設計一筋に
30年余
市役所内部では
市役所の安藤忠雄と異名をとるまでになっていました。

すべて内部で
設計するので
忙しくて
昇任試験も受けず
未だに平の地位でしたが
悟は設計ができて幸せでした。


悟の家は
就職直前に
母親が亡くなり
その2年後に
妹が結婚して家を
出て行ったので
ひとり暮らしを続けていました。

それから
悟が住んでいた
尼崎駅の北一帯が
再開発事業になって
悟の家も
取り壊しになってしまいました。

そのため
悟は
同じ尼崎の
園田の駅近くに
新たに家を建てました。

悟は
自分の家は
自分で建てたかったのですが
仕事が忙しかったので
建築業者に
ロフトと
吹き抜けがある家と言って
作ってもらいました。

悟は新しいロフトが
お気に入りでした。
ロフトから見える
藻川とその向こうに見える六甲山を
時間のあるときは
ズーと見ていました。

特に
六甲山上に太陽が沈む夕日は
最高だと思っていました。

夕日を見ながら
十詩子のことを思い出していたのです。

悟と十詩子は
お互いにまだ
相手のことを
深く思っていました。
でも、相手のことを考え
その音信を探ることなど
全く考えていなかったのです。

31年間に
年賀状を出して
分かれたきり
会えないのですが
ふたりは
一日も忘れたことはありません。

十詩子は
前住んでいた
ロフトのお部屋に
引っ越してきました。
部屋に入った
瞬間懐かしさで
涙が出るくらいでした。

部屋は
こぎれいに少し改装さて
家主さんの手で
きれいに掃除をされていましたが
大方は前のままです。

窓のカーテンレールは
新しいものになっていましたが
「ここに
赤いカーテンを吊って
悟を待ったんだよね」
と思い出したりしました。

少ない荷物を
整理して
翌日
尼崎工場に
行ってみました。

12月1日からの辞令ですので
まだ副工場長ではありません。
守衛さんに
来客用の入場証を発行してもらい
敬子のいる
総務課に向かいました。

敬子は
結婚して
産休を2回とっていましたが
尼崎工場に勤めていたのです。
尼崎工場内で
転勤になっていましたが
今は総務課勤めで
工場長の
秘書係の主任でした。

十詩子は
敬子の後ろから
近づいて
少し敬子を
驚かしました。

敬子:
あー
十詩子さん
いや副工場長
今日から
勤務ですか
明日からと聞いていますが、、、


十詩子:
敬子さん
久しぶり
今日は
ご挨拶に伺ったの
まだ副工場長でないし、、
今は無役よ

敬子:
そうなんですか
十詩子さんが
副工場で
こちらに転勤してくると言うので
工場では
大騒ぎです。
ここに勤務していたのは
一年ちょっとだったのに
あの当時をしている
社員なんか
みんなに自慢げに話しているのよ。
もちろん私も話したけど、

うちの工場で
管理職で
女性は
十詩子さんが初めてだけど
抵抗はないわ

十詩子:
ありがとうございます。
それほどのものでもありません。

そんなことを言いつつ
二人は工場内の
挨拶をして回りました。

それが十詩子の仕事のやり方だったのです。
今の考え方で言えば
相当古い手法かもしてませんが
今でも最善の方法と
十詩子は考えていました。

翌日
副工場長から引き継ぎを受け
工場長に
訓辞を受けました。

「十詩子君には
今までの副工場長がしていた
事務的な仕事ではなく
もっと十詩子君らしい
仕事をしてほしい。
今までの仕事は
そうだ敬子君にでも
頼めばいいよ
敬子君はよくしっているから、

具体的には
君に任すよ
それが今までの十詩子君の仕事からそうおもうね。」
と言われたのです。

十詩子は
超抽象的なこの指図に
少し戸惑いましたが
「はい」とうなずきました。

その日から
十詩子は
工場の帳簿や
工場の仕事の手順
命令系統などを
調べ始めました。

工場が持っている
原価計算などの
数字がいっぱい書かれている
帳票なども
十詩子は苦にしませんでした。

少し老眼になってしまいましたが
計算力や記憶力は
衰えていませんでした。

帳票そのものは
自宅には持ち帰りませんでしたが
自宅で夕日を見ながら
考えました。




悟の方は
平の職員で
定年間近でした。
定年後は
設備係の同僚が
電気技術者として
ビルマンとして
再就職しているのを見て
悟も
電気技術者試験を受けました。

いわゆる電験3種はすぐ通ったのですが
もう一つ上の
電験2種をとるために
お気に入りの
ロフトで
夜遅くまで
勉強する日々でした。


そんな二人は
同じ尼崎に住んでいましたが
出会う機会は
ありませんでした。

悟は
園田駅から
阪急電車に乗って
中之島の市役所に行って
帰るだけです。

方や
十詩子は
JR尼崎駅近くに住んで
自転車で
5分のところの
尼崎工場に
通勤するだけです。

そんな二人は
出会うことがなかったのです。


同じ12月に
尼崎駅前に
有ったビール工場の跡地に
大型ショッピングセンターができました。
「ココエ」と言います。
テレビのニュースや
散らし広告が入ったので
悟は
興味がありました。
前尼崎駅前に住んでいた悟は
どんなものか
知りたかったのです。
それに建築にも興味があったので
23日の休みの日に
「ココエ」に行くことにしました。

23日には
十詩子は
朝から数字と にらめっこしていました。
老眼のせいでしょうか、毎日数字ばかり見ていたので
少し休むために
家の外を
散歩に出かけました。

十詩子の部屋は
駅の南にあって
会社も南にあったので
尼崎駅の北側には
一度もいったことはありませんでした。
いや正確に言うと
36歳の
クリスマスの日に
悟の家に
一度いったことがありました。
夢の中のような出来事でしたが
本当にあったことと
思っていました。

地下道をくぐって
北側に行くと
新しい街並みがありました。

その時の
十詩子の服装は
いつものように
薄ピンクのフレアスカートに
白いカーディガン
それと
白のコートです。
私用なので
少しカールのついた
髪は束ねていませんでした。

暖かい日でした。

一度だけ行った
悟の家があったと思われる場所には
高層ビルが建っていて
病院になっていました。

その前に立って
少し考えにふけりながら
駅に向かいました。

駅近くに行くと
たくさんの人が
ココエのショッピングセンターに
入っていくので
十詩子も吊られて
その方向に歩き出しました。


横断歩道を渡って
少し人混みが
ばらけたときに
横から
黒っぽい服装の男の人が前を横切りました。

その時なにやら
十詩子の足に
当たって
足がうまく前に出せなくなり
「あっ」
と叫びながら
前に倒れ始めたのです。

十詩子は
そのほんの少しの瞬間
「これはどうしたことなの
前にもあったような気がするけど
なぜこけなければならないの
あっ
倒れる
地面が顔に当たる。
いや顔が地面に当たる!!!」と
心の中で叫びました。

間一髪十詩子の鞄が
顔の前にやってきました。

十詩子は
歩道の上に倒れました。
右足の膝から
すぐに血が出てきました。

十詩子は
痛さのために声も出ず
うずくまってしまいました。

男性はすぐ駆け寄り
ハンカチを出して
血が出ている
膝に巻きました。

十詩子は
痛いので目をつむっていましたが
少し開いてみると
初老の男性が
見えました。

男性は
「すみません。
ごめんなさい」
十詩子の方を見て
と謝りました。

十詩子はその声に聞き覚えがあったのです。
容姿は変わっていましたが
声は変わっていなかったのです。

悟も
十詩子と気がつきました。

十詩子:
悟さんじゃないですか
悟さんですよね

悟:
十詩子さんですよね
何年ぶりでしょう。

開店セールで
たくさんの人が歩いている歩道で
十詩子は道に座りながら
悟は歩道に膝をつけて
お互いに
見合っていました。

多くの人は
奇異な目で見ながら通り過ぎました。

どれだけの時間が流れたか
二人にはわからなかったけど
悟は
少し我に返って
十詩子の左手の薬指に
何の指輪もないことを見ました。

そのあと
「十詩子さん
すみません。
立てますか
救急車呼びましょうか。
それとも
そこの尼崎中央病院に行きましょうか。」
と悟は言いました。

十詩子:
いえ大丈夫です。
立てますから、、

そういって立ち上がると
少しよろけてしまいました。

悟が
十詩子の腕をつかみました。

悟:
すみません

十詩子:
大丈夫よ
少し休めば大丈夫よ
あちらの喫茶店でも

十詩子は
悟に支えながら
ココエのなかの
喫茶店に入りました。

十詩子を席に座らせました。

悟:
ここはセルフですね
何を飲みますか。

十詩子:
温かいコーヒーをお願いします。

悟は
カウンターに並んで
コーヒーを二つと
水を持って十詩子のところに
戻ってきました。

悟:
お待たせしました。
まだ痛むでしょう
ごめんなさいね
僕が鞄を落としたもんだから
申し訳ないです。

十詩子:
大丈夫
大丈夫と思います。

悟:
十詩子さんは
今は東京に住んでいるんでしょう。

十詩子:
いえ
12月に東京から
転勤してきたんです。

悟:
そうなんですか
今はどちらにお住まいですか。

十詩子:
前に住んでいた
南側の
ロフトのお部屋が
ちょうど空いていたから
また住んでいます。

悟:
えー
あそこは
一部屋しかないんじゃないんですか。

十詩子:
そう
景色も
同じで良いの

悟:
一部屋では狭すぎませんか
家族で住むには

十詩子:
一人で住んでいるんですよ

悟:
それでは
単身赴任なんですか

十詩子:
単身赴任?
そうかもしれないけど
私は
東京でも単身ですよ

悟:
えっ
結婚したんじゃないんですか

十詩子:
結婚なんかしていません。

悟:
でも
結婚指輪を
していたのを
見かけたのに、、、、

十詩子:
あっ
そっ
それは
それを知っているんですか
若いときは
私結婚指輪を
していたことがあります。
それは結婚したからではなくて
えー
どういったらいいのでしょうか。
あれは偽物の
結婚指輪なの
悟さんは
あれをつけているところを
見たんですか

悟:
えっ
あっ、、

、、、
、、
、、、、