ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

ブログ小説「ロフトの妖精 スイーツ編」全話

本当は
「アスカルの一生」を
書かねばならないところですが
アスカルの事を思い出すと
気が滅入って
困ってしまいますので
書くことを
一時中止しております。

別のものをと考えたとき
私のもうひとつの事業
菓子製造業を
書いてみようかと思いました。

それで
万能の力を持った
星子が
手伝ったら
さぞかしうまくいくのではないかと
思ったのです。

そこで
星子と
役に立つかどうかわかりませんが
にわか妖精の剛の登場です。

ズーッと
読んでいる人なら
星子は
流れ星の妖精で
年齢は400才
妖精の中では
若手です。

妖精の世界では
その仕事を割り振るために
AAプラスからdマイナスまで
23段階にランク分けしてあります。

妖精には知られないように
部外秘になっています。

星子は
下から5段目の
bbになっています。

最上ランクの
AAプラスの妖精は
ふたりだけで
ひとりは
前にも登場したことのある
湖の妖精湖子です。

この度の仕事は
相当難易度が高く
aランク以上の妖精が担当するのが
適切であると
神政庁は考えていましたが
神さまの
意志で
星子とその他一名に
決まったのです。

付け加えますが
剛は
最下段のdマイナスにも至らない
ランク外ですので
指図書には
その他一名となっているのです。

さて
星子と剛は
使命を達成できるでしょうか。
星子と剛は
召喚状を持って
神政庁の課長のところに
行きました。

課長から
指図書を受け取り

いつものように
経理課で
経費を受け取り
帰り始めたとき
神さまから
呼び出しがありました。

神さまから
直接呼び出されることは
ほとんどないので
星子はびっくりしました。

剛は
そんな事さえ知らないので
神さまに会えるなんて
嬉しくてたまりません。

星子と剛は
控え室で待ちました。

剛:
神さまに会えるって
嬉しいな
人間だったら
生きている間に
絶対に会えないもの

星子:
そうよね
でも
剛は
もう死んでいるのよ
残念ながら

剛:
えっ
そうなんですか
今まで
わからなかった。

星子:
ところで
神さまに会えるって
本当に珍しいことなのよ

私なんか
妖精になってから
100年ぐらいは会ったことはなかったわ

指図書の中身の問題かしら

新しいお菓子を作るって
書いてあるけど

剛:
私はお菓子が好きだから
新しいお菓子って
良いですよね。

お菓子屋さんになってみたかった

星子:
食べる方じゃなくて
作る方なのよ

剛:
そう
そう
作ることですよね。

今までに作ったことがないな

星子さん
魔法で
パーと
作ってみたら

星子:
そんなことできないわ
何を作るかがわからないで
作れるわけ無いでしょう

剛:
そうだったのか

そんな話をしていると
順番が来て
パーと
神さまの前に
行きました。


妖精もそうですが
神さまは
形がありません

精神だけのものですが
はっきりと
存在はわかります。

ランク外の
妖精の
剛にも
形のない神さまの
存在はわかりました。

神さまの
計らいで
妖精の世界で
初めて
人間と結婚した
星子は
結婚する前に
会ったきり
会っていなかったので

星子:
神さまありがとうございます。
剛と結婚できたのは
神さまのおかげです。

そのうえ
剛も
妖精にしていただき
永遠に
一緒に暮らせて
本当にありがたいと
思っています。

神さま:
星子を
いつも見ていますが
幸せで嬉しいです。

剛も幸せで良いね

剛は
星子が本当に好きですよね

剛何か
要望はありますか

(神さまが
妖精の要望を聞くことなど
皆無ですが
こんな事を知らない
剛は)

剛:
、、、、、、、
、、、、、、
神さま
申し上げます。
人間界に行ったときには
星子さんが
見えるのですが
今は
声だけしかわからないので
神界でも
形が見えたら
嬉しいです。

神さま:
そうかもしれませんね。
でも
もう少し
妖精として
鍛錬すれば
星子が見えるようになりますよ。

剛:
鍛錬すればいいのですか
あと何年くらいかかりますでしょうか

神さま:
それは剛の能力と努力で決まると思うが
剛の場合は200年くらい

剛:
恐れ入りますが
申し上げます

200年も
見えないとは
残念です。

この上は
人間界に
長くとどまることのできる
使命をお願いします。

神さま:
そういうと思って
今回は
なかなか達成できない課題です
がんばって下さい


神さまがそういった瞬間
パーと人間界に到着しました。」





今回
星子たちが
助けることになる女性は
穴太早樹
と言います。

穴太衆の末裔で
おじいさんは
田舎で農業をしていましたが
父親の時代に
都会に出てきて
普通の
サラリーマンの
子供として
生まれました。

早樹が
幼稚園に
4才から行ったとき
母親が
持ち物に
ひらがなで
「あのうさき」と
書いてくれました。

だんだんと大きくなって
ひらがなが読めるようになったとき
友達が
早樹の名前の
ひらがなを
読みました。

「あのうさき」
「あの うさき」
「あの うさぎ」
「あのウサギ」と
読んでしまったのです。

ちょうど幼稚園の組が
「ウサギ組」だったので
早樹は
嬉しくなって
その時から
早樹は
「ウサギちゃん」と
呼ばれるようになりました。

小学校や中学校・大学と
自己紹介の時に
ニックネームは
「ウサギ」ですと
言ったので
誰も早樹のことを
早樹とは呼ばず
ウサギちゃん
ウサギと
呼んでいました。







早樹こと
ウサギちゃんは
普通に
大学を卒業して
普通の会社に就職しました。

いや
普通の会社に
就職したつもりでした。

少し
現場の仕事があるとは聞いていましたが
本来は事務職として
勤めたはずだったのです。

最初は
先輩に習って
事務で
パソコンの仕事を
していました。

時々は
現場に出て
軽い仕事を
やっていました。

就職してから
数ヶ月が経って
仕事に慣れたとき
社長から
思いもよらぬ事を
伝えられました。

社長曰く
「わが社は
新製法の菓子製造法を
発明することができました。

ついては
その製造法を用いて
菓子を作って
販売して欲しい。

新しい
菓子製造法については
私が
教えることができるが
その他については
君が
すべて考えて欲しい。

レシピを作って欲しい」と

突然のことで
早樹は
質問することすら
わかりませんでした。

言われるまま
翌日
社長が作った
研究施設
通称「キッチン」に
行きました。

まず早樹は
昨日から
頭の中を整理して
一番の
疑問点を
社長に聞きました。


早樹:
社長
私ではなく
本職の
ケーキ作りの
パティシエに
してもらったらどうでしょうか。

それに対して
びっくりする
社長の答えが
帰ってきたのです。






社長は
「プロのパティシエでは
絶対に作らないような
ものを作るために
アマチュアの
君を選んだのだ。

私が考え出した
キスワンを
使いこなして
美味しいものを作って欲しい。

よろしく

早速だが
使い方を教えよう」
というのです。

菓子作りに全く経験のない
私が
適任と
言うのです。

何も知らない方が
良いのだとも言うのです。

何と言うことでしょう。

経験もなく
聞く人もいなく
孤立無援で
開発するとは
目の前が
真っ暗になるような気がしました。

社長とともに
研究室と呼ばれる
小さなお部屋に
入りました。

そこには
見たこともない
ステンレスの
ピカピカの機械が
座っていました。

社長が
「なんだこうだ」と
説明していましたが
早樹は
不安で
あまり理解できませんでした。

疲れて
家に帰って
、、
食事もできずに
悩んでいました。






困り果てた
早樹は
ロフトの窓から
遠くに見える
六甲の山並みが
消えて
星が出てきました。

早樹は
なおも
星空を見つめ続けました。

そして
夜空に一線の流れ星が
流れたとき
早樹は
「助けて」と
小さくつぶやきました。

そんな
真っ暗な
部屋の
玄関で
物音がしたのです。

「ごめんください。」と
誰か家に
訪れたのです。

早樹は
宅配便かとおもって
ドアを開けると
若い女性と
老人が立っていました。

星子と剛です。

早樹は
何か宗教の勧誘か何かと思って
強い口調で
「なんですか」と
訪ねました。

星子は
「私は妖精です。
神さまのご命令で
あなたを手助けに来ました。
私の名前は
星子
こちらにいるのが
新米妖精の剛です。

よろしくお願いします。」
といつものように言いました。

普通は
こう言うと
不審がって
扉を閉めようとするのです。

でも
早樹は
その言葉を
すぐ信じて
「妖精が助けて下さるんですか。

私困っているんです。
是非助けて下さい。

こんなところでなんですが
家に入って下さい」と
星子と剛を招き入れるのです。

星子は
そういえば
剛と仕事をして以来
疑われなくなったと
思いました。

星子だけでは
信じてくれないのに
剛と一緒なら
信じてもらえるなんて
どういう理由だろうと
思いました。

剛は
人の良い笑顔
いや妖精の良い笑顔をしていたのかもしれません。

星子は
剛を
こんなところでも
頼もしく思いました。






早樹は
妖精が
ふたりも
やってきて
願いを叶えてくれると
考えると
嬉しくなって
お茶を出しました。

早樹:
私の願いを叶えてくれるって
本当ですか。

星子:
私は神さまのご指示で
こちらに来ました。

はっきり言って
願いを
パーと叶えることは
できません。

少し
助ける程度と
思って下さい。

早樹:
そうなんですか。

棒を一振りすると
一気に解決するんじゃないんですか


星子:
残念ですが
そのようなことは
できません。

人間の力を
高めて
なおかつ偶然を高める程度です。

そう考えて下さい。

早樹は
見るからに
がっかりした様子です。

早樹:
残念です。
がっかりです。

剛:
すみません。

皆様最初は
そのように思いますが
私もそうですが
人間の力で
自分の力で
きっと解決できます。

私たちが
いなくなったときにも
その力は
つづきますから
そんなやり方を
神さまが
決めたのかもしれません。

早樹は
剛の
その言葉に
すこし
明かりを見たような気がしました。



星子は
人間のことは
ズーと勉強してきたつもりですが
人間であった
剛の
人間に対する
感性を
見習わなくてはならないと
思いました。

いつもでしたら
早樹の家に
一緒に住んで
難題を解決するのですが
何しろ
ふたりの妖精が
狭い
早樹の部屋で暮らすことなど
できるわけがありません。

そこで
少し経費を使って
早樹の部屋の
ロフトの上に
もうひとつお部屋を作って
それに住むことにしたのです。

屋根の上に屋根と同じように
ロフトの上に
ロフトを作ったのです。

もちろん人間には
見えないお部屋です。

星子は
マニュアルどおり
魔法を使って
剛から見ると
わりと簡単に
サッサッと
作ってしまいました。

剛:
星子さんすばらしい

星子:
大変なんですよ
一日の疲れが
ドッと出ました。

剛:
ロフトで休んで下さい。

そんな言葉を
聞いた
早樹は

早樹:
どうしたんですか

剛:
このお部屋は
狭いので
もうひとつお部屋を
作ってしまいました。

早樹:
どちらにですか

剛:
ロフトの上です

早樹:
えっ
ロフトの上?
私も見たいです。

すごい力ですね

剛:
残念ながら
人間には
見えないみたいです。

あそこにあるんですが

剛は
ロフトの上の方を
指さしました。


妖精を
ふたり派遣すると
大きな経費がかかるので
神政庁としては
剛に早く自立するか
妖精養成学校にに行くか
して欲しかったのですが
神さまの
ご指示で
そのようになってしまいました。

ちなみに
ロフトの上に
ロフトを作る
経費は
Cクラスの事例を解決するために
支出する
経費の
2倍要るみたいです。

そんなこんな
経費を支出して
早樹の願いを
叶えようとしているのです。

星子は
手早く
夕食を作って
早樹と
星子・剛は
食事をしました。

食事をしながら
星子たちは
早樹の
困ったことを聞きました。

星子は
料理は得意ですが
お菓子作りは
あまり作ったことがありません。

剛は
お菓子は
買って食べるものとしか
思っていませんので
作ったことなどありません。

社長が
新しい料理の製法
コムステックス製法
について
書いた
簡単なものを
見ました。

剛は
工学系ですので
何となくわかりましたが
星子は
ほとんどわかりませんでした。

食後
話し合いましたが
名案など無いので
明日
キッチンに行って
見てみようと言うことになりました。


会社の
キッチンは
部外秘と言うことで
社外の人は
見る事はできません。

星子・剛は
魔法で
見えなくなって
キッチンに入りました。

キッチンは
社内の人でも
入ることのできる人は少なく
社長と
その奥様くらいでした。

社長が作ったという機械は
「キスワン」と名付けられており
ペール缶程度の大きさで
磨かれた
ステンレスの
容器のように見えました。

この機械は
圧力容器で
容器の中を
真空から
7気圧程度まで
コントロールできるのです。

その上
攪拌できるようになっていて
圧力をかけながら
攪拌することが
できたのです。

攪拌すると
食材は
泡立つものも
多いですが
圧力をかけたまま
攪拌し
常圧に戻すと
泡立つ事が多いのです。

そんな機械を利用して
お菓子を作るというものでした。


社長の言うには
生クリームは3倍
チョコレートは
2倍に膨らむんだそうです。

その日から
スポンジケーキを
作り始めました。

普通の作り方は
インターネットでは
卵の白身または全卵を
砂糖を加え
温めて攪拌して
泡立て
メレンゲを作る。

その中に
素速く
小麦粉その他を混ぜて
焼き上げると
スポンジケーキができると
書いてありました。

そこで
やったことがなかったのですが
キスワンの機械に
温めた
卵と
砂糖を入れ
加圧攪拌常圧に戻すと
メレンゲは
考えもつかないほど
大きくなりました。


そのメレンゲに
小麦粉を
「手早く」混ぜると言うことに
なっています。

そこで
早樹は
心地無い手さばきで
小麦粉を混ぜました。

メレンゲは
だんだんと
小さくなって
見るからに
貧弱になりました。

それを
型に入れて
焼きましたが
膨らまなかったのです。

あとでわかることですがこの
メレンゲに
小麦粉を混ぜる
あるいは
もっと進んで
バターや
油
チョコレート
生クリームを
入れて
混ぜることは
本職の
菓子職人しか
できない技術です。

難しいと言うことも
知らない
早樹や
星子・剛は
その日一日
同じ事を
繰り返しました。

あーでもない
こーでもないと
試行錯誤しながら
繰り返したのですが
5時になったので
退社することになりました。

早樹の会社は
どんなことがあっても
残業しないというのが
大原則の会社なので
さっさと
退社しないと
問題になってしまいます。

早樹の
一日目は
こんな風に終わって
気落ちしていました。

気落ちしたのは
早樹だけではありません。

星子・剛も
もっと
落ち込んでしまいました。

星子は
湖子様なら
こんな時は
魔法で
うまく解決するのに
私は
まだまだ未熟だと思いました。

剛は
そんな魔法のことなど
考えずに
科学的に
解決する方法はないか
考えました。





剛は
冷静に考えていましたが
早樹や
星子は
闇雲です。

やはり行動する方が
良いのではないかと
早樹や
星子が考えることができる方法で
やってしまうことになりました。

翌日も
そしてその次の日も
3日続けて
行って
金曜日の夕方になりました。

星子は
行う方法はないので
あと一回
究極の
実験をすることになりました。

スポンジケーキを作るときは
卵と砂糖を混ぜ
泡立てた物に
小麦粉を混ぜて作るのですが
もう
最初から
一緒に混ぜてしまうと言う
方法です。

キスワンの
内容器に
卵を入れ
小麦粉と砂糖を
入れました。

容器の蓋を閉じ
空気で加圧し
5気圧にします。

攪拌用スイッチを入れて
羽を回して
卵と砂糖・小麦粉を
激しく攪拌します。

キスワンには
中が見える
窓と
中を照らす
LEDライトがついていて
攪拌の状態が見えます。

窓から見る限り
泡立っていないように見えます。

3人は
これは失敗と
思いました。

いつもは
5分くらいしか攪拌しないのに
10分攪拌しました。

攪拌をとめて
圧力開放用
バルブを
開きました。

サイレンサーから
いつものように
空気が逃げていき
ゲージが
下がっていきました。

0Mpになったので
開くことになりました。

いつもは
ガラス窓から
見るのですが
今回は
見ませんでした。

大きなメガネレンチで
ボルトを回して
キスワンのフタを開放すると
びっくりするような光景が見えました。




いつもは
小麦粉を混ぜると
泡が消えて
シュンとなって仕舞うのですが
なんと泡立っているのです。

早樹は
飛び上がって喜びました。

星子も
同じように
喜びましたが
剛は
信じられませんでした。

通常のレシピでは
小麦粉と卵を一緒に混ぜて
泡立てるなど
もってのほかと
思っていたからです。

焼き上げたら
小さくなってしまうのではないかと
剛は思っていたのです。

3人はおそるおそる
焼き型に入れて
焼き始めました。

3人は
心配そうに
オーブンをのぞきこみながら
見てました。

焼き始めると
最初は
膨れますが
焼き終わって
冷めると
しぼんでしまうので
冷めるまでは
心配で
ジーと見ていました。

もう縮まないと
思ったとき
お互いに顔お見合わせ
抱き合ったしまいました。

早樹の喜びは
普通ではありませんでした。

少し涙目で
喜んでしまいました。

それを見た
剛も
「もらい泣き」
になってしまい
星子だけが
単純に
喜んでいました。

既に
6時近くになったので
電気のついた
キッチンに
社長はやって来ました。

社長は
1人で喜んでいる
早樹を
少し不審に思いましたが
突破口ができたことを
心から喜んでいました。

その日は
早樹の家に帰っても
明日からのこと
話して
星子たちが
ロフトに戻ったのは
11時頃でした。







11時にロフトのお部屋に帰った
剛と星子は
眠たくて
疲れていましたが
何か話したら無いような気分でした。

妖精は
人間界にいるときだけ
肉体があって
疲れたり
眠たくなったりします。

神界にいるときは
寝ると言うことなどありません。

剛:
人間界に戻ってくると
星子さんが見えるし
触ることもできるし
本当に嬉しいんだけど
人間の
望みを叶えなければならないという
仕事の
重みが
きついです。

それに
精神的ストレスというか
このストレスは
人間特有ですよね。


星子:
人間界にいると
疲れるのはわかるけど
精神的ストレスというのは
私には
理解できないわ

良く人間は言うけど
精神的ストレスって
何?


剛:
星子さんは
精神的ストレスがないんですか。

星子:
たぶん
意味はわかりますが
妖精は
そのようなことはないと思うわ

でも
剛が
病気になったとき
心配したわ

それが
精神的ストレスかな

剛:
その時は
私を救ってくれて
本当にありがとう

精神的ストレスを
与えてごめんね


星子:
そんな

剛:
星子さんは
本当に
ボクにとって
幸運の女神
いや
幸運の妖精です。

星子:
そんなー
私も
剛は
幸運の人間よ
今は
同じ
幸運の妖精だけど



2人の幸運の妖精は
そんな話をしながら
夜を過ごしました。

早樹は
少し早めに起きて
朝ご飯の用意をしていました。

星子は
物音で目覚め
早樹のところに行きました。

早樹:
おはようございます。

星子:
おはようございます。

早樹:
前から気になっていたのですが
星子さんと剛さんは
仲が良いみたいですが
ご夫婦なんですか。

結婚されている
妖精なんですか。

星子:
そうなんです。
神さまのお計らいで
夫婦で
妖精のお仕事を
しているんです。

早樹:
良いですね。
うらやましいわ

星子:
剛さんと一緒に入れて
幸せです。

特に
人間界にいるときには
形があるので
剛さんは
私が見る事ができて
嬉しいみたいです。

私は
神界にいるときでも
見えるんですが

それに
剛さんは
初めて
人間から
妖精になった者で
人間の心情が
読み取れる
貴重な妖精なんです。

きっと
神さまも
そんなところを
見ていらっしゃるのかもしれません。

早樹:
私も早く結婚したいわ

お菓子も良いけど
女性の幸せは
やっぱり
結婚ですもの

星子さんは
そう思いませんか。

星子:
妖精の中で
初めて結婚した
私ですので
妖精の幸せが
結婚だという
考えは
出来上がっていません。

早樹さんは
好きな人いないんですか。

早樹:
それは、、、

そう言いかけたとき
剛が
ロフトから
眠たそうに下りてきました。




早樹と星子の
いちおう女同士の話は
そこで終わりました。

剛は
何か
場違いな感じがしましたが
魔法で
消えることもできずに
何となく朝食を
一緒にとりました。

そして会社に着くと
社長が待ち構えていて
早樹に言いました。

社長:
昨日は
すごく良い物を作ってくれてありがとう

そんな作り方で
できるとは
やっぱりキスワンはすごい
それに
穴太さんが
そんな方法を見つけ出してくれて
うれしい

味もなかなかのものではないか

軽い感じが良いよね

今日は
色んな条件を変えながら
どんな物ができるか
確かめて欲しい

今日も良い物を作ってね

また夕方
食べに来るよ

穴太さんがんばってね


そういって
嬉しそうに出ていきました。


星子や剛は
姿を消して
その話を聞いていました。

星子たちの
力ではありませんが
少し解決して
良かったと思いました。

その日は
単純に
条件を変えて
作りました。

大方の物は
軽-く出来上がりました。

しっとりは
作れないのかと
考えてみました。






昼からは
しっとりするためには
油を入れなくてはならないのではないかと
考えました。


レシピでは
溶けたバターを
素速く
混ぜると書いてありました。

そのようにしようと考えましたが
小麦粉と同じで
うまくできないのではないかと
考えました。

同じように
一緒に混ぜれば
良いのではないかと
仮定して
そのようにやってみました。


キスワンから出したときは
ちゃんと膨らんでいました。

でも
オープンで
焼き始めると
最初は
膨らみ始めます。

でも
焼き終わると
だんだんと
しぼんできます。

最後には
団子のように
堅くなって
ケーキではなく
甘いせんべいになって仕舞ったのです。


せんべいは以外と美味しいと
剛は思っていましたが
洋菓子店で
そのような物を
販売するのか
良い物かどうか
すぐにわかりました。

色んな条件を変えて
やってみました。

圧力を変えたり
温度を変えたり
分量を変えたりしました。

でも
でも
ダメだったんです。

早樹は
がっかりです。

社長は
楽観的で
「実験は失敗のためにある」などと
言ってはいますが
早樹は
がっかりです。

それを見る
星子も
剛も
がっかりです。

でも
剛には
もうひとつの考えがあって
早樹さんの望みが叶わないと
人間界に永くいられるので
嬉しいのも
事実です。

星子さんの
姿が見れるのは
嬉しいのです。










早樹にとっては
剛が星子と人間界に
一緒にいることができるから
ゆっくりと
お菓子作りをしているのではありません。

社命で
開発しているので
やはり
てきぱきとして
業績を上げたいと
思っていました。

社長は
失敗して当たり前と
言ってくれますが
やっぱり
成功しないと
不安です。

星子も
早樹の
心がわかるので
何とかならないか
色んな事を
調べました。

剛もそれを見て
考えて
ひとつの
名案-迷案-を
思いつきました。

最初は
膨れているけど
焼き上がると
しぼんでしまうのだから
「膨らんでいるときに
パーと
固めたら」
という考えです。

星子の
魔法を使うと
瞬時に
固めてしまうこともできますが
そんな方法で作っても
仕方がないので
強力な
電子レンジの熱で
固めてしまうというものです。

1000wの
電子レンジの
力で
やってみました。


キスワンで
膨らましたもとを
シリコーン型に入れて
「電子レンジでチン」したのです。

キッチンに置いてある
電子レンジは
実際は
チンといわずに
ピッピッ
と言いましたが
それほど
しぼまず
焼き上がりました。







剛の助言で
電子レンジで
焼く案は
名案でした。

しぼむ前に
固めてしまうという
剛の考えは
理科系の
考え方だと
星子は思いました。

星子には
そんな発想はできないと
思いました。

やっぱり
剛は
「すごい」と
改めて思ったのです。

で も
社長が
やって来て
形を見て
絶賛した後
食べてみてから
不審にお思ったのです。

社長のいうには
「何となく
違う
旨味というか
かおりというか
違うような気がする。」
のだそうです。

早樹や
社長には見えない
剛や星子は
そういわれて
食べてみました。

そういわれると
風味がないというか
何か足らないというか
3人は試食しましたが
どのようなものか
わかりませんでした。

その日は
最初は
喜びましたが
あとから
何か
表現できないような
疲れた感じになって仕舞いました。

家に帰って
早樹と星子は
夕食を
作り始めました。

今日は秋刀魚の
良いのがあったので
焼きました。

大根下ろしを添えて
食べ始めたとき
そのとき
3人は
気が付きました。


3人は
秋刀魚を食べながら
相次いで
パッと
気が付いたのです。

時を同じくして
一緒に
「香り」と
言いました。

そして
お互いの顔を見合わせ
「電子レンジで
焼いたものは
香りが少ない」と
続けて言いました。

小麦粉を
焼いたときには
色んなものができて
良い香りのものが
できるという話を
剛は聞いたことがありました。

またその香りを
付けることもできると
何かのテレビ番組で
見たことがあったのです。

美味しい秋刀魚を食べながら
早樹たちは
明日には
電子レンジで
軽く加熱した後に
焼いたらどうかと
話し合いました。

そんな話をしながら
剛は
早樹に
別のことを
話しました。

剛:
早樹さん
私たちが来てから
早樹さんは
会社のキッチンと
このアパートとの
往復で
失礼ですが
他のところには
行かれないんですか。

私たちには
遠慮せずに
生活して下さいね。


早樹:
、
、、
わかりました。


早樹は
少し
機嫌を害したように
見えたので
慌てて
星子が
「剛さんに何を言うのよ

早樹さんすみません。」
と言いました。

早樹は
星子たちが
来る前から
家と会社の
往復だったのです。
















早樹には
友達が
少ないのです。

というか
普通に育ったつもりですが
小学校中学校と
少しいじめを受けて
友達よりも
家族と仲良くしていたのです。

大学時代には
早樹に
言い寄る男子学生もいたのですが
早樹は
相手にせずに
スルーしていたのです。

大学を卒業して
こちらの会社に
就職して
ひとり暮らしを始めると
友達は
いなくなってしまいました。

それに
ひとりだけ
スイーツの開発を
命じられ
職場の友達とも
疎遠になって仕舞ったのです。

早樹は
そんなことは
気にしなかったのですが
星子と剛が
仲良しなのを見て
人恋しく
思ったのかもしれません。

それに
剛にそんなことを言われて
落ち込んでしまいました。

スポンジケーキの問題も
解決しそうな気がするのに
、、、、

早樹は
仕事に打ち込んで
忘れようとしました。


翌日
電子レンジを
使う時間を
短くして
なるべく焼くようにする方法で
何度も確かめましたが
うまくいきませんでした。


3日ばかり
条件を変えながら
やりましたが
満足なものは
得られなかったけど
早樹は
ただただ
がむしゃらに
こなしていきました。





早樹が
がむしゃらに実験すればするほど
星子たちは
肩身が狭くなっていました。

早樹を助けるために
やって来ているのに
余計に
重荷になっている
状態だからです。


星子たちは
この状態から抜け出すためには
ふたつの方法しかないと考えました。

ひとつは
「スイーツ作りに成功する」
もうひとつは、
「早樹さんに
良いお相手を見つける」と
いうものです。

星子と
剛は
この難しい課題を解決するために
考えました。

元々理科系の
剛は何とかスイーツを
成功させたいと思って
なぜ
焼くとしぼんでしまうのか
考えました。

星子は
早樹と仲良くなれるような
友達を
探すことにしました。

まず
スイーツですが
早樹たちが考えた
チョコレートの
スポンジケーキですが
チョコレートとだけを
卵と混ぜると
分離するので
生クリームを
入れています。

生クリームは
低温の時に
泡立つので
少し冷やして
泡立てていたのです。

でも
焼くと
当然
温度が上昇し
小麦粉が固まるまでに
泡が潰れてしまうのではないかと
考えました。

そこで
よく考えると
同時に混ぜている
卵は
高温の時に泡立つので
高温で混ぜれば
どうなのか
確かめてはどうかと
早樹に提案しました。



何でも確かめるという
社長の方針に従って
剛の提案を受けて
高温でやってみることにしました。

最初は
高温と言っても
35度程度で
やってみました。

例の機械
キスワンを
35度に設定しました。

キスワンは
攪拌槽の温度を
自由に設定できるように
圧力槽との間に
お湯または水を入れることができるのです。

お湯を入れて
温度を調整して
35度程度になったとき
卵・生クリーム・小麦粉・砂糖を入れ
蓋を閉めて
加圧して
攪拌しました。

いつもどおり
圧力を抜くと
泡だって
大きくなっていました。

いつものように
電子レンジではなく
オープンで焼くことになりました。

いつもなら
最初
プーッと
大きく膨らみ
それから
徐々にしぼみはじめ
焼けた頃には
見るからに小さくなって
冷えると
もっと小さくなって
せんべいのような状態になるのですが
今回は
適度に膨らみ
冷えても
それほどしぼまず
大きいままなのです。

これは
今までにない
スポンジケーキです。

風味もあって
及第点まではいきませんが
まずますのできです。

少し難を言えば
団子のようなのが
気がかりです。

まずは
小成功と言うことで
3人は祝杯を
上げました。






早樹のもうひとつの課題は
星子が担当と
暗黙の内に
決まってしまいました。

早樹の
お相手になるような
人は
早樹のまわりを
見回しました。

会社で必ず会う
社長は
60を越えた妻帯者
経理はおばさんで
特に同僚はいません。

隣近所に住む人は
妻帯者か
おばさんだし
お稽古事や
文化サークル
体育系のスポーツクラブにも
行っていないし
どうも
早樹のまわりには
誰もいないことが
すぐにわかりました。

紹介業者に
頼むことも
考えましたが
妖精の星子が付いていて
それはないと
考えてしまいました。

そこで
誰か良い人がいないか
妖精の先輩に
聞いてみることにしました。

魔法の力で
スーッと
返事がやってきました。

「相性的には
この人」と
断定的な
返事です。

では
その人を
リサーチにするため
行ってくると
剛に言って
次の日
出かけました。



星子は
こんな事を
前にも何回もしたことがありますが
やはり緊張します。

人の一生を決めるような
結婚を
仕掛けるのですから
やはり
緊張します。

星子は
資料を見て
「お相手の
男性は
無職?

えっ
無職
そんな
そんなことで
幸せに成れるの」と
思わず独り言を
言ってしましました。

魔法の力で
相手を
決めたので
間違いはないと思うのに
なぜ
無職なんだろうと
星子は
不審に思ったのです。

名前は
明といって
早樹の近くに
住んでいるみたいです。

特技は特になく
職歴は
ありふれた
コンビニとか
居酒屋です。

どこにでもいる
人みたいですが
相性は合うのでしょう。

さてどの人かと
待っていると
ぼさぼさの髪の毛で
風采の上がらない
男性という印象です。

早樹さんには
可哀想みたいというのが
印象でした。

間違っていないか
妖精の
最高の地位にある
湖子様に
尋ねてみました。


小一時間
明の家の前で待っていると
湖子様のほうから
返事が来ました。

間違いないので
がんばって出会いを
演出して下さい。

いつものことだけど
出会いを演出するのは
疲れるのです。

劇的にすべきか
何となくの出会いにすべきか
迷うところです。

「莉子の時は
劇的だったわ。

私たちの時は
何となくかしら
劇的ではなかったと
思うけど
剛さんは
『劇的』と
考えているらしいのよね

今回は
何となくで行きましょう。」

そう考えて
早樹の家に帰りました。


早樹が
わりと
スイーツで
成功していると聞いて
嬉しく思いました。

翌日
早樹は
社長に呼ばれます。

「相当
研究が進んでいますね。

そろそろ
ケーキ屋さんを
始める準備を
お願いします。

お店は
駅前にありますので
まず
小さな店で始めて下さい。

チョコレート菓子なんかも作って下さいね。

あなたの手助けになるかどうかわかりませんが
あまたの部下になる人を
新たに雇い入れることにしました。

今求人を出しているところですから
しばらく待ちなさい」
と
言われてしまいました。

会社に入って
まだ
4月ほどしか経たないのに
部下とは
何と言うことかと
早樹は思いました。





早樹は
事が大きくなってきていて
責任がだんだんと大きくなっているのを
感じました。

今までに掛けた会社の経費も
わかっていますので
そんなたくさんのお金が
早樹の
力で
生きるかあるいは無駄になるかが
決まるのです。

早樹は
そのことを
星子・剛に
話しました。

星子は
これだと思いました。

明を
その求人に応募させるのです。

そうしたら
一気に出会って
相性が合っているから
恋が芽生えて
そんな筋書きを
考えました。


剛に話をすると
「それは無理がある」と
答えたのです。

パソコンで
求人票を見てみると
資格のところが
ケーキ製作中習者と
なっているのです。

明は
ケーキ屋さんに
勤めたことないので
資格がないと言うことになります。

星子は
うまくいかないものだと
思いました。

でも
明を
ケーキ職人に仕立てても
良いのではないかと
思ったのです。





明を
ケーキ職人にしてしまうと言う
やり方を実行するためには
相当な
経費と
魔法の力がいります。

そのような経費は
指図書にはないので
そんな事はできません。

その上
そのような魔法を使うためには
もっと
熟練を積んで
ランクが相当上でないと
出来ないのです。


また
明を
通常の方法で
訓練させていたら
とても間に合わないので
やはり
同じ職場で出会うというのは
無理があるようです。

こうなったら
ずぶの素人の
明を採用させるよう
社長に
魔法を使ってはどうかという
考えに至りました。

ケーキについては
全くの素人でも
機械自体が新しいので
そんな案も
うまくいくかもしれないと
思ったのです。

社長に
明を採用させるようするのは
経費も少々しか要らず
星子の力であまりあるものです。

剛にその考えを
話すと
すぐに賛成してくれました。

でも
星子は
剛の心が読めますので
剛の本心は
明のような素人なら
まだまだ
早樹の望は叶わないので
ながく
星子さんの姿を見られると
思っていたのでした。

星子は
笑ってしまいました。




社長には悪いけど
明を
何とか
就職させて
早樹と合わせて
ゴールインさせるという企てです。

目的のためには
手段を選ばすと言う調子なので
こういう場合は
事前に
神政庁の倫理委員会に
申請しなければならないことになっています。

星子の力なら
魔法で
ちょいちょいの
申請で
済むのですが
剛が行うと
たぶん1年経ってもできないものでした。

回答も
素速く
普通は
数分で返ってきます。

でも
この申請の
返事は
なかなか返ってこなかったのです。

丸一日経っても
返ってこないので
星子は
これは大変な申請を
行ったと
わかったのです。

倫理委員会でも
決められないようなことは
神さまの
決裁になっていて
直接
申請者を
招聘して
申請理由を聞く事になるのだそうで
あまりにも
逸脱した
申請の場合は
懲罰の対象とも
なるそうで
星子は
心配でした。

そのことを
剛に言うと
ちょっと心配したあと
神さまに会えることに
気付いて
喜んでいました。








星子が
出会いを
調整しているとは
つゆとも知らない早樹は
仕事に熱中していました。

社長から
チョコレートを入れてみたらと言う
指図に
挑戦中です。

スポンジケーキを作るときに
溶かしたチョコレートを混ぜるのですが
溶かしたそれを
混ぜると
小さくなってしまうのです。

レシピでは
『手際よく混ぜる』と
書いてあるのですが
早樹は
そんな経験など
全くなく
もちろん
教えてもらったことなど無いのです。

何度もしましたが
うまくいきません。

たぶんなんか
コツみたいなものが
あるのだと
思って
早樹はため息をつきました。

その時
剛の
「同じ事ですが
一緒に混ぜたら
どうでしょう」という
助言で
どうでも良いけど
やってみることにしました。

普通なら
絶対にやらないような
手法です。

卵・小麦粉・砂糖・生クリーム・それにチョコレートを
キスワンの中で一緒に混ぜて
泡立てるというものです。

出してみると
泡っていて
オーブンで
焼くと
、、、、、


なんと
出来ていました。

でも
チョコレートを多くすると
軟らかすぎるような
少なくすると
ぱさぱさするような
チョコレートスポンジケーキになって仕舞うのが
欠点でした。







星子と剛のもとに
召喚状が来たのは
早樹が会社から帰ってきたときでした。

「明日倫理委員会に来るように」という簡単な文面で
いつものように詳しい文書は
付いていません。

早樹には
明日は
「神政庁に行かねばならないと」という
簡単に話しました。

その内容を
早樹に聞かれましたが
「わからない」と
答えておきました。

いつものように
スイーツの研究の話を
食後にするのですが
星子は身が入りません。

明日のことが心配なのです。


早樹が
「チョコレートを多くすると
軟らかすぎるような
少なくすると
ぱさぱさするような
チョコレートスポンジケーキになって仕舞うの」
と言って
相談しても
星子は
「そうなの」と答えるばかりで
真剣に考えようとしません。

早樹が
「何かを多くすれば良いんじゃないかと思うんだけど
何が良いかな」と
早樹に尋ねると
星子は
その質問が
頭に入っていません。

早樹が
「星子さん-」と
少し声を高く言うと
星子は
困ったことだと言うつもりで
「こっ、、」と言って
我に返って
声が止まりました。

それを聞いた
早樹は
「小麦粉なの
じゃ明日
小麦粉を少し増やしてみるわ」と
答えて
その日は終わりました。
早樹にとぼけた
答えをするほど
星子は
明日の倫理委員会が心配でした。

それに対して
剛は
ルンルンです。

翌日
早樹が出かけたあと
ふたりは倫理委員会へ出ました。

一瞬で倫理委員会に
到着して
前室で
順番を待っていました。

静まりかえった
その部屋は
その格調の高さを誇示するようでした。

どのくらい待ったか
あるいは
一瞬のことだったのか
剛には
わかりませんが
順番が来て
一瞬に
喚問席に座りました。

倫理委員会は
50人の内局の菩提と
妖精の事柄なので
ランクAA以上の
15人も参加することになっています。


事務局が
今回の星子の申請書の件について
と読み上げます。

意見は
各委員から
発せられますが
星子たちには
全くわかりません。

一部を
湖子が
通訳してくれて
わかる程度です。

それさえ
受け取れない
剛は
音のない空間がつづくだけです。

どのくらいの時間か
一瞬であったのか
気が遠くなるほどの時間だったのか
わからない
時間が過ぎ
神さまは
決定します。

「星子とその他一名
目的が
早樹の幸せであることはわかりますが、
社長をだますのはどうでしょうか。

また技量のない明は
責任の重さを感じないでしょうか。

もっと他の方法で
出会いを演出する方が
望ましいと
倫理委員会の意見は一致しました。

でも
私は
そういう方法で出会う方が
永く
仲良くなれると考えます。

明の技量を
上げることにしましょう。

湖子にこの件は
委すことにします。

星子
がんばって下さい。

それから
その他一名のものも
星子に従って
早樹を助けて
幸せにして下さい。」
と
神さまは
決定しました。











神さまが決定したその時
星子・剛は
早樹の家に戻ってきていました。

永く時間が経っていたのか
瞬間の時間だったのか
いつものようにわかりませんが
湖子も
やって来ていました。

星子:
湖子様
お懐かしゅうございます。

お手数をおかけします。


湖子:
星子さん
だいぶランクが上がったようね。

数年しか経たないのに

星子:
そんなことございません。
皆様の足手まといにならぬよう
精進しておりますが
進歩がなくて申し訳ございません。

湖子:
剛さん
妖精の下働きは
どうですか。

報告書によると
人間としての経験を
妖精の仕事に
生かしているそうで
私の知るところでは
神さまも
お喜びになっているそうです。

妖精のセミナーでも
剛の事例を
研究するテーマも
出てきています。

今度
ワークショップに
招待しますので
来て下さい。

そん風に言われた
剛は
日頃から
湖子様の妖精としての
すごさを聞いているので
恐縮してしまいました。


剛:
ありがとうございます。
私の微力な力が
役立っているんでしたら
大変嬉しいです。

星子さんに迷惑を掛けないよう
がんばります。

湖子:
そんなに
がんばらなくても
あなたの力を出していたら
良いですよ

それから
明さんには
パテシエとしての
中くらいの技能を与えておきましたから
早樹の手助けになるでしょう。

それでは
星子・剛
ごきげんよう

そう言って
湖子は消えてしまいました。


こんな事を全く知らない早樹は
星子の何となく言った「こ」を
「小麦粉」と思ってしまった
『小麦粉を増量して作ってみる』を
その日実行していました。

一度
やってみると
これが
どういう事でしょう

しっかり焼きが上がっているのです。

チョコレートスポンジケーキは
早樹は
完成したと思いました。

社長に
焼きがあったものを
持っていくと
大喜びでした。

そして
「明日
就職希望者が
やってくることになっています。

実技をしてもらうので
早樹さんも
参加して下さい。

デコレーションしてもらうので
台になるスポンジケーキと
材料を
用意しておいて下さい。

明日来る人は
若いけど
技量はあるそうですよ。」
言われました。

ついに
来たのかと
思ったのです。

「ちょっと心配

私うまくできるかしら

でも
技量があるなら
その人の
部下になったら
良いのよね。

そうだわ

そうなんだ」と
考えてしまいました。

ポジティブに考えるようにと
いつも
会社の朝礼で言われているので
そんな風に考える
習慣が付いていたのかもしれません。

気持ちが
ものすごく軽なった
早樹は
部屋に帰りました。

部屋に帰ると
星子は
夕食の用意が出来て
待っていました。

早樹:
昨日助言して下さった
小麦粉を増量して作ってみると
うまくできたの。

試作品持って帰ってきたわ

召し上がって下さい。


星子:
それは良かったですね。

今日は
勝手してごめんなさいね。

でもうまくいって
良かったですよね。


早樹:
星子さんの方はどうなんですか。

星子:
うまくいきました。

本当にうまくいくみたいです。

早樹:
どんなことなんですか。

星子:
それは話せませんが
うまくいきます。

早樹は
なんだかわかりませんでしたが
星子が
嬉しそうなので
良かったと思いました。

その日は
明日面接に来る人が
どんな人か
星子と
女同士
盛り上がった早樹でした。

剛は
何も知らないような顔をして
横に座っていました。

その日は終わり
翌日
3人は出社です。

社長に言われていた
スポンジケーキの台を
作りました。

この程度のことなら
早樹は
大丈夫です。

うまくできて
待つことになりました。

しばらくすると
社長と一緒に
就職希望者が現れました。

歳は
25歳前後
髪は短く刈り上げられ
中肉中背の
男性でした。

早樹は
一瞬体が凍ったように
感じました。

当の
明は
なんだかわからないうちに
こんなところに来てしまったと
思いました。

明は
事情が
理屈ではわかりますが
今までの経験もあるのに
頭の中が
なんかこんがらがって
わからないのです。


社長の
経験などの
質問に対して
明は
スラスラと答えるのですが
明自身は
何故こんな事が言えるのか
それも
詰まることなく
言えるのか
心の奥底で
不審に思っていました。

その時
明は
困惑しながらも
とても冷静です。

その冷静な目で
周りを見渡し
ステンレスの輝く
キスワンの隣に立つ
白衣の
早樹を見ました。

落ち着いて
こちらを見ている
早樹を
表現できないような
懐かしい気持ちが
わき上がりました。




















一通り
社長は聞いてから
実技を
明にお願いしました。

課題は
小さなスポンジケーキに
デコレーションすることです。

明は
頭が真っ白になりました。

そんなこと出来るはずがないと
思ったのです。

でも
その思いに反し
手が足が動いて
生クリームを泡立て
スポンジケーキに
デコレーションして
その上に
イチゴなどの果物を
サッサと
載せ
それから
チョコレートを
飾り付け
パウダーシュガーで
仕上げました。

横で見ている
社長や早樹
それにみんなには見えない
星子や剛も
びっくりです。

その手際の良さ
皆は
もう何も言うこともありません。

早樹は
明を
頼もしく思いました。


星子と剛は
さすが
湖子様の魔法は
すごいとおもいました。



社長:
明さん
履歴書どおりの
すごい技術
申し分ありません。

先行する早樹さんの指示のもと
しっかりがんばって
良いものを作って下さい。

早樹さんわかりましたか。

早樹:
社長
明さんは
私と比較にならないほど
熟達しています。

私が
明さんに指示なんか出来ません。

明さんの部下として
働きたいと思います。


社長:
早樹さん
謙虚なことはわかりますが
キスワンについて
熟知しているのは
早樹さんの方ですから
やはり
早樹さんが
指揮して下さい。

お願いします。

明さんは
技術的には
上かもしれませんが
早樹さんを助けて
良いものを作って下さい。

早樹:
そんな
でも


早樹の密かな企ては
この場で
頓挫してしまいました。


早樹は
その責任の
重さに
気が滅入ってしまいましたが
明さんの前では
がんばっていました。





明はその日は
退社しました。

明日より
がんばって働くと言っていました。

早樹は
明が帰ったあと
社長にもう一度
「明さんの下で働く」という案を
言いましたが
もちろん通りませんでした。

社長は
早樹の方が
新しいものを
作り出す力があると
考えていたのです。

明のほうが
お給料は高いけど
それは経験であるから
仕方がないとも
言って
早樹を説得しました。


早樹は
納得して
早樹係長として
明日から
仕事が始めることになりました。

そこで
これからどのようなことを
すべきか
星子・剛と考えることにしました。

キスワンの
今までの
成果を
箇条書きにすれば
1.冷却下生クリームの泡立ては3倍になる
2.普通の配合のスポンジケーキは2倍程度になるが
 食感は良くない
3.チョコレートスポンジケーキは
 任意の濃度で作れる。
4.生クリームやバター・油などを入れると
 電子レンジでしか焼けず
 風味劣る。
 
そんな所です。
やっぱり油を入れないと
美味しい
スポンジケーキは作れないと
思いました。

明日からはそれに挑戦しようと考えました

それでは
どうすればよいのか
わかりませんでした。

でも
条件を
変えてしましたが
うまくいきません。

そんなことを
話していると
剛は
変えるのは
温度くらいしかないのではないかと
言いました。

「文献によれば
黄身:65度~70度
白身:75度~78度
(ただし、
白身のうちトランスフェリンというタンパク質を
固めるには60度~65度) 
だそうで
思い切って
60度くらいでやってみればどうか」
と提案しました。







早樹は
剛の提案を
やってみることにしました。

早樹にも
良い考えがないので
それしかないと
考えたのです。


翌朝
早樹は
明に
温度を高めて
スポンジケーキに
いろんなものを混ぜてみると
提案しました。

明は
今までの経験から
60度まで暖めても
大丈夫と
考えていました。

前にも言ったのですが
キスワンには
恒温装置が
接続されており
温水や冷水が循環することで
任意の温度に
設定することが出来ます。

社長が
独自に改造して
取り付けていました。

そこで
60度に設定して
攪拌槽に
卵・生クリーム・チョコレート・小麦粉砂糖を
投入しました。

最初はゆっくり攪拌して
加圧を始めます。

所定圧力で
所定時間攪拌したあと
圧力を開放して
蓋を開けてみました。

早樹は
今まで見たことのない現象を見ました。

攪拌羽に
何かが
垂れ下がっています。

明と
早樹は
顔を見合わせました。

早樹:
始めてみましたわ

明:
これはなんですか

早樹:
なんでしょう
初めてなので

明:
私の経験でもありません。




何が
羽にくっついているのかわかりませんが
焼くことにしました。

あまり泡立っていないので
かさが増えないようです。

とりあえず
シフォンケーキ型で
焼いてみました。

結果は見るまでもなく
クッキーとまではいきませんが
それに近い状態です。

早樹:
あれはなんだったんでしょう。
そのためにダメだったのでは

明:
今まで
見たことがないですが
この機械の特長でしょうか。

早樹:
わからないのです。

温度を上げたら
出たことなので
温度と関係があるのではないでしょうか

明:
でも
60度までは
卵は固まらないですよ。

私は60度に上げて
かき混ぜています

固まったことないです。

早樹:
でもそれは
恒温装置ではないでしょう。

すぐ冷えてしまうのじゃないかしら

明:
早樹さん
そうですね
お湯はすぐ冷めてしまいます。

早樹:
少し下げて
もう一度やってみましょう。

54度くらいに設定して下さい

明:
わかりました。


明は
早樹の
「温度を下げて54度」という指示に
あまり賛同は出来ませんでした。

明の経験
いや
湖子の魔法の結果というのか
それには
温度が問題とは
思われなかったのです。

でも
明は
早樹の部下ですので
早樹の言ったとおり
操作しました。

不審に思いながらも
忠実に
しました。

早樹の指示に
忠実にしたのは
明だけではありません。

キスワンに付属する
恒温装置は
少しの時間で
指示の温度に達し
その温度を
一度いないで制御します。

そんな正確な機械の結果は
すぐに現れます。

加圧後
開放しても
攪拌羽に
つり下がるものはなく
相当
泡だって
大きくなっていました。

明は
早樹の指示が
正しかったと
その時点でわかりました。

ケーキ型に入れて
オーブンで焼くと
ある程度膨れ
冷却しても
しぼみませんでした。

早樹と明は
顔を見合わして
「良かった」と
言いました。

明は
この機械には
経験が通じないと
思いました。

自分より若い
経験も浅い
早樹を
その時尊敬し始めました。









その日の実験は
温度を変え
配合を変え
試作を進めました。

うまくできるものや
できないものが
たくさん出来ました。

3時になったので
いつものように
小休止をとることになりました。

いつもは
早樹と星子剛なんですが
今日からは
明も
入っています。

でも
明には
星子や剛は見えませんので
何か
ぎこちないところがありました。

明:
係長
このお仕事
楽しいですよね。

新しいことを
しているという実感がわきます。

早樹:
係長は
止めて下さい。
早樹で良いです。

係長と言うほど
偉くもないし
歳もとっていないし

(と言いながら少し笑ってしまいました。)

明:
でも
社長から
早樹さんは係長だから
指示に従うように言われています。

早樹:
社長はそんな風に言って下さいますが
私
大学出て
入社して
3ヶ月しか経たないんですよ。

やっぱり
社長のいないときは
係長はや めて下さい。

強いて言えば
業務命令で

(また笑って)

明:
そうですか
じゃそうします。

でも
このケーキ美味しいですよね。

売れるんじゃないですか。

(と言いながら
食べ尽くす)

早樹:
でも
売れないんじゃないの
だって
明さんが
全部食べてしまうもの

明:
早樹さん
そうですよね。

早樹と明は
食べながら話しながら
そして
笑いながら
ながい
休み時間を過ごしました。

星子・剛は
全く蚊帳の外で
ふたりは
心の中で
これで
「しめしめ」と
思いながら
顔を見合わしました。

早樹と明は
新人歓迎会と言うことで
ふたりしかいませんが
近くの
ファミリーレストランで
行うことになりました。

早樹が
会社から
寄り道して帰るのは
今の部署に来て初めての出来事です。

一人しかいないので
出来なかったと言えばそれまでですが
早樹は
同僚-部下が正しいのですが
明と
食事は
楽しかったです。

二人とも
お酒を飲まないので
いわゆる
新人歓迎会というような
雰囲気ではなく
家族
いや
恋人同士といった感じでしたが
時間が経つのが
早く感じました。

それに
たらふく食べて
多くを話しました。

早樹のことや
明のことを
話しました。

でも
早樹は
どうも
明の職歴が
どうも
おかしいような気もしました。

2時間ほど
そんな話をして
別れ
早樹は家に帰ってきました。

星子は
嬉しそうに
早樹を
出迎えました。

星子:
早樹さんお帰りなさい

早樹:
ただいま
遅れて申し訳ございません。

星子:
そんな事ないです。

楽しかったですか。
明さん
優しいですか

早樹:
えっ
優しいです。

とっても
良い人ですよね。

星子:
それは良いですね

ケーキもうまくいきそうだし。

剛は
そんな話を聞いて
もうこの仕事は
完了したと
思いました。

星子さんの
姿が
また見えなくなるのは
残念でしたが
仕事が
うまくできて
心から
嬉しく思いました。



星子と剛は
この
ミッションが
終わったと思いました。

自分たちの
ロフトに帰って
話し合いました。

スイーツは
完成していないけど
妖精が助けなくても
明が助けるでしょうし
星子・剛は
早樹にとって
邪魔な存在としか
ならないのではないかと
考えたのです。

ミッションが
終わっていないので
神政庁の方に
お伺いを出して
聞くことにしました。

数分後に
回答がやってきました。

短く
「了解」と
書かれていました。

翌朝
星子は
いつものように
早樹の朝食を用意しながら
剛と一緒に
早樹が起きてくるのを待っていました。

早樹:
おはようございます。
少し寝過ごしました。

星子:
おはようございます。

よく寝られましたか。
それは良かったですよね。

今日はお話があります。

早樹:
どんなことなんですか。
またどこかに行かなければならないのですか。

星子:
帰らなければなりません。

ミッションが
完遂できたので
帰らなければなりません。

早樹:
えっ

まだスイーツは
完成していないけど

星子:
もう私たちがいなくても
明さんが
いるから
できたようなものです。

明さんと
新しいスイーツを
作って下さい。

早樹:
そう言うことなんですか

早樹は
わかったように思いました。

早樹:
もう
星子さんや剛さんには
会えないんですか


剛:
もう会えないと思います。


星子:
もうお別れです。
ごきげんよう


ふたりはそう言って
消えてしまいました。



これで
スイーツ編を終わります。

星子と剛は
次はどんな仕事を
するのでしょうね。

ひょっとしたら
あなたのそばに
突然現れるかもしれません。

ところで
早樹は
スイーツを
完成出来たのでしょうか。

知りたいですよね。