ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの68歳の老人の日記です

ブログ小説「最期の恋愛」その1

最期の恋愛
1.

化学療法室の
待合室で看護師さんが
「鈴木薫さん」と
呼びました。

ふたりが同時に立ち上がって
化学療法室に向かいました。

看護師さんが
女性の鈴木薫さんに近づいて
小声で
「男性の鈴木薫さんです。
同姓同名の方がいらっしゃるので
しばらくお待ち下さい。」と
告げました。

彼女は
心の中で
「そうなんだ。」と
思いました。

彼女は
バツイチで
乳癌の経過観察で
再発が見られると言うことで
初めての
抗がん剤治療のために
待っていたのです。

しばらくして
彼女は呼ばれて
化学療法室の
椅子に座るように言われました。

日帰りの
抗がん剤治療の場合は
ベッドで点滴するのと
大きな椅子の座ってするやり方があります。

彼女は
初めてなので
椅子を選んだのです。

5個並んだ大きな椅子の
右端に座りました。

看護師さんと
医師がやってきて
静脈確保をして
抗がん剤治療が始まりました。

彼女の
抗がん剤
ほとんど副作用もない
穏やかなものと
聞かされていたので
ゆったりと座っていました。

彼女は
まわりを見回しました。

同じように
点滴をしている
人が並んでいました。

となりの
男性は
少し苦しそうに
していました。

看護師が近づき
「鈴木さん
大丈夫ですか」と
経過を聞きに来ました。

「彼が
私と同姓同名の
鈴木薫なんだ。

同じように
抗がん剤治療を
しているんだ。

少し苦しそうだけど
私もあんな風になるのかな」と
思いつつ
オレンジ色の覆いの付いた
点滴パックを
見ていました。