ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの68歳の老人の日記です

ブログ小説「後半戦はこんな作戦で」夏歌編その4まで

今週のお題「夏うた」

夏歌編その4は最後です。

今までの全話

理子は
25歳
普通に働いていた
会社員です。

可もなく不可もなく
恵まれた家庭で育ちました。

たまたま働いていた会社が
今年初めから
にわかに始まった
コロナ騒ぎで
会社の半分は
忙しくなって
もう半分は
仕事がなくなったのです。

理子は
仕事がなくなった
ところにいたので
リストラの対象になってしまいました。

 

人生初めての
難局です。

仕事を探さなくてはなりません。

大学生の時の就活の
悪い思い出が
よみがえります。

「あの時は
運よく会社に勤められたけど
今回は
どうなるの、、」と考えると
足が重くなります。

とりあえず
ハローワークに出かけ
失業保険や再就職を調べることにしました。

なんだかんだと
書類が必要だし
再就職は
ハードルが高いとおもいつつ
ハローワークを出ようとしたときに
「りこさん」という
声が聞こえました。

 

振り返ると
イケメンの男子です。

理子のタイプです。

「りこさんだよね。

僕だよ 純一だよ

小学校中学校と同級生だった
純一だよ」と
声をかけてきたのです。

「えー
純一さんなの
ひ弱だった純一さんなの」と
答えてしまいました。

理子の記憶では
パッとしない
男の子で
誰かのいつも
後ろにいました。

そんな純一君は
全く違っていたのです。

純一;

僕は直帰なんだけど
理子さんは直帰なの

理子;

えー

純一;

ちょっと話しませんか
久しぶりだし

理子さんのこと
好きだったんです。

知らなかったと思いますが、、、

いきなりの純一の告白に
びっくりして
声になりませんでした。

理子;

〇△◇???

純一;

突然ごめん
そんな重い話ではないので
大丈夫
仕事が
ハローワークがらみということで
情報交換ということで
軽く話でも

理子は昔の純一とは違う
積極性に驚かされながら
食事に付き合うことにしました。

もちろん予定もないので
理子にとっては
問題ありません。

 

行ったレストランは
コロナ対策で
席同士が平行に並んでいて
机もまばらで
アクリル板で仕切りもありました。

純一;

この店はコロナ対策が万全だね

僕の会社は
幸いにも
防護服も作っていて
とても忙しいんだ。

幸いはおかしいね

社会貢献もできているといったほうが良いかな

理子さんの会社は
どこなの
確か化学系だよね。

理子は会社をリストラされたことを
伝えられませんでした。

理子;

〇〇化学です。

純一;

僕の会社材料を仕入れているよ

つながっていたんだね。

今年の求人を
少し変更することになって
ハローワークに来たんだ。

理子さんは
求人票を見ていたけど
何かの調査なの

僕も上司に言われて
したことがあるけど

理子;

えー

そうなの

細かいことは
私にはわからないけど、、

 

そういって

冷や汗が出るのが
わかりました。

 

 

 

 

 

理子は中学校の時
水泳部に所属して
県大会にも出た
実力の持ち主です。

夏が来る前に
毎年ダイエットして
ボディーラインを
整えるのが
前半の課題でした。

毎年なら
後半戦の
夏は
海・プールなどを
総なめに行くのが
理子のやり方だったのですが
今年は
ハローワーク
行こうとは
夢にも思いませんでした。

そのうえ
コロナで
職場が臨時休業なったりして
ついつい食べ過ぎて
ダイエットにいたっておりません。

そんな少し太った
理子は
純一にどんな風に思われたのか
心配でした。

スマホを振って
ラインの友達になって
レストランを出たころは
日もたっぷり暮れて
8時ごろでした。

わかれて
バスで帰る途中に
ラインが純一から
すぐに来ました。

文面は
はじめは
儀礼的でしたが
最後に
今度の日曜日会いたいというものでした。

理子は
速攻で承諾しました。

でも会社勤めと
嘘をついているのが
重荷でした。

日曜日までの
就職しようと
心に決めたのは
火曜日のことでした。

履歴書は
その日のうちに
書きました。

翌日から
就職に
背水の陣で
臨みました。

ハローワーク
紹介状をもらって
化学系の会社の事務員の募集に
応募しました。

面接しました。

大学以来です。

緊張すると
言葉がうまく出てきません。

運転免許以外の
資格もなく
手ごたえはありませんでした。

ハローワークの前で配っていた
チラシも隅から隅まで見ました。

やはり資格があるか
営業に力があるか
どちらかでないと
無理かなと思いつつ
2社目3社目の面接を受けました。

同様の手ごたえでした。

木曜日の夕方
不採用の通知メールが
ほとんど同時に3通来ていました。

 

 

 

 

 

 

理子は
不採用通知をみて
愕然としました。

予想はしていても
実際通知を見ると
意気消沈です。

まだ日にちが残っている
と考えても
到底日曜日には
無理だということがわかりました。

「もう話ししてしまおう」と
考えにいたりました。

もちろん
就職活動は続ける予定です。

話をすると決めると
心が楽になって
純一君のことを
考えていました。

日曜日になったので
待ち合わせの場所に行きました。

久しぶりに雨が止んだ
暑い日でした。

純一は
Tシャツを着ていました。

Tシャツは
少し古いように見えました。

山の景色と文字が書いてありました。

文字は達筆とはいいがたいものでした。

挨拶してから
純一は
Tシャツについて話し始めたのです。

「この
Tシャツ覚えていますか?

中学校の
林間学校で
Tシャツに
絵を書くことになったでしょう。

その時の
Tシャツです。

何か文字を書いた方がいいと
先生が言うので
理子さんの理と
僕の名前の一を取って

一理と書いたんです。

ちょっと変な文字だけど
みんなにはわからなかったみたいです。

理子さんも
見ていましたよね。

少し笑って」といったのです。

理子の記憶の中には
そんなものはありませんでした。

Tシャツに
絵を描いたことさえ
覚えていません。

でも
理子は
「おぼえています」と
言ってしまいました。

 

 

 

ソーシャルディスタンスがあるので
ファーストフードを買って
木陰の涼しいところで
離れて座りました。

よくとおる声の
純一は話が上手です。

理子を飽きさせません。

話ばかりでなく
聞き上手で
会社のことなんかも
矢継ぎ早に聞いてきます。

話にのせられて
前の会社のことを
くどくどと
話してしまいました。

また
嘘をついてしまったのです。

そんな話をしながら
Tシャツのことを
思い出していました。

楽しい時間は
すぐに過ぎ
暗くなって
藪蚊がでてきたりしたので
帰ることになりました。

別れ際に
純一は
「大丈夫ですか
なんか心ここにあらず

というように見えますが」
と聞いてきてきました。

理子は
一瞬ドキッとしましたが
平然をよそおって
「大丈夫」と笑顔で答えました。

「それなら良かったです。

また会ってくださいね。」
聞いてきたので
笑顔で
「ええ」といいました。

別れてから
どうしようと思いました。

純一に何もかも
見透かされたような気がしました。

 

 

 

 

 

純一と別れてから
シャツに事が
気になって
探してみることにしました。

久しぶりに
実家に帰ることにしました。

大学を出てから
ひとり暮らしを始めて
二度目です。

父や母は
何度も来ていますが
理子はこれといった理由が
ないのですが
実家に帰ることはなかったのです。

今回は
Tシャツを探すのが目的です。

母親は
理子のものを
何でもかんでも
残しているのです。

きっと
Tシャツも
残していると
理子は思いました。

理子が
実家に帰ると
母親は
大変喜んで
父親に電話をしていました。

妹も
大変喜んでいました。

父親も
急いで帰ってきて
その日の夕飯は
大盛り上がりです。

家に帰ってきただけなのに
こんなに
喜ぶなんて
ありがたいことだと
理子は思いました。

その日は
そのままにしてある
理子の部屋で寝ました。

押入れを丁寧に
探しましたが
見つかりませんでした。

翌日少し朝早く起きると
母親が
朝ご飯を作っていました。

それとはなく
絵を描いた
Tシャツのことを
聞きました。

母は
すぐに
確か二階の納戸の右奥に
残してあるといいました。

「絵は上手に書けているけど
文字が『純情』と書いてあるので
自分が書いたのに
「こんなTシャツ着れない」と
言ったじゃないの」と
話してくれました。

「なんでも
覚えているのね」と
理子が言ったら
「子供だから
当り前よ」と
答えてくれました。

「またTシャツ出しておくね。

またおいでね」と
言われて実家から
出社するふりを
してしまいました。

 

 

 

 

 

アパートに
帰りました。

「またうそをついてしまったわ。

あんなに
心配してくれているのに
、、、、、、
Tシャツが
まだあるって
、、、、、、、」
と考えてしまいました。

理子は
「純情」という文字を頼りに
記憶を呼び戻そうと
考え込みました。

「そんなことも
あったわ」
と思い出しました。

「その年の書道展のお題が
純情だったもので
純情と書いたのよね。

みんなからは
絵はヘタだけど
字は素晴らしいと
ほめられたわ

そうだわ
私って
毛筆が上手なんだ。

これで勝負してみましょう。」
と気が付いて
早速しまってあった
道道具を出しました。

墨をゆっくりすって
精神を統一して
一番気に入っている
毛筆で
履歴書を記入しました。

気合が入っているのか
書道の先生が言う
「覇気がある文字」で書けました。

翌日
ハローワークで紹介された会社に
面接に行き履歴書を出すと
担当者が
「この字はご自分で書かれたのですか」と聞いてきました。

「はい」と答えると
担当者は席を外して
上司を呼んできました。

若い上司は
「この書類を
毛筆で書いてほしいのですが
書けますか。

紙と道具はこんなものしかないのですが」と
話しかけてきました。

紙と道具を見て
「私は若輩者ですので
筆ペンでは
ちょっと
家に帰って持ってきましょうか。」と
答えました。

上司は私の住所を見て
それでは時間が必要です。

会社のすぐ近くに
文房具屋さんがあるので
そこに買いに行ってくださいと
担当者と一緒に買いに行きました。

その店で担当者が勧めるので
割りと高価な筆と墨・硯・用紙を買いました。

会社に帰って
いつものように
ゆっくりと墨をすって
新しい毛筆をおろして
書き始めました。

理子は
ゆっくり書いていると
感じていましたが
担当者の目には
相当の速さに映っていました。

書いているのは
新製品の案内状で
長文です。

但し書き部分は
細字なので
気を入れないと
均整がとれません。

小一時間で
全部書き終わりました。

最後に
誤字がないか
確認して
担当者に渡しました。

担当者は
それをもって上司のところへ
上司は
社長のところへ持っていきました。

出来上がって15分ほどたって
社長が
理子のところにやってきて
「すごいね

履歴もいいし

是非わが社に
お願いします。」と
告げられました。

理子は
「やったー
Tシャツのおかげ
お母さんの記憶のおかげ
純一のおかげ」と
心の中で
叫びました。

明日からだといわれて
IDカードをもらって
帰りました。

実家に帰ることにしました。

喜んでもらえるし
就職できるきっかけを作った
Tシャツを見たいのもあって
実家に帰りました。

同じように喜んでくれました。

理子は
食事も終わって
「お父さん、お母さんありがとうございます。

私、〇〇化学をリストラされてしまったんです。

それで
就職活動をしていたんだけど
書道が得意のことを
Tシャツで思い出してくれて
履歴書を
毛筆で書いて出したら
◇◇化学に就職できたんです。

社長にも気に入ってもらって
大丈夫だと思います。

それでお願いがあるんですけど
◇◇化学は
この家からの方が
断然近いので
戻ってきたいのですが

わがまま言って
すみません。」と
言うと
家族全員が
賛成してくれました。

就職・家族がうまくいって
リストラも
悪くなかったなと
思いました。

それに
180度変わった
純一にも会えたしと
考えながら
次の日
早く出社しました。

出社すると
昨日の上司から
総務課勤務を命ぜられ
先輩の真心(まこ)に付くように言われたのです。

真心は昨日の面接の担当者で
総務課は
秘書や広報・庶務の仕事を兼ねていて
はっきり言って
何でもやらねばならない部署です。

真心と本社それに工場を
回りました。

自己紹介されても
覚えられないと思ったんですが
真心が
「そんなの覚えなくても
深く礼をして
頭をゆっくり挙げるときに
相手のIDカードを見たらいいんだよ。

ちょっと前は裏は何も書いていなかったんだけど
私が提案して裏表同じようになったんですよ」と
話してくれました。

会社に帰ると
昨日書いた挨拶状の
封筒のあて名書きを
はじめました。

改行するところなんかを
真心に聞いて
書き始めました。

何分千通以上あるので
その日は
終わりませんでした。

乾くまでに
時間がかかるので
会議室の机の上に
真心が並べて乾かしていってくれました。

帰る途中に
純一からラインが入って
日曜日のお誘いでした。

「純一に本当のこと話そう」と
考えながら
帰りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子はすぐに返しました。

今度はどこに行こうかと
お互いに相談しました。

コロナ対策で
密なところは行けないし
近所では面白みもないし
などと楽しく話しました。

リストラのことは
その時に話すとして
Tシャツのことは
話してみました。

理子;

Tシャツあったのよ

純一;

残していたとは
ありがたいことです。

理子;

文字が書いてあるんだけど

純一;

純情ですよね。

理子;

なぜ知っているの

純一;

それは、
中学生の時は
理子さんのファンだったからかな

理子;

ファンだったんですか

それじゃ私アイドルだったんですか

純一;

私にとってはアイドル以上です。

純情という文字を見て
私はドキッとしたんです。

私の名前の一字純を使っていて
純情は
純一の情けという意味だと
勝手に解釈して
喜んでしまったの

理子;

そうなの

そんな意味ではないのに

純一;

知っているよ
書道展の課題でしょう

理子;

なぜ知っているの
私でもなかなか思い出せなかったのに

純一;

みんなに言っていたんじゃないですか

僕は聞いていて
残念と思ったくらいです。

そんなわけないのにね

と話は盛り上がりました。

理子は自分も忘れていたのに
覚えていたなんて
驚きです。

翌日会社に出社すると
会社の制服が用意されていました。

夏服で
紺色のタイトスカート
薄いピンクのシャツに
オレンジ色のスカーフです。

よくある女性の制服です。

制服は
総務課だけ支給されます。

それには訳があって
お得意様の来社の時に
コーヒー等を出すためのものだったのです。

会社専用の
スマホがまだ支給されていないので
真心(まこ)の支給スマホ
コーヒーを出す会議室と
人数が表示されました。

急ぎ給湯室に行って
ふたりは
コーヒーを用意しました。

会議室に持っていくと
ビジネススーツを着た
男性が10人座っていました。

理子が
来客の上座から
コーヒーを出していくと
末席に
純一が座っていました。

目があってお互いに
驚いた様子でした。

 

 

 

 

 

 

 

理子と純一が
おもわぬところで
目と目があって
少し驚いているところを
理子の会社の社長は
見逃しません。

「君たち知り合いなんだね。
それはよかった。
わが社の事務担当者を
理子さんにお願いしよう。

理子さんは優秀で
頼んでわが社に来てもらった
人材なんです。

新入社員としての目で
このプロジェクトを
見てもらうことにしましょう。

皆様それでいいですね。」と
みんなの前で
言ったのです。

椅子をもう一つ持って来て
純一の前に座りました。

理子は何かなんだかわからず
その席に座らせた感じがしました。

エアコンがきいているのに
汗が出てきました。

純一の目も
避けたいと思いながら
その時間は終わりました。

理子が
やらねばならないことが
山ほどできてしまい
事務室に帰りました。

真心は
「社長はいつもあんなふうなんです。

のせ上手というか
ああなんです。

のったふりをして
やっていくしかないですよ。

理子さんなら
大丈夫」と
励まされました。

真心;

あの人は名前なんというの

理子;

純一さんです。

真心;

どんな関係
恋人同士
それとも
元恋人同士?

理子は一瞬驚いて

理子;

小中と同じだった同級生
幼なじみです。

真心;

というと
私と同じ年

付き合っていないなら
紹介して

理子が困惑していると

真心;

イケメンじゃないの
私タイプ
紹介してほしいは、

理子;

またね

そういうのが精一杯でした。

真心に手伝ってもらって
プロジェクトの仕事を
何とか出来たのは
週末でした。

真心は仕事をしながらも
何度も
その間
紹介してほしいと
言ってきました。

 

 

 

 

 

 

 

会社の電話に
得意先から
理子を指名で
電話がかかってきました。

電話を取ると
聞きなれた声で
仕事のことについての
連絡でした。

純一だったんです。

仕事の用事で
理子に電話してきたのです。

会社の電話ですので
用件だけを言って
切れました。

理子は
ドキドキしました。

 純一からの
仕事の電話で
言われたことを
関係部署に
連絡してから
明日の仕事の用意をして
帰ることにしました。

真心が
個別ビヤガーデンに行かないかと
聞いてきました。

「アクリル板で仕切ってあるんだけど
夏歌が
BGMで流れていて
夏っ
という感じなの」
とすすめてきたのです。

用事を詳細に話して
パスして
アパートに帰りました。

実家へ戻る
用意があったのです。

片付けていると
純一からラインが来ました。

デートで
どこに行けば
という話です。

理子;

プールに行きたいな

純一;

理子さんは
水泳部だもんね

理子;

夏になったら
いつも
プールの監視員だったから
純一;

理子さんと
プールに行きたいんだけど

泳げないんだ

理子;

ごめんなさい。

そうだったんですか。

じゃ別のところへ

純一;

やっぱりプールへ行きます。
泳げなくても
理子さんと一緒なら
きっと楽しい

行きます行きます!

理子;

じゃ朝早くから行きましょう

泳ぎ教えます。

というわけで
今度の日曜日には
朝プールに出かけることにしました。

週末の金曜日の出勤は
何かウキウキするものです。

明日
純一とデートなら
なおさらです。

そんな理子を見て
真心は
「今日
理子は楽しそうね

デートでもあるの」と
言ってきたのです。

理子は
考えました。

純一と
付き合っていないとなれば
真心は純一に紹介せよといってくるに違いない
ならば
明日デートで
付き合っているということにして
真心をあきらめさせようと
考えたのです。

実際日曜日に
純一と会うのだから
嘘ではない。

少しうわつった声で
「日曜日 純一君とデートなの」と
言ったのです。

真心は
えーっと驚く以外ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

「プールか
毎年のことですが
楽しいな

小学校の時は
体育の時間だけの
プールだったけど
中学生になってから
水泳部に属して
練習したわね。

バタフライも
教えてもらったわ。

普通では絶対に使わない泳法なのに

練習練習で
水泳部の水泳はちっとも面白くなかったわ

少しだけ早く泳げたら
ものすごく喜び
ちょっと遅かったら
もうどうしようもなく嘆くんです。

高校に入って
水泳部に入った時
もっと楽しい水泳部にしたいと思って
一年生のみんなに
練習の時の
音楽をかけることを
言ったんだったよね。

先輩や監督に
さんざん言われて
できなかったので
そんな拘束の多い水泳部はやめて
市民プールに行くことにしたの

プール監視員の
下働きの
下働きのアルバイトをしながら
夏休みをすごしたんだよね。

そうだ
夏歌事件というのも
起こして
大目玉を食ったけど
みんなは優しくて
許してくれたよね

”理子が起こした夏歌事件とは;

理子が勤めていた市民プールは
都会の真ん中にあって
朝早くから夜遅くまで
多数の方が泳いでおられました。

理子は
早番で勤めて
仕事が終わったら
散々泳いで帰るのが
日課でした。

かかっているBGMが
一日中ハワイアンでした。

そこで
理子が持っていた
CDで
一番気に入っている
「夏祭り」を
事務所の横に置いてある
放送の機械の中に入れ替えたのです。

その日は
事務長が非番で
次の責任者が
市役所に行っていたこともあって
約半日
「夏祭り」が流れ続けたのです。

帰ってきた責任者は
驚いて
元のハワイアンに戻して
誰が入れ替えたか
探しました。

理子は
「私がやりました。

この曲の方が
夏らしくていいと思って」と
名乗り出たのです。

責任者は
「君が好きかどうか
それは問題ではないんだ
曲には
著作権というのがあって
こんな場所で
著作権のある曲を流すと
印税というものを
払わないといけないんだ。

ここでかけているハワイアンは
著作権はもうなくなっていて
印税を払わなくてもいいんだ。

困ったことを
したものだ。」
といって
事務長に電話をしていました。

後日
事務長よりきついお叱りがあって
終わりましたが、
市民プールは
著作権協会に
お金を支払ったそうです。

こんな顛末ですが
これに関係するのか
ちょっと変わったものが
理子に郵便で届いたのは
一週間後でした。

 

 

 

休みの土曜日は
引っ越しの準備でした。

 

明日が
純一とのデートと考えると
笑顔になってしまって
手伝いに来ていた
母親にも
バレてしまいました。

色々聞かれて
純一のことを
話してしまいました。

母親は
純一のことはよく知っていて
「純一君は
少し遠回りなのに毎朝
私たちの家の前を通って
登校していたのよ。

あれは
絶対に
理子が好きなのだと
お父さんと話したこともあります。

純一君
立派になったでしょう。

私は
知っているわよ。
だって
純一君のお母さんと
友達だもん

立派になった
純一君とも
何回も会いましたよ。

もっと言えば
立派になっていない
純一君とも
会いましたよ。

高校の時かな
あなたが「夏歌事件」を起こしたとき
落ち込んでいたでしょう。

純一君が
訪ねてきて
理由を
聞いていたわ。

昔から
純一君は
気配りのある
人なのね

純一君の
お嫁さんになるなら
私大賛成よ

もちろんお父さんも
大賛成だと
話していました。

明日のデート
プールだけど
水着はあるの。」と
話しました。

理子:

水着は
競技用水着よ

私は、競技用水着しか
持っていないわ

泳ぐには
あれが一番いいの

母親:

若い女性が
デートするのに
競技用水着では

可愛いものを
この際買ったらわ

理子;

ありがとう。

でも競技用水着で良いわ。

きっと純一も
私の
競技用水着姿を期待していると
思うの

母親:

そうなの

自信あるのね

その自信は、どこから来るの

理子;

自信なんてないけど
私を遠くからずーっと見ていたような
気がしたから

いつもの私を
見せるのがいいというか
見せるしかないの

母親:

そうなの

ガンバってね。

何を頑張るかわからないけど。

 

荷物の整理をしながら

そんな話をしました。

明日のことを楽しみに
早く寝ました。

 

 

 

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翌朝日曜日
早く目が覚めてしまいました。

顔を洗って
食事をして
用を足して
それからバッチリメイクをしました。

日焼け止めも
同じくバッチリして
少し早かったのですが
待ち合わせの
プールに行きました。

30分近く早く着いて

辺りを見まわしました。

やっぱり
純一は待ち合わせの場所に
先についていました。

そんな人だと
わかっていたけど
やっぱりです。

入場料を払って
おでこの体温を測られ
アプリに登録して
更衣室に行きました。

理子は競技用水着は
小さめでした。
「ふとったかな」っと考えつつ
何とか着ました。

水着を着ると
もう理子にとっては
スイマーでした。

更衣室の外で待っていた
純一と
シャワーを通って
プールに入りました。

朝が早かったので
先客は
3人だけ
「ちょっと泳ぎに行ってくるね」と言って
飛び込み禁止なので
プールにつかり
背泳ぎから個人メドレーを始めました。

純一は
きれいな泳ぎだと
思いました。

200mを泳いで
上がってきました。

少し息は上がっていましたが
平然と純一のところにやってきて
「どう?」って
ポーズをしました。

純一は

「◎×△◇」と
言葉になりませんでした。

理子;

何言ってんの

純一;

とってもいいと思います!!

理子;

じゃ泳いでみましょうね

純一;

それができたら

苦労しません。

理子;

純一さんは、

痩せて
骨太なので
もともと浮かないのではないかと
思うの。

純一;

そうなんですか。
私の努力は役に立たないのですか

理子;

プールに入って
思いっきり息を吸って
プールの中に沈んでください。

純一はゆっくりと
プールに入って
息を止めて
頭をつけました。

普通は浮くのですが
沈んでしまったのです。

ふたりは
もう泳ぎはやめて
プールサイドの椅子に
座りました。

ポップスのBGMが
かかっていました。

理子が好きな曲も流れ
聞いていると
純一が
話し始めました。

純一;

理子さんは
夏歌事件というのを

起こしたでしょう。

僕は、理子さんのお母さんから
聞いています。

理子;

そうなのよね
高校生の浅知恵だったわ。
みんなに迷惑をお掛けしたわ。

でも
周りに助けられて
たすかったの。

私がやらかした
夏歌事件が過ぎたとき
私の家に
「夏歌ーメロディー」なる
CDが送られてきたのよね。

あのCDはよく聞いたけわ
誰からの贈り物なのかいまだにわからないけど。
何度も聞いたわ

誰からの贈り物かしら

(と感慨深げに話していると)

純一;
今だから
言ってもいいかな

理子;

何なの

純一;

あのCD送ったのは
僕なんです。