正子は 鉄を サッサと切って パッパと溶接したら 圧力タンクなんか かんたんにつくれるのにと 思っていたのですが それが メッチャ大変なんです。 正子の住んでいる 尼崎には 鉄工所が 並んでします。 スケッチを持って 訪れるのですが 図面がないと 話さえできないのです。 検討すると 言ってくれた 鉄工所も 連絡が来ないのです。 そんなことが続いて もう夏になっていました。 社長も しびれを切らしたのか 探し始めました。 そんな中 正子は 作ってくれる 鉄工所を ついに見付けました。 それ程小さくもなく 大きくもなく ステンレス加工用の クリーンルームも 持っていました。 夏の終わりに 図面ができて 圧力テストをして 12月のはじめに 納品されました。 大きさは 高さ70cmほどのものです。 600Aの 鉄パイプに 両端に フランジを 取り付けて ブラインドプレートに のぞき穴を設けたものです。 横に 電気の線の 挿入口と 加圧空気を入れるコック それと 連成計(高圧と真空の状態を測定する計器)が 取り付けられていました。 研究室は 天井高がないので 倉庫の 片隅に置きました。 のぞき窓のある 蓋が 100Kg近くあるので クレーンで 蓋を開け閉めするのです。 天井の鉄骨から 小型クレーンで 蓋を吊っていました。 タンクが来て クレーンを設置して 使えるようになったのは 正子が 考えついてから 1年経った 12月の 20日でした。 4時頃になっていましたが 正子は 最初の 実験をすることにしました。 タンクの中に 「キッチンエイド」 (アメリカ製の攪拌機の商品名です) を中に入れました。 攪拌槽に 生クリームを入れて 蓋をしました。 周りにある フランジのネジを メガネレンチで すべて しっかりと 固定しました。 ノンオイルコンプレッサーから 圧縮空気を送りました。 10気圧まで上げることができますが はじめてですので 3気圧まで上げました。 (計器は国際単位系で メガパスカル表示ですが 作中では 気圧(atmosphere)を用います。) 機械の電源を 外から入れると 中で回り始めました。 生クリームは 冷たくした方が 泡立つのですが ちょうど 寒い冬で 暖房の効かない 倉庫だったので 何もしなくても冷たかったのです。 外から見ていて 充分に 泡だったと 思ったので 止めました。 そして 圧力を抜いて ボルトを外し 蓋を開けました。 中のものを見て 正子は 目を大きく広げて 大きな衝撃を受けました。