妖精が見ているとも知らずに 莉子と陽一の話は 弾んでました。 莉子: 抗がん剤治療って 大変だとは聞いていたけど こんなに大変だとは思わなかったです。 陽一: そんなに大変なんですか。 莉子: 何しろ 吐き気はするし しんどいし しんどいのには 限りがないんです。 抗がん剤を入れていくと 際限なく しんどくなるのです。 陽一: それは大変ですね 私の病気とは大違いだ でも 若いんだから 早く癌なんかやっつけて 元気にならなきゃ 莉子: そうなんですけど お医者様がね この病気は 直らないかも とおしゃるの 陽一: そんな あなたが希望をなくしてどうするんですか がんばらなきゃ あなたを愛してくれるご両親や ご家族や お友達もおられるんですし あなたが病気だったら どんなに悲しむことでしょう 早く元気になって 安心させなきゃ あっ ごめんなさい 差し出がましく 言って あなたがどんなに苦しいか分かりもせずに 言ってすみません。 莉子: いや ご親切にありがとうございます。 でも そうですよね 田舎の両親は 心配してますよね。 陽一: 田舎はどちらですか。 莉子: 姫路の向こうの 龍野のほうです。 陽一: そうなんですか 奇遇ですね 私は 姫路です。 莉子: 姫路ですか 高校生の時は 姫路に良くお買い物に 出かけたものですわ ふたりの話は ふるさとの話になって 続きました。 小一時間ほど経って 陽一は 「また会いたいので 病室を教えてほしい」と言いました。 莉子は 部屋番号を教えて 分かれて 帰りました。