ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

アスカル帰還せよ 全編

はやぶさが帰ってきました。

すごく話題になっているようです。
でも話題にしているのは
仕組まれた事で
事業仕分けで
削減されないために
事業者が必死に宣伝しているためだと思います。

その技術が
日本の技術の発展に寄与すると
言っているようですが
本当にそうなんでしょうか

誰か川上で
その技術を利用して
利益を独占しているんじゃないですか。

私の所まで
来てませんよ。

私自身は
賛同する人だけが
お金を出して欲しいと思うのですが
そうもいかないみたいです。

今から書き始める
サイエンスフィクションはそんな背景があります。

この話は近未来の話です。


主人公は
犬科犬の種の
雑種アスカルです。

アスカルが火星に向かって出発しますが
幾多の困難に会いながら
地球に帰ってくる話です。

いつものように
構想1分の
小話です。

あまり期待せずお読み下されば
幸いです。
      著者敬白

アスカル帰還せよ その1

私の名前は
アスカル

犬です。

今は、
お茶の水博士
いや違った
お茶の湯博士と暮らしています。

私は今は時々講演会で体験をお話しして
他の日は
悠々自適の毎日を過ごしています。

長らく無重力で過ごしたものだから
骨がもろいもので
あまり体を動かさないように
注意しています。

今から、
私の火星旅行の話をしましょう。

その前に
その火星旅行が計画されたときから話さないと
私が火星に行く事に何故なったかが
わからないと思います。


そうあれは今から
50年前でしょうか。
西暦2010年の夏に
はやぶさと呼ばれる
探査機が帰還した事から始まります。

はやぶさは
何年もかかって
いとかわと呼ばれる小惑星から帰っていたのです。

はやぶさを作っている団体と
はやぶさ自体を作っている企業が
これを大々的に宣伝したのです。

マスコミにも手を回して
それから評論家にも手を回して
はやぶさの後継機を作って
火星探査をしようとしていたのです。

マスコミを使ったのが良かったのでしょうか。
世論は一気に火星探査計画実施に傾き
その計画に反対しようものなら
非国民扱いになってしまいました。


総事業費は
当初は
2兆円と言われていましたが
時間が経過するに従い
どんどん増えていきました。

でもそれを止めると
今までのお金が
無駄になってしまうと言う
名目のもと
2017年までに
30兆円以上のお金を使ったのです。

火星探査の前の
無人月探査機は失敗なくできたの
止めどもなく国家予算を使ったのです。

今に思えば
それは浪費だったんです。

アスカル帰還せよ その2

そして
2020年有人火星探査機を
作り始めた矢先
日本は破綻しました。

日本の破綻は
中国にあった
鈴木商店が
資金繰りが悪化し
その倒産が
銀行に飛び火します。
最大手の銀行で
取り付け騒ぎが起きると
日本破綻の噂が世界中を
駆け巡り
円は売り一色となります。

円は暴落して
日本では必要な原油を
輸入できなくなって
産業活動は止まってしまいます。

輸出は止まり国債の償還は
止まってしまいます。

銀行の倒産を止める力もなくなり
日本はそれから
暗黒の20年が始まります。

世界銀行から
厳しい条件付きで
融資されますが
それも焼け石に水
日本人の平均寿命も50歳まで後退します。

そんな日本を
絶望のどん底から
救ったのは
私の友人
お茶の湯博士です。

お茶の湯博士は、
火星探査に
世論が傾き
他の研究にまったくお金が回らなくなっていた最中
自費で
研究を続けていたのです。

その研究は
人間の免疫を調節する物質を
探す事です。

探す方法は
先人が開発していたのですが
ありとあらゆる物質を
研究しても
見つからなかったのです。

お茶の湯博士は
すでに体に良いと考えられるものすべてで
研究が済んでしまっているので
未知の物質かと考え
有機合成で
いろんな物質を作っていました。

作っては調べ
作っては調べの連続で
5年が経ち
日本が破綻していたのです。

お茶の湯博士は
研究費が底をつき
もう新しいものが
作れなくなった
そんなある日の事
朝食べた
卵とニンニクを入れた納豆の粒が
服に付いているのを
見つけました。

お茶の湯博士は
新しく物質を作らず
その納豆を
調べました。

朝から始めて
その結果が出るのは
いつものように夕方でした。

夕方になったので
いつものように
結果を
判定しようとしました。

でも
いつも
結果とは違うのです。

今まで何年も
出た結果とまったく違う結果が
画面に現れていました。

アスカル帰還せよ その3

茶の湯博士は
始めて見る結果に
訳がわかりませんでした。

何度もデータを調べ直しましたが
データは正しかったのです。

その日は研究室で徹夜で
追試をしました。

早朝出た結果も同じだったのです。

卵とニンニクを混ぜた納豆は
免疫を亢進する働きがある事が確認できたのです。

お茶の湯博士
その日から
何日も徹夜でその物質を
分画くして
特定しました。

今までは
納豆も卵もニンニクも
一品ずつでは調べていましたが
混ぜると
特異的な物質ができる事がわからなかったのです。

お茶の湯博士
いくつもの有機合成の経路調べ
これを国際特許に
申請しました。

この物質のおかげで
多くの病気が
安価に治療できました。

そのため
国家を苦しめていた
医療費が
一気に下がって
景気回復への起爆剤になったのです。

お茶の湯博士は
それだけではなく
数年後
免疫を抑制する物質も
発見していたのです。

その物質は
納豆とネギを混ぜたものの中から見つかりました。

そして
日本はその日から
景気回復は
底堅くなります。


お茶の湯博士は
免疫を自由にコントロールして
病気を制御する業績だけではなく
国家を回復した英雄となりました。

しかしそこで止まらないのが
お茶の湯博士です。

お茶の湯博士は
あっと驚く事をしたのです。 

アスカル帰還せよ その4

私にとって
お茶の湯博士の一番の業績は
犬を
犬でなくした事だと思うのです。

読者の皆様は
私アスカルが
擬人化されて
こんな話をしていると
思っていらっしゃるでしょうが
そうではありません。

私の
知能は
人間を越えています。

ひょっとしたら
友人の
お茶の湯博士の
知能指数を
越えているかもしれません。

私は
話もできますし
もちろん聞く事もできます。
器具を使って
パソコンを扱う事もできます。

私のように
高度の知能指数を持った犬を
SDと呼びます。
Super Dogの略ですが
その通り
スーパードッグなのです。

どのよう育てられたかというと
まず母犬を
無菌化します。
それから無菌室で
無菌的に受胎させ
母犬の免疫を1週目から低減し
8週目でほぼゼロにします。
出産直前に
免疫を正常に戻して
出産させます。
子犬を
無菌的に育て
1ヶ月目から
徐々に免疫を下げ
6ヶ月目でほぼゼロにした後
増加に転じ
一才になるまでに
免疫を2倍にします。
それを
2才まで続けて
正常に戻すと
大方の犬は
賢い犬となります。

その間
人間と一緒に育てるか
SDに育てるか
どちらかで育てます。

そうすると
話もできて
社会性のある犬が
できあがるのです。

SDは
人間に比べて小さいので
省エネの生活ができ
狭い場所でも人間と同じように働けるので
今の世界では
SDなしには考えられなくなっています。

私の母は
今は
SDの世界では
有名で
SD自治議会の議長をしています。

SDは通常の犬に比べ
少しだけ長寿ですが
平均寿命は
18才程度です。

皆様の中には
犬があるなら
猫もあるんじゃないかお思いの方もおられるでしょうが
猫を
同じように育てると
社会性が全くなく
困った事になるので
他の動物を含めて
法律で
禁止しています。

アスカル帰還せよ その5

人間にも免疫調節の方法を
応用できないか
試す事は
同じように
法律で禁止しているので
賢い人間を作れるかどうかわかりません。


さて
SD(スーパードッグの略 人間以上の知能を持っている犬の事です)
 である私が
火星探査機に乗り込む事になったかというと
「人間では
危険が多いから
犬でも乗せておけ」というものではありません。

もしそんな事を
言う人間がいたら
差別で厳しく糾弾されてしまいます。

火星探査計画の
続きを言います。

景気回復して
たなざらしになっていた
火星探査計画を
実行するかどうか
実行しないかどうか
広く国民の間で
議論が起きました。

その時
お茶の湯博士は
有人衛星を
有SD衛星にすれば
大きさは
4分の1になって
予算は
30分の1になると
提言したのです。

慎重な国民も
それには納得して
すでに破綻前にできていた
設計図を
SD用に書き換え
火星有SD衛星計画を
実行する事になりました。

パイロットとなる
優秀なSDを選抜が始まりました。

SDの平均寿命は
短いため
少しでも永く生きれるものとして
雑種のSDで
且つ造る宇宙船の大きさにあった
中型SDが
選考対象となりました。

私が選ばれる当時の
SDの社会的地位は低く
SDの間には
危険な火星探査に
SDを使う事に反発がありました。

私の母親はSDで
自分の子私を
名誉ある地位に就かせようと
私に
パイロットに応募させました。

私は若かったせいもあって
むこうみずにも応募しました。

日本国中の優秀なSDが集まりました。

身体的能力と
学識的能力である程度ふるい分けられました。

私は
運が良かったのか
選ばれたのです。

残ったのは
10SDです。
(10匹とは言いません。)

厳しい練習と厳しい勉強が始まりました。
SDは人間のように
長く寝ないでも
良いので
人間の言葉で言えば
寝るのも忘れて
訓練したのです。

衛星が
できあがり
最終の
選考日が決まりました。

母は私は優秀だと言ってくれましたが
優秀なパイロットの中では
一番最後尾でした。

アスカル帰還せよ6

最終試験に
私が選ばれたのは
身体的能力や
知能が
優れているためではなかったのです。

人間に比べれば
優れていましたが
ほかのSDに比べれば
劣っていました。

私が選ばれた理由は
小食で
粗食に耐えられたからです。


私の母は
お茶の湯博士の友人で
お茶の湯博士から
選考の基準を
聞いていたのです。

もちろん優秀なSDに
育てるよう努力していましたが
私が
粗食に耐えて
小食になるように
離乳が始まるときから
私に少しの
食品
普通に言われている
ドッグフードを
食べさせていたのです。

もっとも
品質の優れているもので
宇宙食にもなるもです。

そのおかげで
私は
一番小食な私が
選ばれたのです。

でもそれが私の苦難の始まりでした。


私が一番目のパイロットで
補欠して
あと2SDが
選ばれました。

その後
ほぼできあがってきた
実機のコピーのロケットを使って
何度も
操作方法や
故障したときの対処方法を
練習しました。


機外にでて
無重力の
外で
修理する事も考え
プールの中での
修理演習も練習しました。

そんな練習が
2ヶ月続き
打ち上げの日が決まりました。
出発間際になると
私は大変心配になってきました。

うまく地球に帰れるか
どうか不安です。
子供が遠足に行く時の
喜びと
不安そんな感じだったのです。

そこで
私は
母とお茶の湯博士に相談しました。

母は笑って
「普段の力を出せば
きっと何事もなく
生きて戻ってこれる」と助言してくれました。

それに対して
お茶の湯博士は
具体的でした。

「火星探査機には
思いも掛けないような欠陥が
多く含まれているように思います。

でもあらゆる所で
それを
保障するような
機能も搭載しているので
場面場面で
創意工夫すれば
必ず帰還できはずだ。

帰還は容易ではないが
不可能な事ではない」
と言われてしまいました。

お茶の湯博士が言う事は
すごく深刻な事なのに
何故か納得して
安堵しました。

でもこの忠告は
その通りだったのです。

私は
打ち上げの日を
訓練をしながら
待ちました。

打ち上げの日の前日
私は
熱が出てしまいました。

医師は
原因は感染症だが
よくわからないと言う事でした。

打ち上げ本部は
私で出発させるか
補欠で出発させるか
悩んでいました。

私は
ここまで来て
火星に行けなかったら
今後の
犬生に大きな打撃です。

そこで
私は
お茶の湯博士に相談しました。


アスカル帰還せよ その8

「風邪かもしれないって
困った事だね。

じゃ
私が作った
この万能薬を
注射してみようか。

これまだSDには使った事ないんだ。

大丈夫効くと思うよ。」と
自信ありげに博士は言いました。

私は
「博士大丈夫ですか。

私が初めてなんですか。
大丈夫ですか。
博士を信用しないと言う事はないけど
病気に効くんですか。」
と改めて尋ねました。

博士は
「病気は
直ぐ治る事は保証するよ。
でも副作用が、、、
大丈夫」と答えたので
私は
「どんな副作用なんですか
病気は治るけど
ころっと死んでしまうとか。
それじゃ薬じゃないじゃないですか。」
と叫んでしまいました。

博士は
「そんな死んでしまうような
副作用ではないんだ。

脳の作用の
ある部分を
刺激する事から
優しくなってしまう
副作用で
どんな事でも許してしまうんだ。」
と答えました。

私はその答えに安心して
薬を注射してもらいました。

でもこれが
この旅を困難にする
要素だったのです。

注射のおかげもあって
出発当日の
医師の検査で
合格して
めでたく
搭乗できる事になりました。

発射のその瞬間は
それほど
大きなショックはありませんでした。

新幹線で
出発していくのが
ズーと続くようなもでした。

私は計器の
測定画面を見ていました。

計算値より
少し
燃料の使用率が
大きいのが気がかりでしたが
無事に
地球の重力圏を
脱出する
速度まで加速できました。

それからが無重力の世界でした。

約2年半を要する
長い火星へ旅の始まりです。


アスカル帰還せよ その9

長い火星旅行の
困難は
直ぐに始まりました。

私が異変に気が付いたのは
出発してから
次の日です。

月の重力を使って
探査機のスピードを
上げようとしたとき

明らかに計算値より
多くに燃料を
使っている事に気が付いたのです。

私は
燃料が漏れているのかと思ったのですが
機器で調べる限り
漏れていませんでした。

詳細に調べてみると
機体の重さが
200kgほど重たくなっているのです。

どうも
食料を蓄えている
第2ユニットが重くなっているようでした。

カメラで
第2ユニット内部を
細かく調べてみました。

ジーとモニターを見ていると
食料の陰で
何かが動いているのです。

なおも見ていると
猫が
第2ユニットにいるのです。

猫が紛れ込んでいるのです。

私は地球に直ぐ連絡しました。

地球の管制官は
マニュアルを見ましたが
そのような事は載っていないので
駆除しかないと
判断しました。

地球からは
「遠隔操作で
第2ユニットの
ハッチを開いて
中の猫を
駆除した後
遺体を
宇宙葬にして
追い出す」という指示でした。

そうすれば
確実に猫は死んでしまう事になります。

私にはできませんでした。

でも
地球からは
早く処理するように
言ってきました。
早くしないと
燃料と食料がが不足して
生きて帰還できないという
深刻なものでした。
それに糞尿で第2ユニット内部が汚染されて
もっとひどい事になるかもしれなかったのです。


操作を
私はしようとしましたが
それはできませんでした。

出発前に飲んだ薬の
副作用かもしれませんが
私にはできなかったのです。

アスカル帰還せよ その6

私は
第2ユニットに行きました。
ハッチを開いて
中の猫に
声を掛けました
「猫ちゃん出ておいで
どうしてこんな所にいるの

猫ちゃん」
と呼びかけたたら

猫が物陰から
でてきたのです。

「猫ちゃん
こっちおいで」
と話しかけたら

その猫は
意外にも
私に
「僕は
猫ではないわ

僕は
スーパーキャット
僕の名前は
サリナ

一番最初に
火星に行くのは
馬鹿面のSDではなく
SCの僕
サリナが行くのよ

わっはっはっは」と答えたのです。

そうその猫が
今私の隣にいる
このサリナさんなんです。

私はその後
何故サリナが
この宇宙船に乗っているのか
詳しく聞きました。

アスカル:
サリナさん
サリナさんはSCだと言うけど
SCを作り出す事は
法律で禁止されているはず
何故あなたはSCなの

サリナ:
僕は
マスター博士によって
作られた
マスター博士は
優秀な人間よ
マスター博士は
犬より
猫の方が
優秀だと言っているの

あなたより
私が優秀だと言う事を
おいおい証明するわ

アスカル:
マスター博士と言えば
よからぬ事ばかり考えている
人間だと
お茶の湯博士から聞いた事がある。
そんな人の事を信じているの

サリナ:
何を言っているのよ
マスター博士は正しい人よ
お茶の水博士こそ
国益に合わない人よ



アスカル:
どんな風にして
このロケットに乗り込んだの?

サリナ:
そんなの簡単よ。
私は
SCよ
足音もなく近づけるし
それから少々の高さなら上れるし。
鍵が掛かっていても
開けられるのよ。

こんな機体に乗り込む事なんて
簡単よ。

アスカル:
ひとりでやったのかい?


サリナ:
乗り込むのはひとりだけど
マスター博士も
協力してくれた

アスカル:
何のために
この機体に乗り込んだの

サリナ:
それは火星に行くためだよ

アスカル:
そうなの
なぜ
サリナさんが乗り込んだから
重くなるので
ロケットの重量が増えて
燃料が不足するし
食料だって
不足するじゃないか
火星に行かれないかもしれないよ。

サリナ:
大丈夫
私の分は
持ち込んでいるから

と言って
倉庫の隅の方に
見慣れない荷物がありました。

アスカル:
あんなにたくさんの荷物
食料なの

サリナ:
もちろん食料もあるけど
服とかお化粧品とか
鞄とか
本とか積んでいるの
それから
お菓子と
アルコール類ね

アスカル:
え
そんなにたくさん
だから重くなっているんだ
困ったな
サリナ:
火星まで
2年半も掛かるのでしょう
だったら
お化粧品も必要だし
服だって
着替えが必要だし
ゲーム機だって必要だし、、
あ
このロケットって
お風呂あるの
シャワーはできるの
こんな所に隠れていたから
シャワーを浴びたいわ

アスカル:
サリナさん残念ですが
シャワーはありません。
水はそんなにたくさんないし
その上
無重力でシャワーは浴びられない
おぼれてしまうから。

サリナ:
えっ
シャワーがないって
どうするのよ
帰るまで
体を洗えないの
そんなのいやだ

アスカル:
体はカバーをかぶって
拭き取るだけ

それも
1週間に一度だけ
でも
サリナさんが来たから
2週間に一度だけに
なってしまった

サリナ:
あーそうなの
どうにかならないの
あなたの分を
僕に回すとか
レディーなんだから
レディーファーストと言う事で

アスカル:
え
サリナさんって
レディー
いや女性なんですか?

サリナ:
失礼ね
僕は女性だわ

アスカル:
でも僕って
言うもんだから
、、、
ところで
宇宙船の中の生活は
一応知っているんですか
訓練受けた事あるんですか。

サリナ:
そんな事ないわ
ただ過ごせばいいのでしょう

アスカル:
そんな事ないわって
何も知らないの
えええええええー
例えば言うけど
おしっこは
回収して
もう一度飲み水にするんだけど
それから
糞の方は
有機物を取り出し
再生装置に出して
植物を育てるんだよ


サリナ:
え
おしっこを
再利用するって
え
そんなバカな

私は
困った事になったと思いました。

まず
火星まで行って
適切な探査活動をして
それから帰還するまでの間
燃料を始め
酸素や食料・水などが明らかに不足していることと
SCとうまくふたりだけで過ごせるかと言う事です。

宇宙飛行士の
選考基準の中には
「社会性がある事」
と言うのがあって
私は
みんなと協調性があると言う事になっています。

でも
人間や
SDそれから犬とは
うまくやっていける自信があります。

でも猫は
飼い猫を
見た事はありますが
私が
犬の外観を持っているので
猫を触った事もないし
もちろん話した事もありません。

そんな私のところに
猫
いやSCが
突然やって来たもんだから
うろたえました。

それに相手は
SCでかつ女性
どう対応しようか迷いました。

でも尿や糞の回収は 
絶対に必要なので
話す事にしました。

器具を持ってきて
丁寧に
説明しました。

顔が真っ赤になっていると感じました。

サリナさんは
バツの悪そうな
顔をしていましたが
それをしないと
宇宙船内が
汚物でイッパイになるので
諦めて聞いていました。

それからサリナさんは
自分の部屋を欲しいと言ってきました。

この宇宙船は
小さくて
4つのユニットになっているけど
どれも
ものや機械で
イッパイで余裕はなかったのです。

それで仕方がないので
私が使っている
居住区を
カーテンで
ふたつに仕切って
使う事にしました。

このことを
地球の管制センターに送ると
管制官から
「自重が重くなったので
燃料を少しでも
節約するために
月の重力を
使って
加速する方法」を
言ってきました。

そこで
エンジンを少し使って
月への
軌道に変更しました。

でも
それが少し間違っていたために
また困難な事になるのです。
サリナさんの持ち込んだ
荷物の重さが
よくわからなかったので
加速度などのデータを頼りに
燃料の噴射時間を
計算していたのです。

しかしそれが
違っていて
その上
セットした量よりも
多くを噴射してしまったのです。

後になってわかった事ですが
サリナさんが
少しでも火星に早くつきたと願って
噴射量を
多くしたのです。

この二重の
ミスというか
間違いによって
探査機は
月の重力圏に
突入していったのです。

それに気が付いたのは
その日の予定を終えて
寝ようかとしていたときでした。

お茶の湯博士から
至急の無線が入ったのです。

私は驚いて
操縦席に戻りました。

計器を見ると
月までの距離が
どんどん近くなってくるのです
このまま行けば
確実にぶつかります。

急ぎ
地球の管制センターが計算して
待避の
角度と噴射量・噴出時間を
計算してきました。

私はセットしたのは
間一髪でした
窓から月が迫ってくる様子が見られました。

月の地表すれすれを
通って
難を逃れたように見えたのですが
そうではなかったのです。

月の重力圏から脱出できたのですが
大きく曲がりすぎて
このまま飛行しても
火星の軌道と
交差する事がなく
宇宙を漂流する事になってしまったのです。
私たちは
火星への軌道を
ずれてしまったのです。

それをサリナさんに話すと
サリナさんは
すごく楽観的で
「じゃずれを直せば良いんじゃないの」と
言ってのけたのです。

しかしこのずれを修正するには
多くの燃料が要ります。
この燃料を使ってしまうと
地球へ帰る燃料が
明らかに足りません。

そう簡単には
使えないのです。

軌道上に
何か衛星でもあれば
それを使って
軌道を修正するのですが
私たちの宇宙船の
軌道上には
計算上は
何もないのです。

私ももちろん考え込みましたが
地球の管制センターや
お茶の湯博士は
ありとあらゆる事を
考えていました。

数日が
過ぎて
お茶の湯博士は
太陽風を
利用して
軌道を修正する
方法を提示してきました。

その方法は
宇宙船の
外に張り出して
取り付けてある
太陽電池を
帆船の帆のようにして
太陽風を
それに当て
軌道を徐々に
修正するという方法です。

今ついている太陽電池パネルでは
面積が狭いので
太陽電池パネルの間に
あり合わせの
シートを貼って
たくさんの太陽風を
受けるようにしなければならないのです。

そのために
私は
宇宙遊泳を伴う
船外活動をしなければならなくなりました。


地球の水槽で
無重力に近い状態で
訓練をしてましたが
初めての船外活動が
こんなに大変だとは
思いませんでした。
太陽電池パネルの間に張るシートを
倉庫から探し出し
脱出ハッチの近くに持ってきました。

無重力ですので
持ってくるのは簡単ですが
無重力状態で
これを広げるのは
少し大変でした。

それで
サリナさんに
シート張りを手伝って
もらおうと
頼みました。

サリナさんは
『そんなのできない』
と最初は言っていましたが
宇宙遊泳について
詳しく説明すると
面白くなったのでしょう
突然
「やってみる」と言ったのです。

それで
宇宙服を着せながら
どんな風に
するか
説明しました。
とくに
ふたつの安全フックを
必ず
機体にひとつは
するように
口が酸っぱくなる程
言ったのです。

私とサリナさんは
宇宙服を着て
脱出ハッチから外に出ました。

サリナさんを
まず
電池パネルの先端まで
手を引っ張りながら
連れて行きました。

そして
安全フックを
しっかりと
機体に付けて
「そこにいるように」言いました。

私は機体に帰って
一人乗りの
船外活動機で
シートを運びました。

サリナさんに
シートの一端を持ってもらって
張り始めました。

4枚目のシートを
張り終えたとき
事故は起きました。

サリナさんは
脱出ハッチのほうに
ひとりで帰ろうと
安全フックを
外したとき
サリナさんの体は
宙に浮いて
宇宙に投げ出されたのです。


私は
サリナさんが
宇宙に投げ出されたのを
直ぐわかりました。

そんなに早くではないけど
サリナさんは
探査機から徐々に離れていきました。

サリナさんの体は
ゆっくりと回っていました。

私は直ぐに
船外活動機を
サリナさんの方に向けて進みました。
船外活動機は
安全装置があって
探査機に対して
スピードが出ないようになっています。
それと
探査機から
500m以上離れないように
制御されています。

探査機から
離れすぎると
もう帰れないからです。

サリナさんが離れる速度と
船外活動機の速度は
同じくらいで
これではいつまで経っても追いつかないばかりか
船外活動機の
飛行範囲を
越えてしまいます。

このままでは
サリナさんは
助ける事ができません。

サリナさんの表情は
何かうれしそうに見えました。
それに手を振っていました。

私は
船外活動機の
安全制御装置を
はずす事を決意しました。

訓練では
安全装置をはずす事は
まったくありませんでした。
手動の
運行は
極めて危険です。

しかし
安全キャップのふたを
破って
安全装置を
OFFにしました。

直ぐに
船外活動機の速度は
早くなりました。
徐々に加速がつき
サリナさんに近づきました。
サリナさんを追いつく瞬間
私は
サリナさんが手を上げたので
私はしっかり捕まえました。

サリナさんの安全フックを
船外活動機に付けて
私は
探査機に帰ろうとしました。

後ろを振り返ると
探査機は
もう点のようになっていました。

探査機から
きっと500mは離れてしまったのです。
慌てた
私は
探査機から
目を離さないように
Uターンしました。

あまりスピードを出すと
追い越してしまったり
ぶつかったりするので
ゆっくりと
探査機に戻り始めました。

この時
隣りにぶら下がっている
サリナさんの事を
まったく見ていませんでした。

私が
探査機だけを見て
運転していたんですが
その時サリナさんは
早く帰りたいもんだから
スピードレバーを
一杯に
引っ張ってしまったのです。

私は
びっくりして
レバーを
戻しました。
でもその時には
遅かったのです。

船外活動機
探査機に向かって
一直線に
進んでいました。

進路を変える事はできましたが
このスピードで
進路を変えると
もう
どこまでも行ってしまって
戻ってこられないと言う事になりそうです。

私は
張られたシートの中にわざと
突っ込んで
スピードを
ゆるめる方法で
行こうと思いました。

探査機が目の前に
来たとき
急反転して
スピードを緩めて
シートの中へ
軟着陸
したのです。

タイミングを間違えると
シートを突き破るか
または
シートで跳ねて
無残な結果になるところでした。

うまく軟着陸できたのには
ここでは
サリナさんの
思いがけない
協力があったのです。

でもそれは
結果として
協力になったと言う事かもしれません。

サリナさんは
シートにぶつかったとき
爪で
シートの端を
しっかり握っていたのです。
そのために
船外活動機は
跳ね返らずにすんだのです。

サリナ:
ウワー
アスカルって暴走族ね
宇宙暴走族だ。

もっとゆっくり運転してよ

アスカル:
サリナさん
あなたが
アクセルのレバーを
全開にするもんだから
こんな風になったんですよ。

決して安全フックを
はずしたらダメだと行ったのに
もう少しで
宇宙に
投げ出されて
宇宙のくずになるところだったんじゃないですか。

わかっているんですか。

サリナ:
でも
早く探査機に帰りたいのよ。
お腹もすいたし。

アスカル:
サリナさんがやった事は
とっても危険な事なんですよ。

サリナ:
早く帰れたから
良かったじゃないの
それに最後は
私が爪を立てなければ
探査機に帰ってこられなかったんですよ。
感謝されても良いところじゃなの

そう言われて
私は
唖然としました。

そう言えばそうかもしれないけど
はじめの原因は
サリナさんの
身勝手なのに
でも
これ以上話しても仕方がないので
私は終わりにしました。


サリナさんは
宇宙服をそこらに脱いで
食事を始めました。

私は
自分の宇宙服と
サリナさんが着た
宇宙服をたたんでから
居住区に行きました。

サリナさんは
そこで
ラーメンを
食べようとしていました。

私は
びっくりして
声を出しました。

 
「サリナさん
お湯を入れたら
ダメ!!!」
と大声で言いました。

サリナさんは
私の方を向いて
びっくりしていました。

無重力ですの
私は
飛ぶように
サリナさんのところに飛んでいったのです。

そして
サリナさんが持っている
お湯のボトルを
取り上げて
向こうの壁の
テープのところに着地しました。

サリナ:
何故?
取り上げるの
食べたいのなら
まだあるから

アスカル:
そうじゃないよ
無重力で
そんなたくさんの水を
撒いたら
空中に浮いて
探査機の
重要な部分に
水が入り込むと
故障してしまうじゃないか
それに
この程度の水でも
溺れる事もあるの
水は直接飲む以外だめ

サリナ:
でも食べたいわ
私食べたいー
私食べたい

私は困りました。

私が宇宙飛行士に選ばれたのは
粗食にも耐えられると言う事だけど
サリナさんはそうではなかった。

美食家とまで言わないけれど
我慢はできなかったのです。

でもその場は
お願いして
ペレットの
宇宙食を食べてもらいました。

私には
なかなか美味しくできていて
ビーフ味とか
餃子味とか
ピザ味とかあるんです。

みんな同じ形をしていますが
色は
少しずつ違っています。





その時は
サリナさんは
宇宙食のパックを
2パック食べました。

「こんなの欲しくない」と言いながら
食べてしまいました。

私は
1パックです。

私は心配になりました。
宇宙食が
絶対に足らないのに
それを
2パックも食べたのです。

そこで私は
サリナさんに言いました。

アスカル:
サリナさん
宇宙食が
足らなくなっています。
私ひとり分の
宇宙食しか用意していないのに
サリナさんが
予定外で
乗り込んだものだから、、、

サリナ:
僕の分は
積んであるでしょう。
あちらを食べたら十分足りるんじゃないの

アスカル:
行き帰りで
5年も要するんですよ
あれだけじゃ絶対に足りません
せめて
サリナさんは
私より
小柄なんだから
せめて1パックでお願いしますよ。

サリナ:
そんなの我慢できないわ
アスカルはそんなに少なくて
平気なの
他の犬は
もっと食べるでしょう

アスカル:
私は
小食ということで
宇宙飛行士に選ばれたんです。
だから
すこしでも
平気です。
サリナさんは
そんなに食べて平気なんですか?

サリナ:
失礼ね
女性にそんなことを言うなんて
ジェントルマンの言うことではないわ
早く持ってきたものを
食べられるようにしてよ。

と言うわけで
地球に
問い合わせることにしました。

その翌日
地球から
帆を張ったので
少しずつ
スピードが出て
進路が正しい位置になってきている
様に伝えてきました。

また
サリナさんが持ってきた
食品を食べる方法を
言ってきました。

カップラーメンを食べるには
まず部屋を厳重に仕切って
水が出ないようにします。

そのために第二ユニットに
シートを使って
隔離室を作ることにしました。

私は
テープを使って
慎重に作り始めました。

無重力状態では
なかなかうまくいかないので
サリナさんに手伝うようお願いしたのですが
サリナさんは
はじめは手伝っていましたが
すぐに飽きて
映画を見始めました。

でも私はこれを完成させないと
食糧が
不足するの
半日をかけて
完成させました。

入り口は
チャックになっており
中の空気ががでは入りするところには
空気ろ過器を取り付けました。

次ぎの食事の時に
サリナさんに
カップラーメンの食べ方を
話しました。

ペットボトルに
粘ちょう材を入れておき
電子レンジで暖め
カップラーメンを真空装置に
管をさして入れた後
作動させ
そしてペットボトルの
お湯を流し込み
3分待つのです。

それまでは絶対にあけないように
言いました。

私がまずやってみました。
次からは
サリナさんがするように言ったのですが
サリナさんは
「僕そんな難しいこと
わからない。
アスカル
これからも作ってね。
それから次は
カレー味でお願い

それから
これなんか
どろっとしてるよ。
カレーなら丁度いいかも」
と言って
ズーと私が作る羽目になりました。


次に日には
サリナさんが持ってきた
食糧を
かぞえました。

どう見ても
3年分くらいしかありません。

不足するのです。

このことを
地球に報告しました。

私も
どうすればいいか考えました。

方法は
ふたつです
速度を速めて
3年で帰ってしまう方法と
新たに食糧を作る方法です。

どちらも可能性はないではありません。

問題が起きた時のために
第3ユニットの中には
食糧製造装置と
予備の光子エンジンユニットが積んであるのです。

しかし
食糧製造装置を作動させたり
光子エンジンを
作動させるためには
エネルギーが不足するのです。

これをどう解決するか
私は難問山積です。

サリナさんに言ったら
他人事のように
「大変なのね
アスカルに任しておくから
がんばってね。」
と言ったあと
しばらくしてから、、、
「エネルギーが不足するのなら
健康のために
「ルームランナーでも
しましょうか」
と言ってくれました。

そんなわけで
その日から
また
船外活動をすることになりました。
今度は
後ろに光子エンジンを取り付けるのです。

形は小さくて
ハロゲンランプの大きさぐらいで
持ち運びも簡単でした。

船外の
第7取付区の所定の場所に
コネクタがあったので
取り付けました。

電源も
ぴったり合っていて
仕事としては簡単でした。

それに
「サリナさんがいないから
大丈夫
大丈夫」
と思って
船内に戻ってみると
サリナさんの
悲鳴が
聞こえてきました。
サリナさんの声の方向に
ハッチを開けて
近づくと
サリナさんは
宙に浮いた
細かい水の中にいて
溺れそうになっているのです。

私は驚いて
吸引機を持ってきました。
掃除機のようなもので
空中に浮いた水滴を
吸い取ったのです。

サリナさんは
咳をしながら
出てきました。

サリナさんが言うのには
お腹がすいたので
カップラーメンを
食べたいと思ったのですが
私が外で仕事をしていて
作ってくれないので
自分で作ろうとしたそうです。

でもいつも
粘調剤を
入れると
どろっとしていて
美味しくなさそうだから
今日は
入れずに作ったそうです。

そしたら
うまく混ざらず
お湯が
飛び散ったそうです。
それを集めようとすると
余計に細かくなって
サリナさんの
気管に入ったりして
咳き込んで
溺れたようになったのだそうです。

この
『事故』があってから
サリナさんは
料理はなにひとつしなくなりました。

私は
粒状の宇宙食を食べているのに
いつもサリナさんの食事の用意は
しなくてはならなかったのです。

食事と言えば
食糧を
作る装置を
稼働させなければなりません。

ユニットから取り出して
組み立てるのですが
その場所が
見つかりません。

サリナさんの食糧が
余分に入っているため
組み立てられないのです。

そこで
サリナさんに相談しました。

アスカル:
サリナさん
お願いがあるんですけど
食糧製造ユニットを
組み立てるところがありません。
第2ユニットに
サリナさんが持ち込んだ荷物があるので
狭いのです。
あれを
整理しないのですが

サリナ:
ダメ ダメ
整理しちゃダメ
みんな必要なものだから

アスカル:
何も捨てると言っていません
こちらの居住区に
運びたいのです。

サリナ:
それはよかった
でも
ここもそんなに大きくないのに
どこに置くというの

アスカル:
だからこのあたりに置くの

サリナ:
じゃふたりはどこで寝るのよ

アスカル:
このあたりかな

サリナ:
そんなの
あなたと
カーテンもないの
いやだわ
そんなのいやだわ

アスカル:
でもこのままでは
食糧が足りなくなるの

サリナ:
うー
仕方がないかな
あなた私に変な事しないでよね
大丈夫?

アスカル:
変な事って
どんな事ですか。
食事を作ったりしてますが

サリナ:
僕はレディーなのよ

アスカル:
そうですよね
わかっています。
食糧製造ユニットを
働かせないと
困った事になります。

少々の事は
我慢して下さい。

私がそう言うと
サリナさんは納得したのか
カーテンを
狭くしました。

翌日
居住区に
食糧の山を運んできました。
散らばらないように
しっかり固定すると
残りの広さは
私が手足を伸ばせる広さと
同時にサリナさんが手を伸ばせる範囲になっていまいました。

当分は
私サリナさんは
寝息がわかる距離で生活する事になったのです。


翌日
食糧製造ユニットを組み立てました。

食糧製造ユニットは
藻のような植物が入っていて
光の力で
増えていくのです。

その藻を乾燥させ
食糧にするのです。

効率的に作るため
藻の光合成が
最大になるような
光と温度と水溶液の濃度が
維持されるようになっています。

水製造装置や
炭酸ガス除去装置などから
管をつないできます。

二日がかりで
やっとこさ組み立てを
終了しました。

第2ユニットの中は
足の踏み場もない
狭さです。

もちろん
無重力状態なので
隙間を縫って
進んでいけるのですが、、、


地球との定期交信では
余分な電気のみを
光子エンジンに送っていては
ほとんど速度が
増えていないという連絡を受けました。

そこで
電気を起こすために
サリナさんに
自転車こぎをしてもらう事にしました。

ジムにある
自転車をこぐ運動器具で
それにダイナモがついていて
発電するというものです。

無重力状態で永くいると
体力が落ちるので
宇宙船に置いてあるのです。

その日から
サリナさんは
自転車こぎをし始めました。

私は
ルームランナーを改造して
発電するという
方法で
エネルギーを供給しました。

その日から私は
寝ていない時間以外は
ルームランナーか
自転車こぎです。

あのペレットの食事を
摂るときも
自転車こぎをしながら
していました。

一方
サリナさんは
すると言っていたのに
一日に
2時間がやっとでしょうか。

サリナさんに言わせると
「元々猫は
そんなセコセコしない
猫は
ひなたぼっこをしながら
じっくり思索にふけるもの、、、

犬のように
何も考えずに
体を動かしている動物ではない」
そうです。

私は
その言葉が
妙に説得力があって
私が
ひとりで
発電しなければならないと
思ってしまいました。

はじめの頃は
筋肉痛の
悩まされましたが
一週間も経つと
これにすっかり慣れて
足が
太くなったように思います。

力こぶを
作って
サリナさんに見せると
サリナさんは
「ご苦労様
がんばってね
でも僕
マッチョな犬には
興味ないから」と
言われてしまいました。

そんなサリナさんの話とは別に
実際
発電で
スピードが3%ばかり
増したそうです。

そこで
姿勢を制御して
火星への
最短のコースを
取るように
太陽風を受ける帆の
向きを微妙に変えてみました。

前より
太陽電池パネルが
太陽の向きを向いたので
発電量も増え
食糧製造ユニットにも
電気が回って
初めての
製造ユニット製の
食糧が
できあがりました。


できあがった食糧は
ドッグフードのような
丸いつぶつぶで
半生タイプです。

アスカルは
地上の訓練で
食べた事があって
「ビーフ味」になっています。

アスカルには
美味しいです。

ミルクと混ぜて
食べたり
マヨネーズなどの
調味料を
掛けて食べると
かなり美味しくいただけるのです。

何しろ
自分が
作った電気で
できあがった食糧ですので
美味しく食べられたのですが

サリナさんは
見向きもしないし
食べようともしませんでした。

そのため
私ひとりで
食べる事になりました。

食料はそんな調子ですが
光子エンジンの方は
4%の速度が増加したみたいでした。


この調子で
加速していくと
2年弱で
火星に到着も
夢ではありません。

そのことを
サリナさんに言うと
「良かったわね
でももう少し
早くならない

4年もこんな所に閉じ込められると
考えただけでも

、、、
いやだわ」
と言われてしまいました。

「もっと早く帰りたいのなら
サリナさんも
発電に協力して下さい」
とお願いしましたが
そのことについては
サリナさんは
答えませんでした。

後でわかった事ですが
サリナさんは
あまり運動して
筋肉もりもりになって
美しい体型が
崩れる事が
いやだったみたいです。

順調に進んでいた
飛行も
一ヶ月が経って
思わぬアクシデントが
出てくるのです。
アクシデントは
かなり深刻で
ふたつです。

ひとつは
有機物/水再生装置が
故障したものです。

もう一つは
エネルギーのパラドックスです。

ひとつ目の
有機物/水再生装置は
予定量より
再生量の方が
著しく少なくて
少し変なのです。

自己診断の
マイコンが入っていますが
測定不能と出るのです。

このまま機械が不調になれば
火星探査はもとより
我々の生命も
維持できなくなります。

警告が出てから
コンピューターで
測定しましたが
結果が出ません。

地球の管制センターでも
原因がつかめません。

私は
思い切って
装置を分解することを提案しました。

管制センターでは
装置は分解不可となっていて
分解すると
組み立てられなくなるのではと
思っていました。

しかしこれ以上
装置の能力が落ちると
困った事になるので
私は
管制センターの
命令に反して
分解する事にしました。

私の手は
普通は
犬の手ですので
うまく細かいものが扱えません。

通常は
マジックハンドのような
ものを付けて
探査機の日常業務を
こなしていましたが
分解となると
もっと細かい事ができて
力も入れられる
ものに変える事にしました。

それは
パワーユニットと呼ばれ
小型ながら
力があって
脳波によって操縦する事ができるのです。

無重力状態なので
かなり重いものでしたが
難なく体に付けて
パワーユニットを使って
分解する事にしました。


私は
有機物/水再生装置の故障は
電子制御部分ではなくて
機械的部分で起きていると
予測しました。

お茶の湯博士からも
投入口近くからではないかと
助言を受けていました。

もし
有機物/水再生装置が完全に故障すると
火星探査旅行はもとより
直ぐに私たちは
死んでしまいます。

そこでサリナさんの
食事を作っておいて
問題をなくした後
慎重に
分解し始めました。

取り除いた
ナットやボルトなどについては
番号を付けて
台の上に
整理しておきました。

分解手順などの
マニュアルもないので
私は
メモをすると同時に
記憶しました。

私の作業手順では
87工程目の
ふたを開けたとき
問題の箇所を
発見したのです。

ふたは
固着していて
なかなか開きませんでした。

私は
他に固定している場所がないか
慎重に見ました。
エコーでも
見てみましたが
画像には
その様子はなく
何かが
ひっついているようにうつっていました。

そこで
木槌で
少しずつ叩きながら
開けていきました。

そうすると
中に問題のものが
伸びながら
付いてきたのです。

私は
「あっ」と
声を出してしまいました。

それは
スペアミントのガムだったのです。

私は鼻がききますので
直ぐにそれは
サリナさんが
噛んでいたものとわかりました。

私は
シンナーで
綺麗に拭き取り
記憶通りに
組み立て始めました。

組み立てが
難しいところもありました。
でも
パワーユニットのおかげで
うまく組み立てられました。

この仕事に
6時間を要してしまいました。

私はその間
何も食べずに飲まずに
行ったので
のどが渇いてしまいました。
私は
有機物/水再生装置を組み立てた後
作動するか
確認後
第2機械室を出ました。

居住区に着くと
サリナさんは
ルームランナーで
発電していました。


発電量のインジケーターの目盛りが
相当やっているように
示していました。

アスカル:
サリナさん
今日はがんばって
発電して下さっているんですね。

サリナ:
だって
アスカルが今日は
他の仕事で
発電していないから
代わりに僕が
やっているんです。

アスカル:
へー
ありがとう
ところで
サリナさん
ガム噛んでいますよね

サリナ:
ガムは噛んでいません。

アスカル:
そんな事はないでしょう
機械の中に
ガムが挟み込んでいましたよ

これがそのガムです。

サリナ:
 あー
風船ガムね
それなら
僕に間違いないよ
有機物で
食品だから
投入口に入れたんだ
違うの

アスカル:
有機物/水再生装置は
ガムを想定して
作っていません。
だから
ガムがつっかえてしまったんです。

サリナ:
ガムじゃないよ
風船ガムだよ

アスカル:
どちらも同じです。
お願いですから
今度から
ガムは
そちらに捨てないようにお願いします。

サリナ:
ではどちらに

アスカル:
地球の管制センターに聞かないとわからないけど
たぶん宇宙ゴミの方

サリナ:
えっ
そんな事
地球の管制センターに聞かないで
私が
トラブルメーカーみたいじゃないですか
私は
まじめな
SCなんですから

アスカル:
そうなんですか
ではそう言うことにして
もう一つお願いがあるんです。

アスカル:
このままでは
エネルギーの
平衡が取れないんです。
エネルギーパラドックスでしょうか。

地球からもってきたエネルギーと
途中で太陽光から発電されるエネルギーと
太陽風がシートに受けるエネルギー
が持っているエネルギーの総和です。

それを
地球に帰り着くまでの
生物即ちあなたと私が
生きていくエネルギーと
火星へそして地球へ行く
運動エネルギー
それと無駄に宇宙に放散される
エネルギーと
合計が
同じになると思います。

使えるエネルギーは
行程が短くなると
途中で受けるエネルギーが
少なくなります。

早く帰ろうとすればする程
使えるエネルギーは少なくなって
それが
私たちが生きいくための
エネルギーが節約される分を
越えてしまうようです。

そこでお願いというのは
ロスの分を出来るだけ少なくすれば
何とかなるんです。

エネルギーのロスは
私たち生物のロスです。
ロスをなくすために
自転車こぎや
ルームランナーで
出来るだけ回収すれば
エネルギーが平衡するようなんです。

私だけががんばって
エネルギーを発電したとしても
その発電のために
多くの食糧を
消費してしまうんです。

過剰な運動は
過剰な食品の摂取につながりますから
適切な運動が必要なんです。

SCのサリナさんにも
エネルギーを発電して欲しいのです。
そうでないと
地球に戻れないのです。

どうか
サリナさんも
協力して下さい。
私の計算では
一日に
6時間程度
発電して頂いたら
サリナさんの食糧と比較して
良いそうです


お願いします。

そう聞いた
サリナさんは
アスカルの言っていることが
直ぐにわかりました。
でも
筋肉質になるのが
いやだった
サリナさんは
悩んでいたようですが
地球に帰れないと
困るので
協力してくれたのです。




サリナ:
本当に
私がやらなきゃ
帰れないの?
やったら
早く帰れるの?
それから
そんな事して
筋肉もりもりにならない?
マッチョなSCにはなりたくないは
可愛くないもの

そんなものになるくらいだったら
死んだ方がましよ
本当に大丈夫?

アスカル:
私には
筋肉質になるかどうかわかりません。
でも
すると早く帰れるけど
しないと
絶対に帰れないことだけは
確かです。


サリナ:
正直な
SDよね

あなたの正直に免じて
やってみるわ
でも
マッチョになったら
責任取ってよね

アスカル:
わからないけど
地球に戻って
静養したら
直ぐに元に戻るよ

サリナ:
本当に正直な
SDだわ
涙が出るわ

じゃ
今からやりましょ

ふたりは
そう言いながら
仲良く狭い倉庫の中で
発電を始めました。

その成果は
一日一日
現れます。

食糧製造ユニットから出来る
食糧だけで
アスカルは
食べていけるようになりました。


こんな風に
何日も
そして
何ヶ月も過ぎました。

本当なら
私ひとりの
火星への旅でしたが
サリナさんがいたので
淋しくありませんでした。

一年が過ぎた時
火星探査旅行の
最大の山場がやってきました。

火星の軌道へ
進入するときだったのです。

通常の
スピードではなく
相当なスピードが出ていたので
計算に計算を重ねて
進入角度を
計算しました。

少しでもずれると
火星に衝突するか
はじき飛ばされて
宇宙の果てに飛ばされ
帰ってこなくなるのです。


こんな話を
何度もサリナさんに
しておきました。

そうでないと
想定外のことが
起こることが怖かったのです。

サリナさんは
よく理解できたらしくて
手伝ってくれました。

姿勢制御のために
光子エンジンユニットの
電気が
多量にいるときには
ふたりよって
がんばって発電しました。


ふたりで発電できたので
液体燃料は
充分に残っていました。

この残っている
液体燃料の
量が
地球帰還への
可否を決める大きな
ものになったのです。
火星への進入への日が来ました。

探査機搭載のコンピューターが
小刻みに
エンジン噴射を指示します。

入射角を
精密に
補正するためです。

私と
サリナさんは
指示されたときには
自転車とルームランナーで
発電していました。
それも思いっきりです。

何ヶ月も続けてきたので
ふたりは
瞬発力と
持続力に
自信がありました。

サリナさんが
嫌がっていた
筋肉も
付いてしまいました。

サリナさんは
マッチョな猫も
いいんじゃないかと
思っていたのです。

地球に帰ったら
筋肉猫で
売り出そうと
考えていたようです。

何時間も
一気にこいだり
休んだりして
食事の時も
機械の上でしていました。


こうして
火星軌道へ
進入できたのです。

こうして
火星に周回軌道に入りました。

3周火星を回った後
火星への
着陸を試みました。

火星へ
着陸する着陸ユニットに乗り換えました。

着陸ユニットは
狭くて
到底ふたりは乗れないと
サリナさんに言ったのですが
ここまで来て
「火星に降り立たないと
何のために来たかわからない」
と言って
聞きませんでした。

サリナさんだけが
火星に下りたっても
後の操作ができないので
私も行くことになりました。

狭い着陸ユニットの
椅子に
宇宙服を着て
私と
サリナさんは
並んで座りました。

というか
サリナさんは
小さいので
私の脇の下 辺りにいて
私の腕枕をしていたのです。

サリナさんは
私に
「変なことしないで」
と釘を刺しながら
私の腕の上に寝転んで
来ました。

ふたりとも
宇宙服ですので
何も出来ないのは
当たり前です。

でもサリナさんは
宇宙服からの上でも
その毛は
柔らかかったです。

火星へは
無人で
何回か
行っているので
火星の様子は
わかっていました。

地球で言えば
朝の8時頃の
火星の
平らなところ
海と呼ばれるところに
計算通りに着陸できました。







始めて火星に降り立つ
生物になるのですが
サリナさんは
「僕が一番」と言って
さっさと
扉を開けて
下りてしまいました。

外の様子が
よく調べてからでないと
下り立たないと
言ったのに
ほんの一瞬の隙に下りてしまいました。

サリナさんは、
ビデオを持って
火星を写したり、
自分と火星を撮ったりと
そこら辺りを
走り回っていました。

私は
無線で
「くれぐれも
着陸ユニットが見えなくなるまで
遠くに行かないように言いました。

火星には道しるべもありませんし
こんな所で迷い子になったら
もうどうしようもないのです

私は
決められた仕事を
していました。

まず測量と観測をする
ユニットを据え付け
それから
地表のサンプルを取って
それから
出来る限り
火星を掘って
深いところのサンプルを
取るのです。

火星は意外と柔らかくて
直ぐに
機械で掘れる
最も深いところまで掘れてしまいました。

サンプルを
帰還ユニット内に
仕舞ってしまうまで
そう長い時間を要しませんでした。


仕事が終わったので
サリナさんを
探しましたが
サリナさんがいません。

慌てて無線で
呼びかけると
サリナさんは
「無線が圏外でないところまで
来ている」
と言うのです。

アスカル:
もう帰る時間だから
帰らないといけないけど
帰還ユニットは
見えますか

サリナ:
帰還ユニットなんか見えないわ
僕を
無線で誘導して

アスカル:
何を言っているんですか
サリナさん
あなたのいる場所が
こちらから
わからないのに
どんな風にして誘導するんですか。

サリナ:
えっ
僕は迷い子
それなら早く言ってよ
早く帰らないと

アスカル:
ダメですよ
あてどもなく歩いたら
そこにじっとしていて下さい。
もっと遠くに行ってしまうかもしれませんよ。

火星の迷い子になってしまった
サリナさんを
どのように見つけようか迷いました。


見えなくなった
サリナさんに
何か
こちらの目印を
出せばいいのです。

燃料を噴射でもすれば
目立つので
わかるでしょう。


でもこの方法を使うと
燃料を無駄に
使ってしまいます。

私は迷いました。

お茶の湯博士にも
無線で聞きましたが
なにしろ
地球まで
無線が届くのが
20分くらいかかるので
直ぐに答えてくれても
40分も
かかってしまいます。

あれこれ私が考えていると
サリナさんが
無線で言ってきました。


サリナ:
アスカル
僕ね
打ち上げ花火を
持ってきているから
それを打ち上げてよ
それをたよりに帰るから

アスカル:
花火なんか持ってきているの
宇宙船の中は
火気厳禁だよ
それなのに

サリナ:
そんなことは
おいておいて
マッチもあるから
椅子の下だよ

アスカル:
マッチも持ってきているの

サリナ:
ところで
空気のないこんなところで
花火や
マッチに火がつくかな

アスカル:
そんな事も知らないで
持ってきたの
もちろん点くけど

私は
花火を打ち上げる準備をしました。

5本しかないので
見落とせば
どうしようもありません。
音がしないので
見るしかないのです。

無線で合図をしながら
打ち上げました。

一発目は
サリナさんはわかりませんでした。

2発目は
わずかに見えたと言って
その方向に歩き始めました。

それから3発目
これは
はっきりと
サリナさんはわかったらしくて
それからまもなくして
サリナさんは
帰還ユニットに帰ってきました。

ふたりは抱き合って喜びました。

残りの花火を
打ち上げて
それをビデオに撮って
記念にしました。

周回している
火星探査機が
ちょうど回ってくるときが近づいたので
ふたりは急いで
帰還ユニットに乗り込みました。


 
帰還ユニットは
台座を残して
出発しました。

帰還ユニット自体は
2段ロケットになっており
最後に火星探査機に帰ってくるのは
500kgばかりの
ユニットです。

2段目も
問題なく飛行しました。

一段目は切り離され
火星に落とされ
小さな地震を起こして
火星に残した
観測ユニットで
測定するのです。

火星の地下の様子を
知るのです。

これらはうまくいきました。

小さな帰還ユニットが
火星探査機に
ドッキングするのが
次の大きな仕事です

帰還ユニットの燃料には限りがあります。

火星探査機の母船の
エネルギーを使う方が
省エネなので
私は
母船を無線で
操縦しました。

狭い上に
サリナさんが乗っているので
身動きさえ
うまくできない
帰還ユニットの中で
左手の
操作用ハンドで
操縦しました。

サリナさんは
窮屈なので
「早くして」
と私に言ってくれます。

しかし軌道上で
母船とドッキングするのは
難しいのです。
ゆっくりでないと
ぶつかったりすると
大変なのです。

その上
火星探査機の母船は
大きな太陽電池が
飛び出ていて
なおいっそう難しくしていました。


3時間が経って
やっと母船の
太陽電池が
はっきりと見える距離まで近づいてきました。

私は
今度は
帰還ユニットのエンジンを操作して
近づきました。

ドッキングユニットのある方向に
うまく回り込み
帰還ユニットを
近づけていきました。


この時
サリナさんが
何か手を伸ばしたように思ったのです。

私は
「あっ」と思いました。

過去の例もあります。
操縦桿でも触られると大変なので
私は
右手で
操縦桿を
カバーしました。

サリナさんの頭は
私の右手にありましたから
サリナさんの頭は
前のめりになって
サリナさんの頭は
前の
計器に当たってしまいました。

真空状態なので
音は聞こえませんでしたが
サリナさんは
なにやら
大声で
叫んでいるようです。

無線が外れてしまったのです。

私は
操縦桿を右手でカバーしつつ
左手で
外れた
音声用ワイヤーを
つなぎました。

「痛いじゃないの
アスカル
私をどうするつもりなの」
と言っていたのです。


 
私は
操縦に
神経を集中してました。

自動操縦では
サリナさんの重さが
入っていませんので
出来なかったのです。

サリナさんは
大声でまだ言ってきましたが
私は
目を向けることはありませんでした。

そうすると
サリナさんは
諦めて
向こうを向いて
寝ていました。

それから
30分経って
ドッキングに成功しました。

ガツンと
衝撃があって
母船に着くと
サリナさんは
例によって
すぐさま
母船に乗り移りました。

私は
帰還ユニットの
試料箱を
探査機のリフトで
母船に移した後
残りの燃料も
母船に移しました。

その後
帰還ユニットを
取り外して
火星軌道上に
置いておきました。

帰りは
これらの操作で
自重が
3分の1になっていました。

その操作のために
小一時間経って
やっと
居住ユニットに戻れることになりました。

私は
少し心配でした。
サリナさんが
怒ってはいないかと
思っていたのです。
しかし
帰ってみると
サリナさんが
私の食事の用意をしていたのです。


いつもと違う状況に
私は驚きました。

帰還ユニットの中の出来事で
相当怒っていると
思っていたのに
予想外でした。

食事は
サリナさんが持ち込んだ
シチューと
食糧生産装置が作った
ツブツブの食材が
並んでいました。

それは
ふたり分あって
量が多い分と
量が少ない分に分かれておいてありました。

サリナさんは
「お疲れ様
食事ですよね
、、、

、、、、」と
笑顔で私に話しかけました。

アスカル:
食事の用意ありがとう

サリナ:
食事の用意くらい僕にも出来ます。

アスカル:
それは出来ると思うけど
いつもと違う
、、


サリナ:
僕が用意したら
何か問題でも


アスカルは
仕事をしてるんだから
今日からは
私が
用意するわ

アスカル:
えっ
ありがとうございます。
それに
サリナさん
そのツブツブの食事食べるんですか
私にシチューですか


サリナ:
僕も
このツブツブ食べてみます。
栄養あるんでしょう
ダイエットにもいいんでしょう。
少し食べてみたけど
わりと美味しいじゃないの

アスカル:
あっ
そうですよね
でも、、、

私とサリナさんは
食事を始めました。

ふたりは
朗らかに食事をしながら
火星での
出来事を
話しました。

それから
私とサリナさんは
協力して
宇宙飛行を続けました。

出発のはじめの頃は
大変な
『仲間』だと思っていました。

事実サリナさんは
多くの難題をもたらし
もう少しで
ふたりとも
宇宙のゴミになるところでした。

しかし
その頃になると
私は
サリナさんが
この宇宙船に乗っていて
良かったと思うようになっていました。

ホームシックにもならずに
旅行を続けられたのは
サリナさんのおかげだと思うようにさえなっていました。

それから平穏な宇宙旅行だったんですが
地球から
お茶の湯博士の
連絡がありました。

今から3日後に
かなり大きな彗星と宇宙船の軌道が
交差するというのです。

偶然にも
スピードもほぼ同じで
向きも同じなのだそうです。

宇宙船の軌道を変え
回避することは
今のこの宇宙船なら
容易なことでしたが
お茶の湯博士の言うのには
『その彗星の
探査をしてみないか』
と提案してきたのです。

40年前に
「はやぶさ」がなしえなかった
彗星の石を
持ち帰るという
難題を
今達成しないかと言うことです。

彗星の石を持って帰ると
太陽系の歴史や
宇宙そのものの
歴史の解明に
大きな
貢献になるのです。

探査には
移動用のユニットを
使うのです。

この提案に
サリナさんは
猛反対しました。



サリナ:
そんな事してはダメ
移動ユニットの性能を考えると
それは無謀だわ
アスカルに
もしものことがあったら
心配だわ
僕は絶対反対

アスカル:
心配してくれるのは
うれしいけれど
ここまで来たら
彗星の探査もしなければ

サリナ:
僕たちは
始めて火星に到着し
偉業を成し遂げたのよ。
これ以上の成果は
要らないは

以前に
大変な目にあったのに
あのときは
僕が助けてあげたけど
今度は
私はできないわ

アスカル:
あのときは
、、、

ありがとう
でも今度は
遠くに行かない
直ぐそばまで
彗星が接近してくれるから
大丈夫

そう私が
熱意を持って言うと
サリナさんは
仕方なしに納得しました。

例によって
軌道を修正するために
自転車こぎとルームランナーで
発電して
修正していきました。

そして遭遇のその時が来ました。
私は
宇宙服に着替えて
船外活動機に
サンプル採取箱をもって
乗り込みました。

サリナさんは
操作ユニットの中にいました。

充分に
コンピューターの自動操縦で
彗星と
探査機は近づき
私は
船外活動機で
彗星に
着地しました。

彗星は
小さいもので
重力というものが
ほとんどないので

着地というか
一緒に飛んでいるという感じでした。

サンプル採取箱に
彗星のチリを集めて
入れました
そして帰ろうとしたとき
私は
彗星に向かって
エネルギーを噴射しました。

その噴射が
大きな困難を
私にもたらしたのです。


探査機が噴射したとき
噴射ガスが
彗星に当たってしまったのです。
当たったところが
彗星の端だったので
彗星が
ゆっくり回転し始めたのです。

それに気が付いたのは
私でした。

もう一方の彗星の端が
回っていく先には
探査機がありました。

このままでは
彗星が
探査機に当たってしまうのです。

探査機の
すこしだけ
軌道を変更したら
当たることはありません。

しかし現在探査機は
自動操縦で
彗星と平行して飛行するように
セットされているのです。

手動にしなければ
いけません。

でも船外活動機は
ゆっくりで
私が探査機にたどり着き
それから
操縦ユニットまで
行く間に
彗星は
探査機に当たってしまいます。

私は
考えました。

探査機に乗っている
サリナさんが
操縦して
軌道を変えるしか
方法はありません。

でも軌道を変えると
船外活動機で
戻れないかもしれません。

私は
まずサリナさんに
無線で
操縦席に行くように
言いました。

サリナさんは
何かわからなかった様子でしたが
ただならぬ私の慌てように
直ぐに操縦席に座りました。

それから
理由を告げて
右上にある
姿勢制御の
エンジンを
1秒だけ
噴射するように
セットするように指示しました。

そんな指示をしている間にも
彗星は
ますます
探査機に近づきました。

私の
船外活動機が
探査機に付くのが早いか
彗星が
探査機にぶつかるのが早いか
予想がつかないような状況でした。

サリナさんに
中央の蓋付きのスイッチの
自動操縦解除ボタン
手前左の行程開始ボタンを
私が指示したら順番に押すように
言いました。

私は
遅い船外活動機の
フックを持って
手を伸ばし
左手で
操縦桿を握りながら
火星探査機に
到着しながら待ちました。

彗星が
近づきます。
船外活動機ももう少しで戻れます。

一瞬の時が過ぎて
私の右手の
フックを
探査機に付けたとき
無線で大声で
「GO」と言いました。

彗星が当たる瞬間
探査機は
ゆっくりと
彗星から離れ始めました。
その離れる早さと
回転する速さが
同じくらいで
間一髪という
所です。
一瞬噴射が遅れたら
探査機と彗星がぶつかっていたところでした。

私は
減圧室で
急いで宇宙服を着替え
操作ユニットに
向かいました。

操縦席の前に
サリナさんは
立っていました。

サリナ:
大丈夫?
僕操作間違わなかったでしょう

アスカル:
完璧です。
サリナさんのおかげです。
ありがとうございます。

サリナ:
良かったわ
今回は大丈夫だったかもしれないけど
だから止めておくように
反対したのに
これからは
危ないことは
止めて下さいね

生きた心地がしないわ

アスカル:
心配してくれて
ありがとう
今後は
サリナさんの
言葉に従うよ

サリナ:
そんな事言って
本当にそうなの
その時になれば
男の仕事だとか言って
またやるんじゃないの

その影で女は
いつも
心配するんだから

アスカル:
えっ
そんな、、、
今後は心配させないから

私は
サリナさんが
火星に行ってから
大きく変わって
今回のことで
もっと変わったと
思いました。

この変化は何でしょうか
その時私はまったくわかりませんでした。

行くときと帰るときは
大違いとは
サリナさんのことを言うのでしょうか。

豹変した
サリナさんを見ていると
「SCの
サリナさんなら
豹変ではなくて
猫変かもしれない、、
でも猫は
仔猫の時も
大きくなっても
変わらないから
猫変はないな-」
と
そんな事を思って
少し笑って
サリナさんを見ていました。

それを見ていた
サリナさんは
何か不審そうです。

それから仲良く
ふたりは
地球まで
丸5ヶ月
過ごしました。

もちろん
一日中
自転車こぎと
ルームランナーを
がんばって
していました。

それから
食事も
計画的に
献立を考えて
サリナさんが持ってきた
ものを混ぜたりして
いろんなものを
サリナさんは考えていました。

時には
窓から見える
星空を
みながら
優雅に
お茶を飲んだりしました。


そんな楽しい宇宙旅行の
1年も過ぎて
地球が近づいてきました。

まず月の引力を利用して
速度を減速しました。

そして
地球を前にして
小刻みに
エネルギーを
噴射して
入射角を
調整しました。

こうして
その時間が来ました。


地球の大きなコンピューターと
連携していましたので
特に問題なくできました。

犬力と猫力のエネルギーを
使ったので
多少燃料も残っていたので
もう
何もせずに地球に帰れるはずでした。

そう
無事に帰還できると
私もサリナさんも
そして地球のお茶の湯博士も
直前までそう思っていたのです。

帰還の軌道に入って
戻るとき
帰還するのは
探査機すべてではなく
帰還ユニットのみです。

その他のユニットは
大気圏突入と同時に
バラバラに燃え尽きるのです。

帰還ユニットには
耐熱タイルが貼ってあって
燃え尽きない構造になっています。

私とサリナさんは
狭い帰還ユニットに
宇宙服を着て
重なるように乗り込みました。

それとサリナさんは
持ち込んでいたお化粧品も
持って帰りたいと言ったので
それも積み込みました。
帰還ユニット内は
もう隙間もない状態でした。

切り離しスイッチが
自動で入りました。

しかし
何も
起きません。

地球から
手動スイッチを押すように指示がありました。

マニュアルを見て
その場所を探し
急ぎ押しましたが
変化がありません。

帰還ユニットが
分離できないのです。


お茶の湯博士は
直ぐに私に指示しました。

帰還ユニットのハッチを
開けて
外に出て
手で切り離すように指示してきたのです。

地球の訓練の時に
一回だけ練習した記憶がありました。

無線でそれを聞いた私はサリナさんを見ました。

サリナさんも無線が聞こえていますので
サリナさんの後ろにある
ハッチを
開き始めました。

帰還ユニットから
空気が抜けていき
宇宙服がふくらむと
もう隙間がない状態で
サリナさんが
まず外に出ました。

サリナさんがでないと
私もでられない状態だったので
サリナさんがそうしたのだと
私は思っていました。

しかしサリナさんは
慣れた手つきで
フックを
外のフック掛けに
掛け直しました。

私は後を追うように
外に出ました。

私が外に出たときには
手動の外部切り離し装置の所まで
サリナさんは
行っていました。

私は
2カ所ある
切り離し装置の
もう一方に向かいました。

サリナさんは
指さしながら
「これを引っ張るのね」と
言ってきました。

私は
「同時に引こう」と言いました。


そして
私が目で合図をして
手動切り離し装置を
引きました。

帰還ユニットと
宇宙船は
ゆっくりと離れ始めました。

帰還ユニットは
ゆっくりと回転して行きました。

サリナさんは
急いで
帰還ユニットに戻りって行きました。

サリナさんは
小さいので
直ぐに中に入れました。

私は遅れて
ハッチの所まで行くと
中でサリナさんが
手を引っ張って
中に入りました。

宇宙服が
ふくらんでいるので
ハッチがなかなか閉まりません。

サリナさんは
化粧品の袋を
宇宙に捨て
私を
すごい力で引き込み
その拍子に
ハッチは
閉じました。

帰還ユニットの窓から見える
宇宙船は
徐々に
発光していきました。

そして
数十秒後
宇宙船が
バラバラになって
パーと広がっていました。

もう少し
遅れたら
私もサリナさんも
あの炎の中に入っていたかもしれませんでした。


地球から
無線で
大丈夫か言ってきました。

私は
「大丈夫」
とはっきりと答えました。


空の色が
暗黒から
徐々に
暗い青から
明るい青に
そして
もっと明るくなっていきました。

その時パラシュートが
開き
衝撃を受けましたが
徐々に落下速度が
ゆっくりになってきました。


そして
雲を過ぎて
揺れる帰還ユニットから見えてきました。

もうすぐ
着地になるので
私とサリナさんは
防護姿勢を
取りました。

着地の瞬間は、
それほど大きな
衝撃を受けませんでした。

私は
無線で
着地を告げました。

狭い帰還ユニットから
外に出ればいいのですが
マニュアルに
火星の生物を
持って帰ってきた
恐れがあるかもしれないので
ハッチは開けてはならないことになっていました。

40分くらい経った後
外の準備が整ったので
ハッチを開けました。
帰還ユニットのハッチが開くと
私の上を乗り越えて
サリナさんが
サッと
外に出ました。

私は
後ろを振り返りながら
ハッチからでたときには
サリナさんは
既に
ヒーローのように
写真に撮られていました。

私は
「あっ」と
口があんぐり開いてしまいました。


外には
スタッフや
記者・カメラマンがイッパイ
並んでいました。

私は
二番目で
それほど
写真にも撮られず
ヘリコプターに乗りこんで
本部の方に向かいました。

本部の
屋上には
もっとたくさんの人たちが
空から見ると並んでいました。

白髪のお茶の湯博士も
そして私の母もいるようでした。


私とサリナさんは
宇宙服を
脱ぐことができませんので
懐かしさのあまり
涙が出ても
拭くことができませんでした。

そして
ヘリコプターの
ドアが開いて
またまた
サリナさんが
一番に下りていきました。

私は
後から
付いて行きました。

サリナさんが
記者の取材を受けている
横を通り過ぎて
お茶の湯博士と母の元に行きました。


アスカル:
ただいま帰還しました。

お茶の湯博士:
お帰り
大変でしたね
でも予定より
2年も早い帰還
ご苦労様

母:
お帰りなさい
元気で帰ってきてくれてうれしいよ

アスカル:
ありがとうございます。
皆様のおかげです。

お茶の湯博士:
SCのサリナさんが
いて大変じゃなかった

アスカル:
はじめは大変でした。
でも
最後には
サリナさんがいたから
楽しい火星旅行で
また無事に帰れたのだと思います。
今では
サリナさん様々です。


お茶の湯博士:
そうなの

母:
そうなの
おまえは
優しいからね


そんな話をした後
サリナさんと
私は
隔離ユニットの中で
1ヶ月暮らすことになります。

でも
元々
私ひとりが行って帰ってくることになっていましたから
隔離ユニットも
ひとつしかありませんでした。

一ヶ月
私は
サリナさんと
一緒に暮らすことになったのです。



不自由な探査機と違って
隔離されていても
何でも手に入る状況でした。

サリナさんは
料理が元々好きだったかどうかわかりませんが
ありあまる時間を
料理に掛けていました。

私も
飛行レポートをまとめる傍ら
サリナさんと
料理をしていました。


新しい料理を考えたり
いろんな調味料を試したり
SCとSDですので
科学的な
研究として
料理をしていました。

いろんな機材も用意して
それはそれは
実験室のようでした。


一ヶ月は
あっという間に過ぎました。

そして
隔離から解放されました。

外に出たときは
報告や
記者会見などが
多忙でした。

サリナさんと
一緒に記者会見するときは
決まって
サリナさんは
写真を見せながら
「火星に最初に行ったのは
SCの私です」と行ってから
話し始めます。

私は
ここまでくると
火星に最初に行ったかどうか
どうでもよかったのですが
世間では
サリナさんが
本当の宇宙飛行士で
私の方が
無理やり乗った方だと
思われ始めたのには
驚きました。

でも
私はどうでもよかったのです。

私は
私の経験を
次の飛行士に
講義したりして何年か過ごしました。

そんな生活をする中
サリナさんは
今までのように
私と暮らしていました。

サリナさんは
身寄りがなかったのです。

ふたりは
一緒に講演会に呼ばれたり
あるいは
テレビのバラエティ番組に出たりして
人気者になっていました。

次の
火星探査機への
飛行も
SDに成るみたいでした。

また
SCを作っても良いかどうか
論議が巻き起こっていました。

サリナさんが
理知的で
協調性があるので
そんな論議が巻き起こっているみたいです。


私の母は
私に結婚を勧めますが
もう歳を取ってしまって
そんな事する元気もありませんでした。

今は
サリナさんと一緒に過ごせて
楽しく思っています。

そう言いながら
私は
隣の
サリナさんを見ると
向こうを向いて
笑っていました。


「アスカル帰還せよ」
終わります。

宇宙で出会った
ふたりは
この後どうなるのでしょうね。


次回から
新作書いてみます。

新作を乞うご期待下さい。

期待何かしませんですよね。
やっぱり、、、、