楽しい時間でした。 金沢にいたら 必要とされていたのです。 長瀬家では そうではなかったと 思い出を母親は 話し始めました。 結婚して 長瀬家に嫁いでも やることはなかったのです。 家事の大方は 秘書と呼ばれるお手伝いさんがやってしまうし 和己の世話は 今はなくなっている祖父母がしていて そうかと言って 会社の手伝いもさせてもらえないし 一日中閑でした。 テレビを見たり インターネットを見たり ができる現代ではないので 時間をつぶすことは かなり 大変でした。 まわりの セコセコと働いている人間から見ると うらやましくうつっていたのも 母親には耐えられませんでした。 そんな中で 旅に出たのです。 別に夫に 不満があるわけでもなく 好きな人ができたということも まったくありませんでした。 旅のつもりで 家を出たのですが それが こんなにながく なってしまうとは思いませんでした。 長くなると もう帰られなくなってしまったのです。 一度だけ 家に見に行ったこともありました。 二年ばかり経った夏の日に 汽車に乗って 大阪まで行き それから 長瀬の駅まで乗り換えて 到着しました。