ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

ブログ小説「順子」その30まで

ブログ小説「順子」 1

もうすぐ
クリスマスですよね。

クリスマスが終わったら
お正月ですよね。

おめでたい時期ですので
ファンタスティック な
物語にしようと思います。

本当は
長編小説「昭和」の続けるのですが
と考えて
ファンタスティックな方が
良いと思いまして

ファンタスティックとは
ファンタジックという
和製英語になっているそうです。

日本語では
(1)幻想的・空想的なさま。また、風変わりなさま。
「ファンタジックな童話」
(2)すばらしいさま。
「ファンタジックな気分」
と言う意味らしいです。

あなたもそんな意味で
使っていましたでしょうか。

私の
力が
全くありませんので
そんな幻想的な
物語は
絶対に無理かも知れませんね。


それでは
はじめますが
期待せずに
読んでいただけたらと
思います。

ここから本文です。
__________________
順子は
昭和41年に生まれました。

母親は
元気な
女性でしたが
どういう訳か
早く生まれてきてしまいました。

早産でした。

早く生まれて
当時としては
珍しい
保育器の中で
育ちました。

数ヶ月後
退院して
母親にはじめて
抱かれましたが
その後も
熱を出して
入退院を繰り返していました。

母親は
初めての子供でしたので
病気がちな
子供に
不安で一杯でした。

そのうえ
両方の実家から
遠く離れた
九州に
転勤していて
お友達も
いないところで
一層の不安でした。

頑張って
育てようと思えば思うほど
空回りを
感じていました。

何度目かの入院の時
母親は
いつものように
夜も付き添っていました。

順子が
安心したように
寝ていたので
母親は
家に一時帰ることになりました。

その日は
満月で
月明かりが明るい
夜でした。

遠くを見ながら
歩いていると
地平線に
一筋の
星が
流れました。

母親は
思わず
「順子を元気にして下さい」と
願いを
かけてしまいました。


2

親として
当然の
普通の願いです。

願いをしたからといって
叶うなど
全く思っていませんでした。

振り返って
病院を見ると
うっすらと明るくなっているように
見えました。

車のライトでも
当たっているのかと
母親は
思いながら
早々と
用事を片付けるために
家に急ぎました。

手際よく
片付けて
病院に戻ってくると
順子は
まだ
寝ていました。

頭を撫でると
熱が下がっているのか
熱くありません。

母親は
順子の顔を見て
仮眠に付きました。

何時間が過ぎて
順子が
起きたので
母乳を与えました。

いつもと違って
母乳を
よく飲みました。

朝になって
看護婦さんが
検温にやって来ました。

昨晩までの熱が
ウソのように
引いて
平熱になっていました。

その日は
母乳をよく飲み
血便も
なかったのです。

医師が
「軌跡の回復」と
告げて
3日後に
退院しました。

退院後
熱は
でなくなりました。

それから
転勤が決まって
順子は
お祖母さんのお家の
近くに
引っ越して来ました。

今まで
3人家族で
暮らしていた
順子は
一気に
家族が増えました。

順子は
目がくりくりとして
とても可愛くて
家族の
そして
近所の
人気者に
なっていました。

大きくっても
背は高くはならず
一番小さい
幼稚園児になりました。

近所の
男の子たちと
一緒に
幼稚園に通っていました。

そんなある日
幼稚園から帰ってくるのが
遅いと
母親が
思っていたときに
警察から
電話がかかってきたのです。

「順子ちゃんが
バイクにはねられて
病院に入院した」との
知らせです。

母親は
自転車に乗って
病院に向かいました。




3

相当重体だと
連絡がありました。

もう無我夢中で
母親は
自転車を
こいでいました。

年末の
冬至十日前で日の暮れるのが
一番早い時期だったので
一番星が
輝いていました。

そんな時
一筋の流れ星が
病院の方向に
飛んでいきました。

母親
とっさに
「順子が助かりますように」と
願いをかけました。

あとになって
わかるのですが
順子が
赤ちゃんのときに
願いをかけたときと
同じだわかるのですが
そんなことは
この時には
わかりません。

病院に着くと
急いで
ICUに向かいました。

ガラス越しに
順子は
体にいっぱい線を繋がれていました。

枕元には
いろんな機器が
付いていました。

看護婦さんが
走り回っていました。

看護婦さんを母親は捕まえて
話を聞こうとしました。

「お医者様から
説明します」と
返事して
足早に去ってしまいました。

ガラス越しに見ながら
心配そうに見て
待っていると
父親もやって来ました。

ふたりは
泣きそうに成りながら
待っていました。

ガラスの向こうでは
慌ただしく
医師や看護婦が
順子の周りにやってきました。

その陰になって
ガラス越しからは
順子の様態は
見えなくなりました。

数分経って
医師や看護婦は
穏やかな表情になって
そこから離れていきました。

医師が
やって来て
笑顔で
「順子ちゃんは
凄いですね。

奇跡です。

あんな状態だったのに
意識も戻って
もう心配はありません」と
告げたのです。

ふたりは
抱き合って
喜びました。

おじいさんや
おばあさんも
やって来て
事情を話すと
みんなで
「よかった
よかった」と
話しました。

あとで
詳しく
看護師さんから
聞いた話によると
「順子は
病院に
運ばれてきたときには
瀕死の重体で
一時
心臓が
止まったそうですが
奇跡的に
助かることになります。

医師や看護師も
順子の
そんな回復力を
驚いたそうです。

奇跡以外何ものでもない」らしいのです。








4

家族は
清浄服をきて
ICUに入りました。

順子が
こちらお見ていて
「お父さん
お母さん
おじいさん
おばあさん
心配をかけてすみません。

わたしは大丈夫だから
安心して
家に帰ってください」と
いうのです。

幼稚園児の
順子が
大人のようなことを
言うので
一同驚きました。

手や足の
包帯に
血がにじんでいるところがあって
痛々しく見えるのになぜか
笑顔で
話すのです。

今までの
順子なら
転んだだけで
「痛ーい」と
いって泣き叫ぶのに
そんなことなしに
冷静に
話すのです。

みんなは
無理をしているのだろうと
ねぎらって
その日は
病院に任せて
帰りました。

翌朝
母親が
病院にいくと
一般病棟に
すでに移っていました。

「もう痛くない」と
いうのです。

麻酔が切れて
きっと痛いはずだと
看護婦さんは
いっていましたが
笑顔で
そういうので
誰もが
安心しました。

事故を起こした
運転手が
やってきて
平身低頭
平謝りで
謝っていました。

順子は
その
白髪の運転手に
「わたしは大丈夫です。

わたしも落ち度はありますので
そんなに
気にしなくても
いいです。」と
いったので
運転手は
恐縮して
帰りました。

それから
一週間で
退院して
幼稚園に
また通い始めました。

まだ
抜糸できていないのに
少し足を引きずりながら
幼稚園に行きました。

母親は
事故にあってから
順子は
変わったと
思っていました。

今までなら
どこの幼稚園児でも同じように
弟と
おもちゃの取り合いや
駄々をこねることも
あったのに
今は
弟の
面度もよく見て
けんかなどすることは
ありません。

事故で
頭の中が
少し変わったのかと
家族は
話していました、

翌春
順子は
小学校に
通い始めます。

順子の学年は
少し人数が
少ないくて
2クラスしかありません。

順子は
クラスメートとも
仲良くしていました。

背はほとんど大きくなっておらず
学校で
一番の
チビでしたが
その利発さは
大人なら
分かるものでした。

入学するときに
もらった教科書は
その日のうちに
読みました。

順子は
ひらがなが
読めて
漢字も
少し読めました。

計算も
できました。

家族のものが
教えなくても
知っていたので
誰に教えてもらったのか
母親は
少々不思議に思っていました。

授業が始まると
順子は
もちろん
すべてが分かってはいましたが
真剣に
先生の話を聞いていました。

「分かる人
手を挙げて」の言葉で
いつも
順子は
手を挙げていました。

しかし
みんなが
分からないときに
ひとりだけ
手を挙げていると
「それは
どうなのか」と
順子は
思いました。

偉そうといえなくもないし
せっかく先生が
説明しようとしているのに
出鼻を
くじくようにも見えるし
10日ほどたった日からは
みんなが
分からないときは
手を挙げないように
していました。

そんな順子を
先生だけではなく
クラスメートも
見破っていたのです。

5

大人びた
順子は
みんなの
羨望の的になるのではなく
失笑の対象や
いじめの対象となります。

子供がよくやるいたずらで
ドアの上に
黒板消しを
挟んで
ドアを開けると
落ちてくるというものも
順子にされたことがあります。

何も知らない
順子が
ドアを開けると
落ちてくるのですが
順子は
それを予測しているかのように
ひらりと身をかわし
手で受け止めました。

そして何もなかったように
黒板に
戻して
席に座るのです。

その俊敏さは
誰にもまねできません。

順子は
賢いだけではなく
運動神経も
相当なものだったのです。

しかし
順子は
控えめでした。

運動会のかけっこでは
二位になるように
走っていましたし
ドッジボールでも
適当なところで
ボールにあたっていました。

スポーツで
目立っても
仕方がないと
思っていたのです。

それにはわけがあります。

順子は
おばあさんと
一緒に
テレビを見ることを
日課にしていたのです。

おばあさんが
野球やサッカーの試合の
ニュースを聞きながら
「選手は
たくさんのお金をもらって
試合をしているけど
みんなの
好奇心は
満足できているが
これといった
役にはたっていない」
話していたのを聞いて
そうだと思っていたのです。

スポーツは
社会の役に
大きく役立つことでは
ないと
順子は思っていて
そんなところで
目立っても
仕方がないと考えていました。

それどころか
そんなところで目立っていては
みんなの
もっと役に立つことが
できないとまで
思っていたので
運動の分野では
目立たぬように
行動していました。

先生や
クラスメートも
それにはすっかりだまされていて
少しは
安心していました。

順子の日課は
小学生が
そうであるように
いつも同じです。

しかし
普通の小学生とは
「はなはだ」変わっていた
というか
「模範」ともいうべきかもしれません。

朝早くおきて
お布団をあげて
弟を 
起こして
朝食の用意を手伝って
父親に
新聞を取りにいって
食べたものを片付けて
学校へ行きます。

学校から帰ってくると
手を洗って
宿題をして
弟と
おじいさんとおばあさんの部屋で
テレビを見たり
おやつを食べたり
話をしたり
肩たたきをしたりして
すごします。

母親が
帰ってくると
夕食の用意を手伝って
お風呂を入れたり
夕刊をとってきたり
いろんなお手伝いをします。

父親が
帰ってくると
みんなそろって
楽しく食事をして
順子は
聞き役に
回ります。

学校では
図書室の
大方の本を
速読して
その内容を
ノートに簡単に書いていました。

小学校の図書室に
よく置いてあるような
伝記ものに
大きく感動していて
エジソンナイチンゲール
ヘレンケラー
などに心を動かされて
将来は
看護婦さんに
なりたいと
思うようになりました。

6

大人の目には
子供は
すぐに大きくなるものです。

でも
子供にとっては
時間が過ぎるのが
ゆっくりです。

順子は
早く大人になって
父母を
助けたい
社会のために
働きたいと
思っていました。

子供は
仕事もできないし
たいした
役に立つことも
できない
そのうえ
クラスメートの
いわれのない
いじめもあって
早く大人になりたいと
思っていたのです。

時間は
ゆっくり
順子に流れます。

そんな時
おじいさんに
たずねました。

「おじいさんは
子供の時は
早く時間が過ぎて欲しいと
思いませんでしたか。

子供の時は
何も役にも立てず
みんなの世話になっているだけのように
思うのですが
どうなんでしょうか。」と
言いました。

おじいさんは
日頃から
順子を見ていて
そんな風に思っていると
考えていましたので
答を
用意していました。

「順子は
他の子供とは違って
ものすごく賢いから
学校の勉強なんかは
1年も経たないうちに
会得するに違いないでしょう。

しかし
親が子供に願っていることは
子供が役に立つとか
いう以前に
家族全員が
子供の
成長を
楽しんでいるのです。

おじいさんも
そうですが
一日一日
順子が
大きくなっていくことが
楽しいのです。

パッパッと
大きくなってしまったら
楽しみがなくなってしまうでしょう。

それに
順子も
子供の時は
たった十数年しかない

順子は
もう十歳だから
あと
数年で
大人になってしまいます。

子供の時は
二度と来ません。

もっと楽しんで
それから
家族のみんなを
喜ばせて
すごしたらどうかな。

賢い
順子なら
わかるでしょう」と
答えたのです。

順子は
そうかもしれないと
思いました。

7

小学生を
楽しむことが
家族に
役立つのだと
聡明な順子は
そういう考えに至りました。

家族でいる時間を
大きく取ることにしました。

図書室の
本もほとんど
すべて読み尽くしたし
習い事といっても
塾に行く必要もないし
スイミングスクールなど行かなくても
学校で一番の早さで泳げることも出来るし
そろばんなどやらなくても
見るだけで暗算もできます。

宿題も
いつも一気に仕上げて
時間もかからないなかったのです。

順子は
これまで以上に
早く起きて
母親や
父親の手伝いをしながら
話していました。

近所の人達とは
笑顔で
朝の挨拶を
欠かしませんでした。

学校でも
先生や
クラスメートと
話をするようにしていました。

帰って来たら
弟や
おじいさんやお祖母さんと
これまで以上に
話すようにしました。

順子の変わり方に
違和感を覚えたのは
学校の先生と
クラスメートです。

クラスメートは
今までは
順子を
無視していたのですが
この
笑顔攻勢に
従わざる得なくなって
結果として
仲良くなりました。


そうなると
意外と
小学生も
悪くないと
順子は
思いました。


順子は
五感が
普通の子供より
優れていました。

でもそのことに
順子は
気が付いていませんでした。





8

みんなも
そのように
感じていると
思っていたのですが
順子だけが
そうだと気付くときが来ました。

順子の家の
近所のおばあさんがに
ある臭いが
したのです。

朝になると
外でかどはきを
いつもしていて
その横を
挨拶して登校していくのですが
あるときから
その臭いがしたのです。

だんだんその臭いは
強くなっていきました。

それと同時に
何か痩せていくような
元気がないように
なっていました。

ある日から
外にいなくなりました。

それから
1ヶ月あまり
家で
テレビを見ていると
おばあさんが
「近所のおばあさんが
癌で
入院したそうで
相当悪かったそうだ」と
話をしてくれました。

順子は
「あの臭いは
何だったんだろう」と
思いました。

それから
また
約1ヶ月たってから
おばあさんが
退院してきました。

まだ
本調子ではないようですが
朝の挨拶を
おばあさんと
しました。

あの気になっていた
臭いが
なかったのです。

順子は
あの臭いは
病気の
臭いだったんだと
思いました。

家の
おばあさんに
そのことを
話したけど
そんな臭いは
わからないと
いわれました。

学校までの
道筋の
朝の食事の
献立が
臭いでわかるといっても
家族のみんなは
不審な顔をしていました。

そのときに
そんな臭いが
わかるのは
自分だけだと
はじめて
わかったのです。



9

犬のような
微妙な臭いが
わかるのが
自分だけだと気が付いた順子は
見え方も
私だけではないかと
思い始めました。

幼かった小さい時から
ジッと
見ていると
透けて見えるのです。

夏なんか
薄着になる季節なんかは
じっと見なくても
体が見えてしまうのです。

あまり見ないようにしていました。

視力検査に至っては
一番下の小さい字が
はっきり見えるし
遠くの人の
表情も
見えていました。

きっと
こんなに見えるのは
自分だけだと
順子は
思いました。


そんなある日
学校から帰って
宿題を
すまして
弟と
お祖母さんの部屋に行くと
例の
臭いが
部屋にしました。

クンクンと
順子は
臭いの方向を
捜すと
お祖母さんの方から
匂うのです。

病気のサインと
順子は
思いました。

お祖母さんに
体のことを
聞きましたが
特に
自覚症状は
ないと言います。

順子は
お祖母さんを
ジッと
全身を
見ました。

体の中が
順番に見えてきました。

学校の図鑑で
体のことを
勉強していたので
よくわかりました。

じっと見ていると
お腹のあたりに
何か
塊のようなものが
見えました。

お祖母さんに近づいて
お腹のあたりを
しげしげと
見ました。

お祖母さんは
不思議そうに
順子を見ていました。

順子は
手で
お祖母さんの
お腹を
少し押しました。

上から見ていて
異物のあるところです。

それ程押さなかったのですが
お祖母さんは
相当痛そうに
悲鳴を上げました。

順子は
「ごめん
ごめん」といって
誤りました。

お祖母さんに
臭いがあることを
言って
早く
病院に
行く様に
勧めたのです。

その気迫で
お祖母さんは
翌日
病院に行くことになりました。




10

医師さえ
病気じゃないと
見ていましたが
あまりにも
お祖母さんが
そう言うので
検査をすることにしました。

胃カメラです。

お祖母さんは
少しためらいましたが
順子が
あんなに言ったので
検査を受けたのです。

胃カメラは
医師が
映像を見ながら
検査をしていくので
悪いのが
その場ですぐわかります。

一番
癌が出来やすい
胃前庭部を
胃カメラで見ると
何か怪しいものが見えたのです。

医師は
くまなく見て
確信しました。

その日の内に
お祖母さんに伝えられ
3日後に
入院と言うことになりました。

医師は
「初期の癌で
すぐに治る」と
告げられていました。

順子の
言ったことは
正しかったのです。

お祖母さんは
順子が
癌の臭いが
わかることを
はっきりとわかりました。

でも
誰にも言いませんでした。

3日後
入院したお祖母さんのところに
母親と一緒に
見舞いに行きました。

順子は
病院の中を
不思議そうに
見回っていました。

例の臭いがする人もいれば
もっと他の臭いがするものも
居ました。

病院には
いろんな人が
働いていました。

よく知っている
看護婦さんや
お医者さんです。

順子は
幼稚園の時に
事故で
入院して以来
病気をしていないので
来たことがありませんでした。

看護婦さんは
テキパキと仕事を
片付けていきますが
医師が
その指示をしているようです。

順子の目には
医師が
「一番偉いんだ」と思いました。

その日から
順子は
医師になりたいと思いました。

お祖母さんに聞くと
「順子なら
充分に大丈夫

絶対に
よい医師になれるよ」と
答えてくれました。

順子は
毎日
病院に行きました。

手術をした後は
臭いがなくなりました。

「すごい」と
順子は
思いました。

お祖母さんは
無事に退院して
元の生活に戻りました。



春になると
順子は
中学生になりました。

小さな中学生でした。

しかし利発な
順子は
クラスでも
人気者でした。

中学生になっても
順子は
家族とクラスメートを
大切にしていました。

そして
順子の
能力も
もっともっと
ついてきました。

臭覚や視覚だけでなく
聴覚もはるかに人間を
越えていました。







11

聴覚は
聞こえないほどの声や
遠くの音で聞こえないと考えられるような音を
順子は聞こえました。

実際の音ではなく
相手が
心に思っていることも
聞こえてくるのです。

初めて
聞こえはじめた時は
順子は
びっくりというか
困惑というか
大変なことでした。

友達と思っていたのに
そうではないと
わかってしまったときの
落胆は大きいものでした。

しかし
その声は
聞こえないことにしました。

聞こえないふりをして
その場は
切り抜けました。

順子は
そんな風に思われているのは
自分のせいだと
思うことにしました。

陰日向なく
接していたら
きっと
本当の友達に
成れると
思っていたのです。

そこまでの声は聞こえなくても
「小さい」という声は
道を歩いていると
よく聞こえました。

順子は
中学生になっても
小学4年生くらいしかの
背丈で
おまけに童顔だったのです。

目がくりくりとしていて
可愛い順子が
セーラー服の
制服を着ていると
中学生なのに
小さいと
誰もが思うのは
当然です。

「ちいさい」と
言った
人に
笑顔で
会釈をすることにしていました。

朝で
近所の人なら
順子の方から
「おはようございます」と
言うようにしていました。

そんなことをしていると
「ちいさい」と言う言葉から
「かわいいね」に
それから
「よくできた子ね」に
変わっていきました。

こんな風にして
順子は
背はともかく
心は
成長していきました。






12

今日は
2015年12月24日
クリスマスイブですね。

順子の事実が明らかになります。
__________________


順子は
小さくても
大きな能力を持った
中学三年生になりました。

その頃になると
順子は
その能力を
制御する力も
同時に持っていました。

心の声を聞くかどうか
透視力を使うかどうか
ずば抜けた嗅覚を使うかどうかを
任意に使うことが出来ました。

順子は
友人には
その力を
特に使わないように
気を付けていました。

3年生になって
順子は
押されて
生徒会長になりました。

3年生からは
順子さんと呼ばれ
下級生からは
生徒会長と呼ばれるようになったのです。

早朝時
登校してくる
中学生を
生徒指導の先生と一緒に
順子は
校門で
朝の挨拶をしていました。

いろんな子の心の声を聞いて
いじめが
あるように思いました。

順子は
心が淋しくなりました。

いじめの現場を
順子は
その超能力で
調べて
その現場で
注意するようにしました。

表面上は
いじめは少なくなりましたが
順子は
まだまだだと思いました。

そんなある日
順子は
呼び出されました。

順子は
そんな風には思っていませんでしたが
いわゆる不良グループです。

順子に邪魔されて
逆恨みしている
グループだったんです。

グループのトップは
「うぜーんだよ

生徒会長だからといって
俺たちに
文句を言う
資格なんかないんだ

お前なんか
ちびなんだから

小学校へでも戻れ」と
ののしりました。

順子は
少し怖かったけど
心の声では
不良グループの多くは
何かおびえているようでした

「人に優しくすることは
楽しいことです。

いじめなんかして
あなたの心に
傷を付けて
楽しいことではないでしょう

みんなと
優しく話せば
良い考えも出るし
幸せにもなるのよ」と
ゆっくりと話しました。

そんな話をしているとき
S男が
突然現れて
「何をしているの
女ひとりに
みんなで
囲んで
何をするんだ」と
叫びました。

S男は
クラスメートで
背は高いが
ひ弱で
イケメンでもなく
マッチョでもない
どちらかと言えば
いじめられているグループの
一員でした。

顔を真っ赤にして
格好良く登場したのですが
不良グループの
一番の格下の不良に
腹を一撃され
うずくまってしまいました。

順子は
「何をするの」と
言ったのを
始まりに
不良グループは
次々に
順子に襲いかかってきました。

順子は
それを
右にそらし
左にそらし
屈んだり
飛び跳ねたりして
除けました。

不良グループの
拳は
一度も当たりませんでした。

相当長い間
それが
続いて
不良グループは
疲れてしまいました。

へたってしまいました。

順子は
「運動は
それくらいにして
私の話を
聞いて下さい。

暴力は
相手も痛いかも知れませんが
自分にも
痛い
特に
心が
いたいと思いませんか。

人に優しくした方が
きっと
あなたの心も
暖かくなります。

明日から
一度
試して下さい。」
と
ひとりひとり不良グループの目を見て
話しました。

そのときに
順子は
「優しくなりましょう」と
念じていました。

不良グループは
何かわかったように
立ち上がって
軽く会釈して
離れていきました。


その様子を
見ていた
S男は
驚いていました。

順子は駆け寄って
S男を
見ました。

お腹当たりに
アザが出来ていましたが
内臓には
問題ないみたいです。

順子は
「S男さんありがとうございます。

痛かったでしょう。

勇気ありますね。

本当にありがとうございます。」と
お礼を言いました。

順子は
S男に手を貸して
保健室に
行きました。

そんなところに
順子の
友達の
M子さんが
現れて
今までの話をしました。

S男は
恐縮しながら
順子と
M子と話しました。

そんな事があってから
3人は
一緒に
下校することが
多くなりました。

すっかり
3人は
友達になっていました。

友達の多い
順子ですが
男の子の
友達は
それ程多くありませんでした。

その上
毎日
一緒に学校を帰る男友達など
今までには
ありませんでした。

普通の女の子と同様
順子も
ほのかな
恋心を
抱くようになりました。

何ごとも
積極的な
順子ですが
こんな事には
ためらいます。

夏も終わり
秋も過ぎ
2学期の終わりになる
大掃除の日に
S男は
順子に話があると
言いました。

順子は
びっくりしました。

階段の踊り場で
その話を聞きました。

S男は
「こんなことは
順子さんに
たのむことかどうか
迷ったんだけど
頼めるのは
順子さんだけなので
、、、、、」と
まずはなしました。

順子は
耳たぶが
熱くなるように
感じました。

「ぼく
M子さんが好きなんだ。

一度
M子に
どう思っているか
聞いて下さい」と
顔を真っ赤にして
話しました。

順子は
好きな人に
そんなことを
頼まれて
どう返事をして良いか
わかりませんでした。

それで
軽く会釈して
別れました。

その日は
授業が終わると
ひとりで
帰りました。

帰っても
何も
手に付かなかったけど
そこらここらの
掃除をして
お手伝いを
黙々とこなしました。

クリスマスイブの
ケーキも
あまり食べませんでした。

後片付けをして
お風呂に入りました。

お風呂で
涙が出てきました。


早く寝てしまいました。

寝床で
「神さま
私はどうすればいいのでしょう」と
心を念じていました。

すぐに寝入りに入りました。

順子が
目覚め
目を開けると
光の世界が
出現していました。

光があふれていて
それでいて
まぶしくないのです。

順子は
夢の世界かと思いました。


少しの時間が過ぎると
順子の前に
光が集まってきて
だんだんと
形が出来上がってきました。

どんな形かと
表現が出来ませんが
神々しい
形でした。

そして
声がしたのです。

”順子
私は神です。

あなたを
生まれるときから
見ていました。

順子の
母親のお願いを聞いて
赤ちゃんの時に
天使の体を与えました。

幼稚園の
交通事故の時に
天使の心を与えました。

順子は
心も体も
天使になっています。

人間界で
修行した
初めての
天使です。

順子は
人間の形をしていますが
私の分身の天使です。

天使だからと言って
人間のように
恋をしてはいけないとは言わないけど
あなたは
人間に
幸せをもたらす
天使であることを
第一に考えて下さい。

そのための
能力を
私は
あなたに
充分に与えています。

わかりましたね
順子”

と声が聞こえて
自分を見ると
白いワンピースで
右手には星の付いた小さな棒を
左手に小さなハープを持っていました。

「神さま
私は
どうすればいいのですか」
と
順子が言うと

”あなたは
あなたが思ったように
行動すれば
あなたの行いは
すべて
神の意思によるものとなります。

迷ったときは
あなたが心の中で
思ったように
すればいい。”
と返事がありました。

その後
光の塊は
パーと消えて
光の世界は
だんだんと
暗くなってきて
真っ暗になって
順子は
寝入りに入ってしまいました。

母親の
「順子
大丈夫
昨日早く寝たけど
体大丈夫」という声で
目が覚めました。

順子は
何かすがすがしい
一日の始まりでした。



13

夢で見たのか
現実だったのか
わかりませんでした。

でも
自分の能力は
人間を越えていると
考えている
順子には
「たぶん
私は
天使なんだろう」と
確信していました。

夢の中で
「思った通りにやれば
良い」という言葉に
従おうと思いました。

学校に行ったら
先ず
M子に
S男が聞きたがっていたことを
聞きました。

M子は
「S男のことなど
考えていなかった」と
答えました。

それを
すぐに
S男に話すと
少し落胆していました。

しかしその後
S男とM子は
仲良くなることになります。

S男は
順子に
お礼を言ってきました。

クラスメートたちは
順子は
愛のキューピットと
評判になっていました。

順子は
その評判を
聞いて
キューピットではなく
天使だと
思いました。

でも
ふたりを
幸せに出来て
良かったと
思いました。

順子は
天使として
生きていこうと
この時思ったのです。

2月になったとき
順子の家族は
西淀川に
引っ越すことになりました。

父親が
散髪屋さんを
やり始めたのです。

母親や
お祖母さんも
手伝うそうです。

店の開店に
お金が
必要だったので
順子は
高校への進学を
諦めようと
考えていました。

しかし
順子は
医師になりたいことは
学校の先生も知っていました。

そこで
学校の先生が
特待生の制度を
利用するように
言ったのです。

順子が
ずば抜けて
賢いことは
みんなは知っています。

私立学校の中には
優秀な生徒を集めるため
学費無料奨学金付与の
生徒を募集しているのです。

1名とか
2名の
狭き門なのです。

順子は
これを
受験することになりました。

今まで
順子は
100点を取らないように
少しだけ
わざと間違えるようにしていましたが
その試験では
そんなことをしませんでした。

その結果
順子は
春からは
クラスメートたちが
普通に行く高校とは
相当離れた
高校に通うことになりました。







14

順子が
奨学金付で
通い始めた
高校は
ふたつのコースがあります。

ひとつは
普通科
もうひとつは
特進科です。

普通科は
6クラスあって
特進科は
2クラスの
理系と文系に別れています。

順子は
理系特進科で
女子は
順子だけです。

学費無料の
優待生は
順子と
もうひとりだけです。

普通科の生徒と
特進科のとは
軋轢があります。

それは最初は
普通科の生徒の
ねたみから
出来たのですが
恨みが恨みをかって
だんだんと大きくなったのです。

順子が
入学したときには
理由も何もなく
相互に
怨んでいました。

そんなため
特進科と
普通科は
職員室を通らないと
いけないような
構造になっていて
それが
余計に
ひどい状況を作っているようでした。

特進科の中でも
ねたみや
恨みががりました。

順子のように
学費が無料で
奨学金付の者と
その他の者との
軋轢です。

根は深いことに
なっていました。

順子は
恨みをかうことが
わかっていても
全力で
中間テストに
向かいました。

トップでないと
奨学金が
全額でないからです。

順子は
細心の注意を払って
試験を受けました。

天使の力を
もしかして
知らずに使っていたかも
知れないと
順子は
思いました。

試験が終わって
3日後
席次が
発表されました。

順子は
トップでした。

順子は
それを見て
安心しましたが
他の者からは
強い視線を感じました。

順子は
心の声を
聞かないように
いつもしていましたが
もし聞いていたらと
考えると
順子は
容易に想像できました。

順子は
「病んでいる」この高校を
何とかしなければと
考えはじめました。






15

順子は
まず
普通科の
リーダーと
話すことにしました。

中学校の時は
向こうの方から来たのですが
高校では
順子の方から
会いに行きました。

職員室を
越えて
会いに行くと
先生に
わかるので
校門を少し出たところで
待っていました。

リーダーの顔を
順子は知りませんでしたが
超能力で
何とかしました。

リーダーは
A男でした。

背が高くて
がっちりした体格です。

人相も
少し怖いように見えました。

A男が来たので順子は
「A男さん
こんにちは

少しお話しして
良いですか」と
話しかけました。

A男は
順子の顔を覚えていて
「順子じゃないか
天才の
チビの優等生が
どんな
話しじゃ」と
と答えてきました。

順子:
名前を
覚えて
頂いていて
嬉しいです。

同じ高校に
通う者なのだから
仲良くしましょうと
思って
声をかけました。

A男:
ひょっとして
俺に惚れたのか

俺には
お前のような
チビは趣味ではないけど
それに
お前は
特進科だろう

お前なんかと
仲良くしたら
男が廃るわ

順子:
科が違っていても
仲良くすれば良いんじゃないですか

A男:
秀才に
そんなことを
言われても
できないものは
出来ない

順子:
そんなことを言わずに
仲良くしませんこと

そうだ
今度の
球技大会で
何かしません。

A男:
球技大会では
普通科と特進科の
試合などない

そんな事しても
秀才に
俺たちが
勝つわけがないだろう

順子:
そんなこと
わかりませんよ

特進科の中にも
スポーツに優れた者も
いるかも知れませんよ。

A男:
それはないな

試合をして
決着を付けようか










16

そんな風にして
順子は
普通科の生徒とは
話をつけました。

問題なのは
特進科です。

特進科生徒たちは
スポーツを
バカにしていて
球技大会など
眼中になかったのです。

そこで
スポーツが
楽しいか
みんなに示すことにしました。

球技大会では
バレーボールと
バスケットボール
ミニサッカーが行われます。

背の低い
順子は
ミニサッカーに出場する予定です。

授業が終わると
順子は
ユニホームに着替えて
運動場で
サッカーの練習です。

順子は
どこで練習したのか
ボールの扱いが
極めて上手なのです。

校舎の窓を向いて
リフティングを始めました。

足や頭を使って
何度も
していくのです。

特進科の生徒のひとりが
それに気付いて
みんなを
窓に呼びました。

見られていることに気が付いた
順子は
笑顔で
窓を見ながら
難度の高い
リフティングをします。

たぶん全員が
集まったと思った頃に
そのボールを
最大の力を使って
正確に
真上に蹴り上げました。

その後
ボールを
手で受けて
順子は
「皆さん
私と一緒に
サッカーをしませんこと
楽しいと思いますよ

皆さんなら
たぶん
出来ると思います

球技をしたいと思う人は
運動場に出てきて下さい」と
笑顔で話しかけました。

そのときに
少しだけ
能力を使いました。

しばらくすると
みんなは
運動場に降りてきました。

そして
練習を始めました。








17

平素
勉強ばかりしている
特進科の生徒には
この練習は
新鮮でした。

それに
順子が
ドリブルで
男どもを
サッサと抜き去ることに
驚きと
悔しさから
頑張っていました。

そんな日が
数日過ぎると
形ができてきて
おもしろくなったのでしょうか
進んでするようになっていました。

1週間後
球技大会が行われました。

順子が出場する
サッカーには
多数の観客がありました。

出場しないものは
応援団を作って
応援していました。

そんな中
順子を
応援するものも
ありました。

普通科の
クラスとの対抗です。

順子は
真の力を
わからないように
出していませんでした。

順子の力を持ってすれば
ボールを奪って
ひとりでドリブルして
シュートすることもできましたが
それでは
目的を達成できません。

順子は
ボールを奪うと
周りのクラスメートに
ボールを出して
回していったのです。

チームの力で
勝つようにしました。

普通科の生徒も
ボールを奪って
シュートを試みます。

はた目には
均衡の取れた
良い試合になっていました。

結局
試合は
0対0の引き分けでした。

PK戦で
決めることになって
順子が
成功したので
特進科の勝ちになりました。

クラスは
大きく喜んで
ひとつになったように
順子は
思いました。


18

球技大会以降
特進科の生徒の中には
運動クラブに
入るものが
多く出てきました。

何か活気のあるような
クラスに変わっていきました。

順子は
良かったと思いました。

順子は
サッカー部に
誘われましたが
その当時は
女子のサッカーは
なかったので
そう言う言い訳をして
断りました。

順子は
運動より
もっと興味があったものが
有ったのです。

順子は
人間に大きな興味が
あったのです。

そこで
順子を慕う
友達と一緒に
社会クラブという同好会を
作りました。

先生も
順子の力を
知っていたので
すぐに
賛成しました。

社会クラブでは
最初の
研究課題として
「信号を守る人はどんな人」という
ものにしました。

交通信号を
守る人と
車が来ないと
渡ってしまう人の
違いを
研究するというものです。

学校近くの
交差点が
廊下の窓から
よく見えるので
そこで観察するのです。

季節や時間
天候の違いなどで
変わっていくことがわかってきたのです。

同好会自体の
人気も
そんな研究で
上がってきました。

廊下で観察しながら
なんだかんだと
話をするのが
楽しいのです。

順子は
聞いているだけで
聞き上手だったのです。





19

廊下の観測場所は
終始
和やかです。

順子は
長い時間
交差点を
観察して
ある確信を持ちました。

心の声を
聞けば
信号を守るか否かは
すぐにわかるのですが
そんなことをしなくても
わかる方法が
ありました。

次の瞬間
順子は
交差点で待つ
人や車が
守るか守らないか
交差点に来たときに
仲間に
言いました。

当たりました。

最初は
偶然かと
他の者は思ったのですが
当たり続けると
偶然ではないと
みんなは思い始めました。

1時間もたつと
羨望の目で
みられるように
なりました。

どのように見分けているのか
聞いてきました。

順子は
「それは長くなるので
明日
レポートを出します」といって
学校を帰ることになりました。

みんなは
顔を見合わせて
見送りました。

翌日
順子は
鉛筆で書いた
A4リポート用紙
3枚を
みんなに見せて
説明しました。

みんなは
わかったような
わからぬような
顔でした。

その
リポートは
先生にも回され
それから
先生の
知り合いを通じて
大学の先生も
回されました。

リポートを
検証するために
その後
たくさんの学識者が
学校にやってきました。

学校では
交差点が一番良く見える
3階の会議室を
同好会の
部室にして
その対応をしました。

テレビにも紹介され
同好会は
日本で一番有名な
クラブになってしまったのです。

順子は
そんな有名になってしまった
クラブには
顔を出さなくなりました。





20

順子は
目立つことがいやです。

でなくなったのです。

クラブは
学校では
大きな存在で
クラブに入っていると言うだけで
有名人でした。

順子は
クラブの部長でもないので
対外的には
有名ではなかったのですが
クラブ内はともかく
学校内では
順子は
凄い存在でした。

次の
研究テーマを
学校や
クラブの者立ち
クラスメートは
順子に
せがみました。

「といわれても」と
思いました。

「私は
部長でもないし
そんな責任を
きせられても
困ります」と
言おうとしたのですが
優しい順子ですので
ぐっと押さえて
「また考えておきます」と
その場は言いました。


順子が
高校生の頃は
テレビゲームというのが
はやっていたのです。

喫茶店に
テレビゲームの台が
置いてあって
お金を入れて
ゲームをすることができます。

上手な人は
ながくできます。

順子は
一度もしたことがないし
したいとも思っていませんでした。

テレビゲームが
はやっていると言うことは
やる人が多いと言うことで
やりたい人と
やりたくもない人の
違いは何だろうかと
考えたのです。

その違いを
明らかにしたいと
考えました。






21

テレビゲームの
研究課題については
研究結果は
3ヶ月くらいたつと
順子には
わかっていましたが
信号のときのように
順子は
答えを
出しませんでした。

みんなで出すように
努力するのです。

それは
簡単では
ありませんでした。

思わぬものが
答えとなりかけて
反証を挙げて
それはとめました。

なんだかんだと
研究したり
討論したり
時には
コンパをしたり
楽しい時間を
過ごしました。

それ以上に
人間観察もでき
人との付き合いが
わかりました。

研究テーマについては
その答えが出るまで
2年余りが過ぎて
順子は3年生になりました。

順子は
高校三年生になっても
背は
小学生くらいしかなかった。

目が
くりくりとした
童顔であったので
小学生と
間違われることも多かったのです。

それで
いつも
高校の
だぶだぶの制服を
着るようにしていました。

小学生と
間違われないためでした。

順子の
読書力は
すごいと
みんなが思うほどでした。

学校の図書室はもちろんのこと
近くの図書館や
取り寄せができる
図書館の本の
すべてを
読破したといっても
過言ではありません。

すごい速読なのです。

それでいて
よく覚えています。

本から得た知識で
充分に
大学教授ほどの
知識は出来上がっていました。

新刊が
待ち遠しい順子は
近くの本屋さんや
遠くの大型店まで
足を伸ばして
立ち読みをしていました。

ひとつの本屋で
ながいをすると
迷惑をかけるということで
いろんな店を
はしごしていました。

順子は
小さいので
高い棚の本は
取れません。

店員さんに
頼めばいいのですが
本は
買わないのが
基本の
順子は
頼めませんでした。

そのことだけ
背が小さいことを
うらみました。

22



本以外にも
順子は
多くの知識を得るために
たくさんの人と
交わることを
旨としました。

同好会やクラス
学校・地域のイベントには
積極的に参加しました。

そんなときに
順子は
人がどのようなときに
どのような感情になって
どのような動作をするかを
観察していました。

観察する以外に
順子は
気になることがありました。

会った人に
病気を
感じるのです。

病気の
臭いがするのです。

病院で
病棟ごとに
病室ごと
病人ごとに
その臭いが違うことから
その臭いが
どんな病気かわかるのです。

元気そうに見えても
がんの早期だったり
本人はまったくわからないのに
糖尿病だったり
するのです。

明らかに
病気なのに
それを
言うかどうか
いつも
順子は迷います。

何の資格もない
小さい順子が
「あなたは早期の胃がんですから
病院に
行くよう」と
いわれても
誰も信じません。

だからといって
黙って
見過ごすのは
できませんから
順子は
神様に
聞きました。

神様は
順子にとっては
一番の相談相手だったのです。

「順子が
思うようにしなさい。

その力を
与えておきます」と
神様は
答えてくださいました。

順子は
病気の人を見つけると
その人に
「病院に行きたい」と
思うように念じました。

本人が
行かないと
治療もできませんので
そのように
したのです。

このようなことを
念じなければならない人は
一日に
多い日は
3人くらい出てきて
順子は
わかっていれば病名も
その人に教えました。

23

高校生になっても
順子の
日課は
小学生のときと
ほとんど変わりません。

変わったのは
宿題は
学校の休み時間の間に
手儀はよく
やってしまうことくらいでした。

家業の
散髪屋が忙しいので
母親に代わって
高齢になった
おじいさんやおばあさんを
助けていました。

3年生になると
将来の進路が
話題になりました。

誰もが
順子は
医学部に行って
医師になると
思っていました。

順子も
そうしたいと
考えていましたが
それは
容易ではありません。

高校生時代は
学費が無料の特待生で
過ごせましたが
大学では
そんな簡単には
いかないと
思っていたのです。

先生に相談すると
「防衛大学校なら
学費は無料で
お給料までつく」と
言われたのですが
家からは遠くて
両親とおじいさんおばあさんを
置いてはいけないと
おもったのです。

近くで
学費がなくて
奨学金が出て
医学部である必要がありました。

そんなの無理かと思ったのです。

学校の先生や地域の人たちは
そのことがわかっていました。

そこで
探したのです。

スポンサーを
探したのです。

誰の目にも
優秀な医師になると
考えていた
順子を
医師にするための
「会」が
自然発生的に
出来上がったのです。

そんな会が
見つけてきたのが
地元では
有名な企業です。

順子を
イメージキャラクターに使って
宣伝して
その報酬で
大学の学費と
奨学金にするというものです。

その会社は
かまぼこを作っていて
コマーシャルに出るのです。

「かまぼこを食べたら
こんなに賢くなった」というのが
順子の役です。

順子は
かまぼこは好きですが
かまぼこを食べたら
賢くなるという
エビデンスは
当時はありませんでした。

抵抗はありましたが
みんなが薦めますので
それに従うことにしました。

こうして
高校三年生の冬に
テレビコマーシャルに
登場することになります。

小さくてかわいい
順子が
おいしそうに
かまぼこを
食べるだけの
映像です。

服装が
小学生ぽいので
知らない人が見ると
小学生が
かまぼこを
おいしく食べているとしか
見えませんでした。

コマーシャルは
大当たりして
かまぼこもよく売れ
順子も
有名になってしまいました。

そのおかげで
春からは
大阪福島の国立大学の医学部に通うことになりました。

24

大学に入ると
コマーシャルの影響で
超有名人で
入学式では
テレビカメラも
来ているほどで
ニュースに
顔が映るほどでした。

そんな大学に入ると
同級生たちは
順子には
冷ややかでした。

医学部にくるほどの
学生は
それなりに
自尊心が強く
有名人の
順子に
反発があったのでしょう。

先生たちは
入試の結果を
知っていますので
有名だけではなく
実力も
持った学生だと
わかっていましたが
あまりも
小さいので
大丈夫かと
思っていました。

授業では
順子は
完璧でした。

前もって
教科書は
理解していましたし
授業中は
余談を含み
真剣に聞いていました。

実習も
真剣でした。

特に
順子の
「ノート」は
女の子らしく
いろんな色を使って
要点が書かれていて
時折欄外に
先生の余談やエピソードが書かれていて
図もわかりやすく書かれていました。

一年が過ぎると
表向きは
優等生の
順子に
反発をするものも
いなくなってしまっていました。

授業が終わると
すぐに
帰ってしまう
順子と
友達になるものはいませんでした。

順子は
小学生以来の
日課を
変えはしなかったのです。

空いた時間に
本屋にも行かないと行けなかったし
中ノ島の図書館で
江戸時代や
明治時代の相当古い書籍も
読破しようとしていたのです。

25

二年になると
授業や実習は
より専門的になりました。

順子には
すでに
「既知」のことでしたが
ついてこれない
学生もいました。

順子は
ついてこれない学生に
そっと
ノートを
見せようとしたのですが
それが
大きな問題となってしまいます。

クラスのみんなに知れ渡って
その人が
「やめる」といったのです。

順子は
困りました。

何とか説得して
思いとどめることができたのですが
順子は
医学より人間関係が難しいと
思いました。

コマーシャルは
二年生になって
続いていました。

小学生の服装で
かわいく踊るバージョンです。

テロップで
小さく
「イメージキャラクターの
順子は
現在医学生2年です。」と
出ていたので
だれもが
順子を知っていました。

助手の助手で
病棟に行くと
小さいので
すぐ見つかって
話しかけられることも
まれではありません。

そんなときには
ありったけの笑顔で
「勉強中なので
すみません」と
言っていました。

そのことが
余計に好感を持たれて
いました。

教授のなかには
それが
よくないと
思っていたものもいました。

神聖な大学が
穢れるとまで
思っていた
ある教授が
そのことを
順子に注意したのです。

順子は
心からわびた後
「私が
医師になりたいのです。

コマーシャルに出ないと
私は
医学部に行くことができません。

必ず
医師になって
教授の
ご期待に沿えるような
立派なものに
なりますので
どうか
お許しください」と
言うと
教授は
「わかった」と
言ってくれました。

26

そんなことがあって
大学の
順子に対する
対応は
変わってきました。

3年になると
実習はもっと多くなっていました。

順子は
解剖の実習だけは
困ったと思っていました。

順子の透視力を使えば
解剖などやらなくても
中が見えるのですが
実際に
メスを使って
解剖していくのは
苦手です。

細い血管や神経を1本1本取り出して
図に起こしていくのです。

順子は
みんながあっと驚くような
きれいな
解剖図を
書いて
その場をしのぎましたが
それには
超能力を少し使ってしまいました。

順子が
優秀なことは
学部全体の人が
知るところですが
予診実習が始まると
もっと
患者にも
わかるようになります。

予診室で
患者にあった瞬間に
順子は
病名がわかることが
多かったのです。

学生ですので
病名を告げることはできませんが
それを
導き出す問診を
さっさとこなすのです。

悪いところに
手が届くような
問診をするのです。

テレビに出ている
小学生のようにかわいい
女の子が
問診するだけでも
話題になりますが
その問診が
的確なら
もっと話題になります。

順子は
予診の最後に
「かまぼこの順子ですが
この病院では
まだまだの医学生ですのでよろしくお願いします」と
付け加えて
騒がないようにお願いしていました。

そのお願いが
功を奏したのか
病院では
そのことは
あまりに話題になりませんでした。



4年たって医師の試験に合格して
研修医となります。

病棟の
研修医となって
教授の後を
ずらずらと
ついていきました。

順子は
背が小さいので
後ろでは
教授や
患者が見えません。

前に出て
聞きますので
目立つ存在となっていました。

27

病棟の患者も
順子の事は
話題になっていました。

どう見ても
中学生に見える
童顔の
順子は
大きめの
白衣を着て
病院内を
ウロウロしていると
評判になるのは
当たり前です。

それに
処置も
正確で
素速いのです。

静脈注射などは
どんなに難しい静脈でも
一発で
痛くないと
患者の中や
看護婦さんの中では
有名になっていました。

順子を指名して
注射をして欲しいという
患者まで出るので
順子が
病棟にいるときには
引っ張りだこでした。

静脈注射だけでなく
その他の手技も的確で
教授も
一目置いていました。

各科を
順番に回って
研修するのが
普通ですが
最初に入った
外科の教授が
順子を
外科医にしようと
引き留めていたのです。

背の低い
順子は
外科は
苦手でした。

手術台の高さは
執刀医に合わせてありますので
背が足りません。

台を用意して
補佐をしました。

執刀医のメスさばきを
じっと見て
2回目には
順子は
執刀医より
上手に
こなしました。

医局でも
評判になっていました。

教授も
外科医になることを
強く勧めていたのです。

順子は
教授の勧めてくれるのは
嬉しかったけど
外科医は
少し違うような気がしました。

28

順子は
外科医も
大事な仕事だけど
神の命では
ないと思いました。

順子の持っている才能は
神さまが与えてくれたものだと
思っていました。

背が低い
順子には
外科医としての
力がありません。

心臓マッサージが
一般化してきたこの時代
順子には
患者に覆い被さって
それを充分に
行えなかったのです。

教授に言って
研修科を
変えることにしました。

内科へ
変わると
そこでも
評判になりました。

病棟でも
外来でも
「小さいお医者さん」で
人気者だったのです。

人気はありましたが
順子は
恋愛とは
いつも無関係でした。

順子の友達の中には
結婚する者も
出てきて
結婚式に出ると
うらやましく思っていました。

中学生の時に
S男に振られてから
それがジレンマになっていたのです。

目がくりくりと大きくて
可愛い順子でした。

医師になっても
ピンクのフレアスカートを
絶対に身につけていて
女性ということを
忘れないようにしていました。

そのことが
外見を
可愛い中学生と
思わせる
要因となっていたのです。

かまぼこの
コマーシャルも
まだまだ続いていて
順子が
かまぼこを
作ったり
料理したるする
バージョンが
放送されていました。

視聴者には
中学生と
思われていたようです。

そんな
順子は
ある男の子を
好きになってしまったのです。

29

順子は
病院の中を
走り回っている
南くんがすきになってしまいました。

南くんの仕事は
特に決められていなくて
分担が決めれていない仕事が
仕事でした。

いわゆる
雑用です。

順子は
最初は
南くんの心を
読んでいました。

どんな仕事も
嫌がるの事なく
進んでしていたのです。

順子は
人の心を
あまり読まないようにしています。

外見は
陽気に
仕事をしているように見えるのに
本当は
いやだったり
出会った人を
ぼろくそに言ってたり
さんざんなことを
聞いたのが
普通でした。

それ以来
人の心を読むことは
怖いので
医師として
必要なとき以外は
していませんでした。

それなのに
南くんは
心を読めば読むほど
裏表がありません。

南くんは
順子よりは
少しだけ
背が高いですが
普通に言えば
背が低い方です。

顔も
童顔で
イケメンとは
言いませんが
並以上だと
順子は
思っていました。

そんな
密かな
思いができてからは
順子は
南くんの
心を
読まないようにしていました。

順子は
天使としての
能力を
この頃までには
自由に制御できる様になっていました。

30

順子は
南くんのことが
ものすごく
好きでした。

でも黙っていました。

南くんを
遠くから
見るだけでした。

そんなことを
心に秘めながら
順子の
研修は過ぎていきました。

皮膚科では
目を覆いたくなるような
悲惨な症例も見ました。

耳鼻科・眼科・神経科等々
回っていきました。

順子は
各科を回ってわかったのは
誤診が
多いと思いました。

専門の医師が
見れば間違わないような
誤診が多いと
思っていました。

順子が勤めている
大学病院には
どの科を受診して良いかを
アドバイスする
総合受付というところがあります。

熟練した
看護師が
詰めていました。

しかし看護師では
触診ができるわけでもなく
診断ができるわけでもないので
的確に
案内できなかった場合も
多かったようです。

大学病院には
一般の人を
ボランティアで
お手伝いをしてもらっていました。

そこで
順子は
非番の日には
ボランティアで
受付に詰め
受診科を
案内していました。

順子の能力と知識と
経験から
病名までわかりました。

的確な案内に
看護師も
目を丸くするほどでした。

順子は
病棟より
この総合受付の方が
能力を
発揮できると感じていました。

それに
ここの受付の方が
南くんに会える
頻度が
高いのです。