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ロフト大好きの71歳の老人の日記です

アスカルの童話 桃太郎とアスカル エピソード3 ジョン 故郷への帰参

アスカルの童話 桃太郎とアスカル エピソード3 ジョン 故郷への帰参

検非違使別当に任じられ京を旅だった
桃太郎の一行は
桃太郎とジョン・猿・キジ・
騎馬侍100人・従者200人・人足300人から
なりその威勢は日本中に知れ渡っていました。
桃太郎の名前を聞くだけで
たいていの悪人はひれ伏すので
殆ど争いもなく鍛冶屋の辻まで一行は進んできました。
ここより3日の行程のところにある
みやこ鳥の三兄弟を攻めるためです。
軍議が開かれ桃太郎は
「みやこ鳥の三兄弟は
日本中で一番手ごわい悪党の集団である。
これを屈服させない限り
日本に平和が来ない。
皆の意見を聞こう。」と言いました。
まずキジが
「何度も、彼の地を調べましたところによれば、
みやこ鳥配下の兵は500騎ですが
各地より悪人を集め
今は1000騎ばかりに増えています。
居城は、20尺ばかりの塀で囲われ
塀の上には望楼があり
昼夜分かたず兵が見回りしております。
また昼間は城下まで見回っています。」
と報告した。
それに続き猿が
「今攻め立てるのは得策ではないと考えます。
烏合の衆徒といえども
今は戦意が高いと察せられます。
今から2ヶ月も経ちますと
田植えの時期になり
応援の者の中や配下の中にも
帰るものが出るでしょう。
また悪党の集団 戦意も下がると思います。
2ヶ月ここに滞在し相手に油断を与えるのが
定法かと存じます。」と言上しました。
ジョンは
「誠にもっともな兵法
この鍵屋の辻は両側を山に囲まれ
通じる道は細く二本だけ
天然の城でございます。
この地に逗留しても敵の急襲はありますまい。
ここで様子をうかがいましょう。」
と続きました。
残る者たちも同じ意見であったので
桃太郎は2ヶ月ここで待つことになりました。
従者人足によって仮の住まいが作られました。

夜半になって桃太郎は
ジョン猿キジを呼んで
「この地から皆の故郷まで
わずかの距離にある。
2ヶ月の猶予があるので
その間帰参しなさい。
ジョン今より大庄屋の元に帰り
飼い主に忠を尽くすように。
サルは群れに帰り母猿に会うように
キジは自由に飛んで帰えるように
永い間私に付いて一度も帰らず
奉公させてすまないことをした」
と言いました。
キジはそれを有難く聞いて
その場から離れました。
一方ジョンは
「奉公は飼い主の命で行っていることです。
犬にも拘らず検非違使の佐の地位につけたのも
ひとえに桃太郎様の人徳のおかげ
決して我が飼い主はふそくに思ってはおりますまい。
帰参するなど とんでもないことでございます。
桃太郎様こそおばあ様のところにお帰りください。」
と答えました。
「ジョン 検非違使の佐になったからこそ
帰参を許すのです。
おばあ様が大庄屋との約束を果たせたことを
示すために帰ってもらうのであるから
帰参は、私の命である。
私はおばあ様に『大臣になるまで帰るな』
と言われているので帰るわけにはいけない。」
と桃太郎はジョンの手をとり言いました。
ジョンと猿は桃太郎の命というので故郷に帰ることになりました。

ジョンはその日のうちに旅立ちました。
ジョンは、走りました。
その日は十六夜でとても明るかったので、
月が南の空に昇るまでに
ジョンは大庄屋の屋敷の見える峠まで
たどり着きました。
峠で月明かりの照らされた屋敷を見たジョンは
涙を流しながら遠吠えをしました。

一方大庄屋は、その手下を常にジョンの近くにおいて
逐一ジョンの手柄についての知らせを受けていました。
その日も近くの鍛冶屋の辻に泊まっていることを知っていました。
寝ていた大庄屋は遠吠えを聞きました。
すぐにそれがジョンの声と気づき
家人に命じてすべての明かりをつけさせました。
それから門前に伏してジョンを待ちました。

ジョンは明かりがついた屋敷に走って近づき
門前の大庄屋の前で止まり座りました。
ジョンは「桃太郎様の命により
帰参いたしました。
大庄屋様には永い間の不忠お許しください。」
と伏して言いました。
それに対して大庄屋は
「お手をお挙げください。
あなた様は検非違使の佐の位にあるお方
私は無位無官のただの庄屋でございます。
どうかお立ち下さい。
永い間のお勤め誠にご苦労様でございます。
中に入ってください」
と言って大庄屋は、
ジョンを家の中へと
連れて行き
「どうかお家に上がって座敷にお座りください」
と続けて言いました。
それに対してジョンは
「そのようなことはできません。
検非違使の佐になったといえども
私の飼い主は大庄屋様
大庄屋様の命で桃太郎様に使えているだけでございます。
飼い主より偉くなることはできません。
私はこの土間の端で
夜露だけしのげれば十分でございます。
どうかここにいさせ下さい。」とこたえました。
大庄屋は、その言葉を聞いて涙しながら
「それでは、その土間を座敷にいたしましょう。」
と言って家人に命じて
座敷の畳を広い土間に敷かせ
その上にジョンを座らせ
大庄屋は隣に座りました。
それから何日も
祝賀の宴を開きました。

数日経って知らせを聞いた
桃太郎のおばあ様も
大庄屋の家にやってきました。
おばあ様は、ジョンに
「永い間桃太郎についてくださってありがとうございます。
桃太郎が手柄を上げられるのは、
これひとえにジョンのおかげです。
大庄屋様にも会いたいだろうに
辛抱していただいて誠にすまなく思います。」
といいました。
これに対してジョンは、
「いえ とんでもございません。
桃太郎様の器量がそのようにさせるのです。
私は、ただただ お供をしているだけです。」
と答えました。
また大庄屋は
「おばあ様私の飼い犬をこれほど立派にしていただいてありがとうございます。
おばあ様が最初に来られたとき
桃太郎様のうわさは聞いていましたが
これほどにまでジョンを
立派にしていただけるとは思ってもいませんでした。
今だから打ち明けるが
私は少し疑っていて
配下を見張りにつけていたのです。
将来が見えないときは、
ジョンに帰るように命じようと思っていたのです。
しかし、知らせは手柄ばかり
今は、そのようなことをした私を恥じるばかりです。」
と おばあ様に言いました。
その日は寡黙なジョンも
おばあ様に桃太郎の数々の手柄話を
話したそうです。

そんな楽しい日々も60日が過ぎて
出仕の日が来ました。
その日の朝
土間の畳の上で
大庄屋とジョンは向かい合って座りました。
大庄屋は、7年前と同じく水杯を黙ってジョンにすすめました。
ジョンは黙って飲み干し一呼吸おいてから
「これより出仕いたしますが
これは大庄屋様の命じるところです。
もし大庄屋様に新たな命がありますならば
飼い犬の私はそれに従うのが大義でございます。
大庄屋様新たな命はございませんでしょうか。」
と涙を浮かべながら言いました。
大庄屋も涙を流しながら
「私は、ジョンに新たに命ずるところなどあろうはずがありません。
桃太郎に従い手柄を上げることを命じます。」
と答えました。
ジョンは、それを聞いて
長く伏した後すっくと立ち上がり、
大庄屋様 
今が今生の別れになるかもしれませんが、
お元気でお暮らしください。
しからばごめん。」と言って
峠の方に向かって後ろを振り返らず
駆けていきました。
峠に着くと遠吠えを一声出して
消えました。

大庄屋は日が暮れて真っ暗になっても
なお峠を見ていました。