いつものように とりとめもない 話をして 時間が過ぎていきました。 ふたりで食事を作って 楽しく食べました。 十詩子は どのように 話すべきか 頭の中で 考えていましたが 名案は浮かびませんでした。 帰る時間は 決まっていますので 心がせきます。 やはりここは 普通に 話すことにしました。 十詩子: 悟さん 先日 敬子から電話があって 会社に来て欲しいというの それで行ったら 私がお世話になった 元経理課長と 電子計算機室長に お願いされたんです。 会社に 嘱託で 勤めて欲しいというのです。 ひとりでは決められませんというと 婚約者と相談して下さいと 言われました。 悟さん どうすればいいでしょうか 悟: 嘱託ってどんな仕事なの 十詩子: 仕事は 会社全般の調査なんですって 今まで私がやってきたことと 大体同じです。 私って 暗算ができるから 重宝がられているの 悟: 勤務時間はどのくらい? 十詩子: たぶん 週に3日くらいで 半日だと思います。 悟: 勤める場所は 尼崎工場なの 十詩子: たぶん 尼崎工場か 大阪支店に 報告に 東京に行くこともあるかも知れません。 悟: それならいいんじゃないの 僕がいるときは 家にいるんだろう それならいいと 思います。 悟に 社外取締役のことは 言えませんでした。 嘱託とだけ言って 嘘をついてしまったのです。 罪悪感が残りました。