ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

ブログ小説「後半戦はこんな作戦で」暑い夏の思い出編その3まで その3は最後の方です

今週のお題「暑すぎる」

長い文章ですのが
よろしければ
よろしくないですよね
こんな長い
拙文・乱文
読みませんよね
すみません。

万が一
読んでいただけたら
それは奇跡ですよね。

奇跡の人
できれば
コメントください。

その3は最後の方です。

_____________________________________________

 

理子は
25歳
普通に働いていた
会社員です。

可もなく不可もなく
恵まれた家庭で育ちました。

たまたま働いていた会社が
今年初めから
にわかに始まった
コロナ騒ぎで
会社の半分は
忙しくなって
もう半分は
仕事がなくなったのです。

理子は
仕事がなくなった
ところにいたので
リストラの対象になってしまいました。

 

人生初めての
難局です。

仕事を探さなくてはなりません。

大学生の時の就活の
悪い思い出が
よみがえります。

「あの時は
運よく会社に勤められたけど
今回は
どうなるの、、」と考えると
足が重くなります。

とりあえず
ハローワークに出かけ
失業保険や再就職を調べることにしました。

なんだかんだと
書類が必要だし
再就職は
ハードルが高いとおもいつつ
ハローワークを出ようとしたときに
「りこさん」という
声が聞こえました。

 

振り返ると
イケメンの男子です。

理子のタイプです。

「りこさんだよね。

僕だよ 純一だよ

小学校中学校と同級生だった
純一だよ」と
声をかけてきたのです。

「えー
純一さんなの
ひ弱だった純一さんなの」と
答えてしまいました。

理子の記憶では
パッとしない
男の子で
誰かのいつも
後ろにいました。

そんな純一君は
全く違っていたのです。

純一;

僕は直帰なんだけど
理子さんは直帰なの

理子;

えー

純一;

ちょっと話しませんか
久しぶりだし

理子さんのこと
好きだったんです。

知らなかったと思いますが、、、

いきなりの純一の告白に
びっくりして
声になりませんでした。

理子;

〇△◇???

純一;

突然ごめん
そんな重い話ではないので
大丈夫
仕事が
ハローワークがらみということで
情報交換ということで
軽く話でも

理子は昔の純一とは違う
積極性に驚かされながら
食事に付き合うことにしました。

もちろん予定もないので
理子にとっては
問題ありません。

 

行ったレストランは
コロナ対策で
席同士が平行に並んでいて
机もまばらで
アクリル板で仕切りもありました。

純一;

この店はコロナ対策が万全だね

僕の会社は
幸いにも
防護服も作っていて
とても忙しいんだ。

幸いはおかしいね

社会貢献もできているといったほうが良いかな

理子さんの会社は
どこなの
確か化学系だよね。

理子は会社をリストラされたことを
伝えられませんでした。

理子;

〇〇化学です。

純一;

僕の会社材料を仕入れているよ

つながっていたんだね。

今年の求人を
少し変更することになって
ハローワークに来たんだ。

理子さんは
求人票を見ていたけど
何かの調査なの

僕も上司に言われて
したことがあるけど

理子;

えー

そうなの

細かいことは
私にはわからないけど、、

 

そういって

冷や汗が出るのが
わかりました。

 

 

 

 

 

理子は中学校の時
水泳部に所属して
県大会にも出た
実力の持ち主です。

夏が来る前に
毎年ダイエットして
ボディーラインを
整えるのが
前半の課題でした。

毎年なら
後半戦の
夏は
海・プールなどを
総なめに行くのが
理子のやり方だったのですが
今年は
ハローワーク
行こうとは
夢にも思いませんでした。

そのうえ
コロナで
職場が臨時休業なったりして
ついつい食べ過ぎて
ダイエットにいたっておりません。

そんな少し太った
理子は
純一にどんな風に思われたのか
心配でした。

スマホを振って
ラインの友達になって
レストランを出たころは
日もたっぷり暮れて
8時ごろでした。

わかれて
バスで帰る途中に
ラインが純一から
すぐに来ました。

文面は
はじめは
儀礼的でしたが
最後に
今度の日曜日会いたいというものでした。

理子は
速攻で承諾しました。

でも会社勤めと
嘘をついているのが
重荷でした。

日曜日までの
就職しようと
心に決めたのは
火曜日のことでした。

履歴書は
その日のうちに
書きました。

翌日から
就職に
背水の陣で
臨みました。

ハローワーク
紹介状をもらって
化学系の会社の事務員の募集に
応募しました。

面接しました。

大学以来です。

緊張すると
言葉がうまく出てきません。

運転免許以外の
資格もなく
手ごたえはありませんでした。

ハローワークの前で配っていた
チラシも隅から隅まで見ました。

やはり資格があるか
営業に力があるか
どちらかでないと
無理かなと思いつつ
2社目3社目の面接を受けました。

同様の手ごたえでした。

木曜日の夕方
不採用の通知メールが
ほとんど同時に3通来ていました。

 

 

 

 

 

 

理子は
不採用通知をみて
愕然としました。

予想はしていても
実際通知を見ると
意気消沈です。

まだ日にちが残っている
と考えても
到底日曜日には
無理だということがわかりました。

「もう話ししてしまおう」と
考えにいたりました。

もちろん
就職活動は続ける予定です。

話をすると決めると
心が楽になって
純一君のことを
考えていました。

日曜日になったので
待ち合わせの場所に行きました。

久しぶりに雨が止んだ
暑い日でした。

純一は
Tシャツを着ていました。

Tシャツは
少し古いように見えました。

山の景色と文字が書いてありました。

文字は達筆とはいいがたいものでした。

挨拶してから
純一は
Tシャツについて話し始めたのです。

「この
Tシャツ覚えていますか?

中学校の
林間学校で
Tシャツに
絵を書くことになったでしょう。

その時の
Tシャツです。

何か文字を書いた方がいいと
先生が言うので
理子さんの理と
僕の名前の一を取って

一理と書いたんです。

ちょっと変な文字だけど
みんなにはわからなかったみたいです。

理子さんも
見ていましたよね。

少し笑って」といったのです。

理子の記憶の中には
そんなものはありませんでした。

Tシャツに
絵を描いたことさえ
覚えていません。

でも
理子は
「おぼえています」と
言ってしまいました。

 

 

 

ソーシャルディスタンスがあるので
ファーストフードを買って
木陰の涼しいところで
離れて座りました。

よくとおる声の
純一は話が上手です。

理子を飽きさせません。

話ばかりでなく
聞き上手で
会社のことなんかも
矢継ぎ早に聞いてきます。

話にのせられて
前の会社のことを
くどくどと
話してしまいました。

また
嘘をついてしまったのです。

そんな話をしながら
Tシャツのことを
思い出していました。

楽しい時間は
すぐに過ぎ
暗くなって
藪蚊がでてきたりしたので
帰ることになりました。

別れ際に
純一は
「大丈夫ですか
なんか心ここにあらず

というように見えますが」
と聞いてきてきました。

理子は
一瞬ドキッとしましたが
平然をよそおって
「大丈夫」と笑顔で答えました。

「それなら良かったです。

また会ってくださいね。」
聞いてきたので
笑顔で
「ええ」といいました。

別れてから
どうしようと思いました。

純一に何もかも
見透かされたような気がしました。

 

 

 

 

 

純一と別れてから
シャツに事が
気になって
探してみることにしました。

久しぶりに
実家に帰ることにしました。

大学を出てから
ひとり暮らしを始めて
二度目です。

父や母は
何度も来ていますが
理子はこれといった理由が
ないのですが
実家に帰ることはなかったのです。

今回は
Tシャツを探すのが目的です。

母親は
理子のものを
何でもかんでも
残しているのです。

きっと
Tシャツも
残していると
理子は思いました。

理子が
実家に帰ると
母親は
大変喜んで
父親に電話をしていました。

妹も
大変喜んでいました。

父親も
急いで帰ってきて
その日の夕飯は
大盛り上がりです。

家に帰ってきただけなのに
こんなに
喜ぶなんて
ありがたいことだと
理子は思いました。

その日は
そのままにしてある
理子の部屋で寝ました。

押入れを丁寧に
探しましたが
見つかりませんでした。

翌日少し朝早く起きると
母親が
朝ご飯を作っていました。

それとはなく
絵を描いた
Tシャツのことを
聞きました。

母は
すぐに
確か二階の納戸の右奥に
残してあるといいました。

「絵は上手に書けているけど
文字が『純情』と書いてあるので
自分が書いたのに
「こんなTシャツ着れない」と
言ったじゃないの」と
話してくれました。

「なんでも
覚えているのね」と
理子が言ったら
「子供だから
当り前よ」と
答えてくれました。

「またTシャツ出しておくね。

またおいでね」と
言われて実家から
出社するふりを
してしまいました。

 

 

 

 

 

アパートに
帰りました。

「またうそをついてしまったわ。

あんなに
心配してくれているのに
、、、、、、
Tシャツが
まだあるって
、、、、、、、」
と考えてしまいました。

理子は
「純情」という文字を頼りに
記憶を呼び戻そうと
考え込みました。

「そんなことも
あったわ」
と思い出しました。

「その年の書道展のお題が
純情だったもので
純情と書いたのよね。

みんなからは
絵はヘタだけど
字は素晴らしいと
ほめられたわ

そうだわ
私って
毛筆が上手なんだ。

これで勝負してみましょう。」
と気が付いて
早速しまってあった
道道具を出しました。

墨をゆっくりすって
精神を統一して
一番気に入っている
毛筆で
履歴書を記入しました。

気合が入っているのか
書道の先生が言う
「覇気がある文字」で書けました。

翌日
ハローワークで紹介された会社に
面接に行き履歴書を出すと
担当者が
「この字はご自分で書かれたのですか」と聞いてきました。

「はい」と答えると
担当者は席を外して
上司を呼んできました。

若い上司は
「この書類を
毛筆で書いてほしいのですが
書けますか。

紙と道具はこんなものしかないのですが」と
話しかけてきました。

紙と道具を見て
「私は若輩者ですので
筆ペンでは
ちょっと
家に帰って持ってきましょうか。」と
答えました。

上司は私の住所を見て
それでは時間が必要です。

会社のすぐ近くに
文房具屋さんがあるので
そこに買いに行ってくださいと
担当者と一緒に買いに行きました。

その店で担当者が勧めるので
割りと高価な筆と墨・硯・用紙を買いました。

会社に帰って
いつものように
ゆっくりと墨をすって
新しい毛筆をおろして
書き始めました。

理子は
ゆっくり書いていると
感じていましたが
担当者の目には
相当の速さに映っていました。

書いているのは
新製品の案内状で
長文です。

但し書き部分は
細字なので
気を入れないと
均整がとれません。

小一時間で
全部書き終わりました。

最後に
誤字がないか
確認して
担当者に渡しました。

担当者は
それをもって上司のところへ
上司は
社長のところへ持っていきました。

出来上がって15分ほどたって
社長が
理子のところにやってきて
「すごいね

履歴もいいし

是非わが社に
お願いします。」と
告げられました。

理子は
「やったー
Tシャツのおかげ
お母さんの記憶のおかげ
純一のおかげ」と
心の中で
叫びました。

明日からだといわれて
IDカードをもらって
帰りました。

実家に帰ることにしました。

喜んでもらえるし
就職できるきっかけを作った
Tシャツを見たいのもあって
実家に帰りました。

同じように喜んでくれました。

理子は
食事も終わって
「お父さん、お母さんありがとうございます。

私、〇〇化学をリストラされてしまったんです。

それで
就職活動をしていたんだけど
書道が得意のことを
Tシャツで思い出してくれて
履歴書を
毛筆で書いて出したら
◇◇化学に就職できたんです。

社長にも気に入ってもらって
大丈夫だと思います。

それでお願いがあるんですけど
◇◇化学は
この家からの方が
断然近いので
戻ってきたいのですが

わがまま言って
すみません。」と
言うと
家族全員が
賛成してくれました。

就職・家族がうまくいって
リストラも
悪くなかったなと
思いました。

それに
180度変わった
純一にも会えたしと
考えながら
次の日
早く出社しました。

出社すると
昨日の上司から
総務課勤務を命ぜられ
先輩の真心(まこ)に付くように言われたのです。

真心は昨日の面接の担当者で
総務課は
秘書や広報・庶務の仕事を兼ねていて
はっきり言って
何でもやらねばならない部署です。

真心と本社それに工場を
回りました。

自己紹介されても
覚えられないと思ったんですが
真心が
「そんなの覚えなくても
深く礼をして
頭をゆっくり挙げるときに
相手のIDカードを見たらいいんだよ。

ちょっと前は裏は何も書いていなかったんだけど
私が提案して裏表同じようになったんですよ」と
話してくれました。

会社に帰ると
昨日書いた挨拶状の
封筒のあて名書きを
はじめました。

改行するところなんかを
真心に聞いて
書き始めました。

何分千通以上あるので
その日は
終わりませんでした。

乾くまでに
時間がかかるので
会議室の机の上に
真心が並べて乾かしていってくれました。

帰る途中に
純一からラインが入って
日曜日のお誘いでした。

「純一に本当のこと話そう」と
考えながら
帰りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子はすぐに返しました。

今度はどこに行こうかと
お互いに相談しました。

コロナ対策で
密なところは行けないし
近所では面白みもないし
などと楽しく話しました。

リストラのことは
その時に話すとして
Tシャツのことは
話してみました。

理子;

Tシャツあったのよ

純一;

残していたとは
ありがたいことです。

理子;

文字が書いてあるんだけど

純一;

純情ですよね。

理子;

なぜ知っているの

純一;

それは、
中学生の時は
理子さんのファンだったからかな

理子;

ファンだったんですか

それじゃ私アイドルだったんですか

純一;

私にとってはアイドル以上です。

純情という文字を見て
私はドキッとしたんです。

私の名前の一字純を使っていて
純情は
純一の情けという意味だと
勝手に解釈して
喜んでしまったの

理子;

そうなの

そんな意味ではないのに

純一;

知っているよ
書道展の課題でしょう

理子;

なぜ知っているの
私でもなかなか思い出せなかったのに

純一;

みんなに言っていたんじゃないですか

僕は聞いていて
残念と思ったくらいです。

そんなわけないのにね

と話は盛り上がりました。

理子は自分も忘れていたのに
覚えていたなんて
驚きです。

翌日会社に出社すると
会社の制服が用意されていました。

夏服で
紺色のタイトスカート
薄いピンクのシャツに
オレンジ色のスカーフです。

よくある女性の制服です。

制服は
総務課だけ支給されます。

それには訳があって
お得意様の来社の時に
コーヒー等を出すためのものだったのです。

会社専用の
スマホがまだ支給されていないので
真心(まこ)の支給スマホ
コーヒーを出す会議室と
人数が表示されました。

急ぎ給湯室に行って
ふたりは
コーヒーを用意しました。

会議室に持っていくと
ビジネススーツを着た
男性が10人座っていました。

理子が
来客の上座から
コーヒーを出していくと
末席に
純一が座っていました。

目があってお互いに
驚いた様子でした。

 

 

 

 

 

 

 

理子と純一が
おもわぬところで
目と目があって
少し驚いているところを
理子の会社の社長は
見逃しません。

「君たち知り合いなんだね。
それはよかった。
わが社の事務担当者を
理子さんにお願いしよう。

理子さんは優秀で
頼んでわが社に来てもらった
人材なんです。

新入社員としての目で
このプロジェクトを
見てもらうことにしましょう。

皆様それでいいですね。」と
みんなの前で
言ったのです。

椅子をもう一つ持って来て
純一の前に座りました。

理子は何かなんだかわからず
その席に座らせた感じがしました。

エアコンがきいているのに
汗が出てきました。

純一の目も
避けたいと思いながら
その時間は終わりました。

理子が
やらねばならないことが
山ほどできてしまい
事務室に帰りました。

真心は
「社長はいつもあんなふうなんです。

のせ上手というか
ああなんです。

のったふりをして
やっていくしかないですよ。

理子さんなら
大丈夫」と
励まされました。

真心;

あの人は名前なんというの

理子;

純一さんです。

真心;

どんな関係
恋人同士
それとも
元恋人同士?

理子は一瞬驚いて

理子;

小中と同じだった同級生
幼なじみです。

真心;

というと
私と同じ年

付き合っていないなら
紹介して

理子が困惑していると

真心;

イケメンじゃないの
私タイプ
紹介してほしいは、

理子;

またね

そういうのが精一杯でした。

真心に手伝ってもらって
プロジェクトの仕事を
何とか出来たのは
週末でした。

真心は仕事をしながらも
何度も
その間
紹介してほしいと
言ってきました。

 

 

 

 

 

 

 

会社の電話に
得意先から
理子を指名で
電話がかかってきました。

電話を取ると
聞きなれた声で
仕事のことについての
連絡でした。

純一だったんです。

仕事の用事で
理子に電話してきたのです。

会社の電話ですので
用件だけを言って
切れました。

理子は
ドキドキしました。

 純一からの
仕事の電話で
言われたことを
関係部署に
連絡してから
明日の仕事の用意をして
帰ることにしました。

真心が
個別ビヤガーデンに行かないかと
聞いてきました。

「アクリル板で仕切ってあるんだけど
夏歌が
BGMで流れていて
夏っ
という感じなの」
とすすめてきたのです。

用事を詳細に話して
パスして
アパートに帰りました。

実家へ戻る
用意があったのです。

片付けていると
純一からラインが来ました。

デートで
どこに行けば
という話です。

理子;

プールに行きたいな

純一;

理子さんは
水泳部だもんね

理子;

夏になったら
いつも
プールの監視員だったから
純一;

理子さんと
プールに行きたいんだけど

泳げないんだ

理子;

ごめんなさい。

そうだったんですか。

じゃ別のところへ

純一;

やっぱりプールへ行きます。
泳げなくても
理子さんと一緒なら
きっと楽しい

行きます行きます!

理子;

じゃ朝早くから行きましょう

泳ぎ教えます。

というわけで
今度の日曜日には
朝プールに出かけることにしました。

週末の金曜日の出勤は
何かウキウキするものです。

明日
純一とデートなら
なおさらです。

そんな理子を見て
真心は
「今日
理子は楽しそうね

デートでもあるの」と
言ってきたのです。

理子は
考えました。

純一と
付き合っていないとなれば
真心は純一に紹介せよといってくるに違いない
ならば
明日デートで
付き合っているということにして
真心をあきらめさせようと
考えたのです。

実際日曜日に
純一と会うのだから
嘘ではない。

少しうわつった声で
「日曜日 純一君とデートなの」と
言ったのです。

真心は
えーっと驚く以外ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

「プールか
毎年のことですが
楽しいな

小学校の時は
体育の時間だけの
プールだったけど
中学生になってから
水泳部に属して
練習したわね。

バタフライも
教えてもらったわ。

普通では絶対に使わない泳法なのに

練習練習で
水泳部の水泳はちっとも面白くなかったわ

少しだけ早く泳げたら
ものすごく喜び
ちょっと遅かったら
もうどうしようもなく嘆くんです。

高校に入って
水泳部に入った時
もっと楽しい水泳部にしたいと思って
一年生のみんなに
練習の時の
音楽をかけることを
言ったんだったよね。

先輩や監督に
さんざん言われて
できなかったので
そんな拘束の多い水泳部はやめて
市民プールに行くことにしたの

プール監視員の
下働きの
下働きのアルバイトをしながら
夏休みをすごしたんだよね。

そうだ
夏歌事件というのも
起こして
大目玉を食ったけど
みんなは優しくて
許してくれたよね

”理子が起こした夏歌事件とは;

理子が勤めていた市民プールは
都会の真ん中にあって
朝早くから夜遅くまで
多数の方が泳いでおられました。

理子は
早番で勤めて
仕事が終わったら
散々泳いで帰るのが
日課でした。

かかっているBGMが
一日中ハワイアンでした。

そこで
理子が持っていた
CDで
一番気に入っている
「夏祭り」を
事務所の横に置いてある
放送の機械の中に入れ替えたのです。

その日は
事務長が非番で
次の責任者が
市役所に行っていたこともあって
約半日
「夏祭り」が流れ続けたのです。

帰ってきた責任者は
驚いて
元のハワイアンに戻して
誰が入れ替えたか
探しました。

理子は
「私がやりました。

この曲の方が
夏らしくていいと思って」と
名乗り出たのです。

責任者は
「君が好きかどうか
それは問題ではないんだ
曲には
著作権というのがあって
こんな場所で
著作権のある曲を流すと
印税というものを
払わないといけないんだ。

ここでかけているハワイアンは
著作権はもうなくなっていて
印税を払わなくてもいいんだ。

困ったことを
したものだ。」
といって
事務長に電話をしていました。

後日
事務長よりきついお叱りがあって
終わりましたが、
市民プールは
著作権協会に
お金を支払ったそうです。

こんな顛末ですが
これに関係するのか
ちょっと変わったものが
理子に郵便で届いたのは
一週間後でした。

 

 

 

休みの土曜日は
引っ越しの準備でした。

 

明日が
純一とのデートと考えると
笑顔になってしまって
手伝いに来ていた
母親にも
バレてしまいました。

色々聞かれて
純一のことを
話してしまいました。

母親は
純一のことはよく知っていて
「純一君は
少し遠回りなのに毎朝
私たちの家の前を通って
登校していたのよ。

あれは
絶対に
理子が好きなのだと
お父さんと話したこともあります。

純一君
立派になったでしょう。

私は
知っているわよ。
だって
純一君のお母さんと
友達だもん

立派になった
純一君とも
何回も会いましたよ。

もっと言えば
立派になっていない
純一君とも
会いましたよ。

高校の時かな
あなたが「夏歌事件」を起こしたとき
落ち込んでいたでしょう。

純一君が
訪ねてきて
理由を
聞いていたわ。

昔から
純一君は
気配りのある
人なのね

純一君の
お嫁さんになるなら
私大賛成よ

もちろんお父さんも
大賛成だと
話していました。

明日のデート
プールだけど
水着はあるの。」と
話しました。

理子:

水着は
競技用水着よ

私は、競技用水着しか
持っていないわ

泳ぐには
あれが一番いいの

母親:

若い女性が
デートするのに
競技用水着では

可愛いものを
この際買ったらわ

理子;

ありがとう。

でも競技用水着で良いわ。

きっと純一も
私の
競技用水着姿を期待していると
思うの

母親:

そうなの

自信あるのね

その自信は、どこから来るの

理子;

自信なんてないけど
私を遠くからずーっと見ていたような
気がしたから

いつもの私を
見せるのがいいというか
見せるしかないの

母親:

そうなの

ガンバってね。

何を頑張るかわからないけど。

 

荷物の整理をしながら

そんな話をしました。

明日のことを楽しみに
早く寝ました。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝日曜日
早く目が覚めてしまいました。

顔を洗って
食事をして
用を足して
それからバッチリメイクをしました。

日焼け止めも
同じくバッチリして
少し早かったのですが
待ち合わせの
プールに行きました。

30分近く早く着いて

辺りを見まわしました。

やっぱり
純一は待ち合わせの場所に
先についていました。

そんな人だと
わかっていたけど
やっぱりです。

入場料を払って
おでこの体温を測られ
アプリに登録して
更衣室に行きました。

理子は競技用水着は
小さめでした。
「ふとったかな」っと考えつつ
何とか着ました。

水着を着ると
もう理子にとっては
スイマーでした。

更衣室の外で待っていた
純一と
シャワーを通って
プールに入りました。

朝が早かったので
先客は
3人だけ
「ちょっと泳ぎに行ってくるね」と言って
飛び込み禁止なので
プールにつかり
背泳ぎから個人メドレーを始めました。

純一は
きれいな泳ぎだと
思いました。

200mを泳いで
上がってきました。

少し息は上がっていましたが
平然と純一のところにやってきて
「どう?」って
ポーズをしました。

純一は

「◎×△◇」と
言葉になりませんでした。

理子;

何言ってんの

純一;

とってもいいと思います!!

理子;

じゃ泳いでみましょうね

純一;

それができたら

苦労しません。

理子;

純一さんは、

痩せて
骨太なので
もともと浮かないのではないかと
思うの。

純一;

そうなんですか。
私の努力は役に立たないのですか

理子;

プールに入って
思いっきり息を吸って
プールの中に沈んでください。

純一はゆっくりと
プールに入って
息を止めて
頭をつけました。

普通は浮くのですが
沈んでしまったのです。

ふたりは
もう泳ぎはやめて
プールサイドの椅子に
座りました。

ポップスのBGMが
かかっていました。

理子が好きな曲も流れ
聞いていると
純一が
話し始めました。

純一;

理子さんは
夏歌事件というのを

起こしたでしょう。

僕は、理子さんのお母さんから
聞いています。

理子;

そうなのよね
高校生の浅知恵だったわ。
みんなに迷惑をお掛けしたわ。

でも
周りに助けられて
たすかったの。

私がやらかした
夏歌事件が過ぎたとき
私の家に
「夏歌ーメロディー」なる
CDが送られてきたのよね。

あのCDはよく聞いたけわ
誰からの贈り物なのかいまだにわからないけど。
何度も聞いたわ

誰からの贈り物かしら

(と感慨深げに話していると)

純一;
今だから
言ってもいいかな

理子;

何なの

純一;

あのCD送ったのは
僕なんです。

 

 

 

 

 

理子;

えっ
そうなの
CDものすごくよかった。
今でもよく聞く
CDだよ。

純一君が
選んだの

純一;

今はないけど
CD屋さんの
女店員に選んでもらいました。

僕は音楽が苦手で

得意のものはないのですが

理子;

長年
わからなかったことが
一気にわかって
良かったです。

純一さんだったんですね。

純一;

ごめんなさい
ゆめをこわしたかな
白馬の王子だと思っていたんでしょう

理子;

そんなんじゃないけど
純一さんだとは
当時みじんも考えなかったわ

純一;

同じ高校に行けるように
僕は勉強したんだ。

でも
理子さんは残念ながら
その高校には
来なかった。

それで
理子さんの家の周りに
張り込んでいて
理子さんを見ていたんだ。
6月ごろ
なんか落ち込んでいるように見えたので
理子さんのお母さんに聞きに行きました。

そしたら
夏歌事件のことを聞き
元気を出してもらいたいと
CDを買って
郵便で送ったんです。

理子;

私に関心を持っていただいていたんですね

純一;

とても好きだったんです。

でもよくよく考えると
僕って
ストーカー規制法の対象になるのではないかと
気づいて
やめました。

それからは

家が近くだから
偶然見る程度です。

理子;

あー

あー

(理子は返す言葉がありません)

純一;

大学卒業と同時に
引っ越しされたと聞いて
もう偶然でも会えないのかと
残念でした。

理子;

そうなのね

(そう答えるしか
ありませんでした)

純一;

次の日曜日も

会えますか。

理子;

それはできません。

純一;

えっ

理子;

来週の

日曜日は実家に戻る
引っ越しの日なんです。

純一;

実家に戻るということは
私の家の近くに
来るんですね
それはよかった。

お手伝いの伺いましょうか。

理子さんのお母さんとは
面識がありますので

理子;

じゅあ
お願いします。

それから
純一はプールの中を歩いたり
理子は泳いだりして
また話して
12時になったので
プールを出て
ファーストフードを買って
涼しい木陰で
食べてから
引っ越しの
片付けがあるので
二人は別れました。

 

 

 

 

 

 

 

理子は
そんなに私を
思っている人が
いたんだということに
気が付いて
うれしいというか
残念というか
後悔というか
希望というか
わけのわからない
感情が
あふれてきました。

 

片付けを
することにしました。

一年とちょっとしか
いなかったわりには
荷物が多いように思います。

会社と家との往復で
ストレスがあって
買い物でストレスを発散していたのかも
しれないなと考えていました。

私もこれを機会に
断捨離でもするかなと
考えながら
一度も使っていない
服や小物を
片付けました。

翌日会社に行くと

真心(まこ)が

近寄ってきて
プールどうだったと聞いてきたのです。

理子が
「ふつうです」と
答えると
「普通って
恋人として
普通なんでしょう。

つまり
そういうことなんでしょう。」と

切り返してきました。

理子;

それは
そういうことなんでしょうね

恋人ですもの

真心;

具体的に教えて
どんななの

理子;

ちょっと具体的なことは
“個人情報”ということで
黒塗りでお願いします。

真心;

えー
政府の答弁みたい
でもあきらめないわ

と笑いながら
話は続きました。

日曜日
引っ越しという話を聞いて
真心も
手伝いたいと
言ってきたので
仕方がないので
お願いすることにしました。

 

引っ越しについては
引っ越し業者さんに
依頼しているので

そんなに手数が必要ないに
日曜日のことを
考えつつ
会社の業務に戻りました。

 

理子が勤めた会社は
リモートで働いている人がいて
就業時間でも
オフィスは
閑散としていました。

課長に
真心と
ふたりで
呼ばれたのは
木曜日の

朝でした。

「今は使っていない
海辺の
施設で
付近の住民から
『不審者がいる』という連絡がありました。

委託している
警備会社に
連絡したけど
わが社からも
見にに行かなければならない。

他のものは
いないので
ふたりで行ってほしい。

鍵は、守衛室にあるので
この書類を持って行って
鍵を取ってタクシーで
行ってほしい。

待ち合わせの時間は
11時だから
今から出発して」
といわれました。

ふたりは、
すぐに用意をして
出発しました。

施設に着くと
屈強の警備員が
ふたり待っていました。

恐る恐る
鍵を開いて
中を見ると
、、、、、

 

 

 

 

 

何やら
赤いペンキで
塗られていました。

警備員は
「危ないから
車の中で
待っててください。
今車回してきます。

道路に置いておくと
駐車違反になってもいけないので
こちらの駐車場に入れておきます」といって
車を持ってきました。

ふたりは後部座席に乗って
駐車場の中に
入りました。

警備車両ですので
運転席と後部座席は鉄板と強化ガラスで
仕切られていていました。

それから
後部座席も
ふたつに仕切られていました。

たぶんコロナ対策だと考えつつ
車に乗って
駐車場に入りました。

エンジンをかけたままで
エアコンが効いていて
少し寒いくらいでした。

「点検してきますので
ここでしばらくお待ちください」といって
警備員は暗闇の中に消えていってしまいました。

外は明るいのにと思っていると
駐車場の
シャッターが急にしまって
駐車場は真っ暗になってしまいました。

車の中の
小さな電灯だけが明かりです。

 

それから
妙な音が鳴って
向こうから明かりが飛んできたのです。

ふたりは何のことかわからなかったのですが
理解する時間もなく
女性の叫び声
気味が悪くなってきたと思いきや
窓の外に人影
逆さです。

血のりが付いているよう見えました。

理子と真心は
「キャー」と叫びました。

そんな叫びをあざ笑うかのように
窓の外には何人もの妖怪のような
幽霊のような
死人のようなものが
現れました。

 

ふたりは何時間も
叫び続けたように感じましたが
実際は3分ほどの時間で
終わりました。

シャッターが開いて駐車場が明るくなりました。

そしたら

向こうから
社長と課長が
歩いてこっちを着ました。

ふたりは
車を降りて
待っていました。

「真心さんと理子さん
脅かして申し訳ない。

新しいお化け屋敷が
どんなものか
試したのです。

うちの総務課の課員の中で
お化け屋敷が好きな人を
選んだら

君たちふたりになったんだ。

怖がらして

申し訳ない。

まだ三分の一しかやっていないんだが
怖そうなので
途中で
やめました。」と
課長が話しました。

そういえば
3日前に
そんなことを
聞かれたような気がしました。

社長は満足そうで
これなら
コロナ時代の

新しいお化け屋敷だと
思いました。

ふたりの
超おびえた
様子が
ビデオに撮ってあり
プレスリリース用に
使いたいということでした。

ふたりには
給与の3分の1相当の
謝礼が支払われるそうです。

お化け屋敷が
好きだといっただけなのに
こんなことに巻き込まれたのは
運がいいのか運が悪いかは
時間が少し経てば
すぐにわかるのですが
この時は
ふたりは何もわからずしまいでした。

 

 

 

プレスリリースは
コンサルタントに任されていました。

関係者全員にヒヤリングししていました。

理子と真心にも
聞き取り調査があって
向こうの担当者は
プレスリリースの時は
制服姿で
参加して
怖い話の体験談を
話してほしいと
要請がありました。

台本も渡すので
なるべくそのように
話してほしいそうです。

「今の段階では
テレビ局が2局
ラジオが1局
新聞が3社程度参加してくれることになっています。

少し早い目に来て
メイクさんにメイクを受けてください。
テレビに対しては
特別のメイクが必要ですので
よろしくお願いいたします。」と
話して帰っていきました。

理子と真心は
テレビのニュースに
出るなんて
驚き以外何物でもありません。

プレスリリースは

引っ越し前の
週末に設定してありました。

その日に備えて
メールで台本が送られてきて
理子と真心は読み合わせをしました。

課長や社長も
参加するので
社用車で
現場に向かいました。

現場に着くと
幽霊屋敷を委託している業者が
用意を重ねていました。

大きなポスターや写真も用意されていて
理子と真心が
ものすごく驚いているところも
大写しの

ポスターになっていました。

メイクさんのところに行って
バッチリメイクと
ヘアメイクをしてもらいました。

ふたりは
その変わりように
お互いに笑ってしまいました。

テレビカメラや機材が運び込まれて
多くの人たちが集まってきました。

3密を避けるために
一階の駐車場で行われました。

大きな扇風機が用意されていました。

司会の方が
始まりを告げ
内容が興味深く発表されました。

理子と真心が驚いた時のビデオも披露されました。

それから
体験者として理子と真心が登場して
台本通り質問されましたが
上がってしまって
どう答えたか全く覚えてない始末でした。

何とか切り抜け
怖かったところを
再現して撮影したいという要望がありました。

真心はいやだなと考えたのですが
課長がOKですと言って撮影されることになりました。

特殊メイクをした幽霊役の人が
吊り下げられながら
車の窓を上からのぞくという場面です。

2度目ですし
明るいし
みんなが見ているし
怖くもなんともなかったのですが
ディレクターの言う通り
怖い顔をしました。

やっと終わって
今日は直帰してもいいというので
早い目に家に帰りました。

テレビをつけて
夕方のニュースを見ていると
「新様式のお化け屋敷」という題で
報道されていました。

課長や社長が言ったところは
すべて没になっていて

後で撮った場面ではなく
実際に驚いた場面が
出ていました。

それと
理子と真心が
レポーターに
答えた場面です。

テレビだけを見ると
若い女性が
行ったら大変面白そうで
なおかつ
コロナ対策もしっかりしているということでした。

プレスリリースとしては
成功ですが
社長や課長は残念だと思っていないか
理子は心配になってしまいました。

テレビが終わると
電話が鳴りました。

 

 

 

 

 

電話の相手は
妹でした。

「テレビ見たよ」という電話でした。

少し話して切ると
また電話です。

大学の時の友達でした。

次々と電話がかかってきて
総数は8本もありました。

「テレビの効果はすごいな」
と思いました。

純一からの電話がなかったことが
残念でした。

「純一さん、
見てないのかしら」と
考えてしまいました。

もう寝ようかなと思った時
見知らぬ電話番号から
電話がありました。

出ようか出まいか悩んでいると
自動応答になって
相手のメッセージが
流れました。

高校の時のクラスメートでした。

カッコよくて
みんなのあこがれの的で
片思いの相手だった人カオルでした。

「テレビ見たよ。
一度会いたいなー」と
メッセージを残していました。

理子は
胸がキュッとして
熱くなるのを覚えました。

すぐに電話をかけるか迷っていました。

時間はどんどん過ぎていき
このままかけないと
一生後悔するという考えにいたり
電話をすることにしました。

着信履歴より
その電話を選んで
かけようとした瞬間
純一君から電話がありました。

純一君は興奮していて
「テレビの理子さんは
とてもきれいだった」と言った後で
「もちろん実物のきれいだ」と言い直ししました。

なんだかんだと
1時間ぐらい長電話をして
切れました。

純一は見ていてくれたんだと
思うと何か胸が熱くなって
先ほどの電話をかけることをすっかり忘れて
寝てしまいました。

翌日は引っ越しの日です。

真心が朝早く来ました。
そのあと
純一もやってきましたが
ほとんど整理されていたので
お茶を飲んで
引っ越し業者を
待ちました。

引っ越し業者が来ると
見ている間に片付けて
自動車に乗せ
出発になりました。

理子と真心は
純一の車で
理子の家に向かいました。

自動車の中で
テレビの話で
話が弾みました。

電話が多数かかってきたということも
話しました。

真心は全部で6本だったことも

理子は9本でしたが
数えていないと答えました。

そのことで
カオルのことを
思い出しました。

電話はもうダメだと思いました。

家に着くと
同じように引っ越し業者は手際よく
片付けあっという間に終わって
帰っていきました。

真心や純一にも手伝ってもらって
あとは片づけました。

そのあと
真心と純一を加えた家族全員
で食事をしました。

純一は
「理子さんのお母さんは
本当に料理が上手だね」と話が弾みました。
テレビの取材の様子なんかも
詳しく話して
その日は終わりました。

もう寝ようかなと思った時
カオルからの電話がありました。

登録してあったので
電話はカオルとすぐにわかりました。

通話にすると
カオルは開口一番
「理子さん懐かしいですね。」という
声はまったく変わりませんでした。

その声で暑い日の
あの日の思い出が
頭の中に
ザーと呼び出されました。

 

 

 

 

 

カオルは
懐かしいことを
立て続けに
電話の向こうで
話し始めました。

入学式に
理子が遅れてやってきたこととか
生徒会長選挙で
カオルと争ったこと
運動会で
リレーで
僕の
手渡したバトンを理子が落としたこと
それから
いろんな話をしてくれました。

でも

私にとって
カオルは

遠い存在で
普通に話すことなど
なかったのに
私について
なぜこんなことまで
覚えているのかが
不思議でした。

昔も今も
話し上手な
カオルですから
話は盛り上がりましたが
理子は心中穏やかではありませんでした。

小一時間ばかり話した後
最後にカオルが
「プールにでも
一緒に行きませんか。

また連絡します。」と言って
電話は切れました。

その言葉で
理子は
思い出したくない
暑い夏の日の悪夢を思い出してしまいました。

それは
高校3年生の時
理子は
3年目になる
プール監視員の
助手をしていました。

頭から飛び込もうとする人に
注意する係です。

競技用水着の上に
白の長めのTシャツを着て
プールの回る仕事です。

そんな仕事をしていた夏の暑い日
カオルがプールにやってきたのです。

カオルは際立って目立つので
遠くから
わかったのです。

ジーっと見ていると
女性が
一緒にいるではないですか。

どう見ても仲がいい
恋人同士のような
近づき方です。

理子は
それを見て
愕然としました。

片思いの恋が
終わったと思いました。

それ以降
カオルから遠ざかるように
していました。

それまでは
できるだけ近づくため
生徒会長にも立候補して
リレーの選手になるために練習もしました。

それからは
理子は
「誰も好きにならない」という
誓いを立てて
今日に至ったのです。

 

 

 _____________________________________________

 

 

今までは
いずれかと言うと
水泳もできるし
夏は好きでした。

このことがあってから
夏は嫌いでした。

暑い夏の出来事が
高校3年のことだったので
カオルとも物理的に
別れてしまって
心は楽でした。

大学に入学しても
水泳部などのクラブに入りませんでした。

夏のアルバイトのこともありますが
男子と会う機会もできるので
入らなかったというのもあります。

極端に言えば
理子は男性恐怖症だったのです。

こんなことを

何とか克服すべきだと
考えていたのですが
名案が浮かばず
今日に至ったのです。

純一との再会は
相手が
おさな友達の

純一だったので
なぜだか
あまり感じなかったのです。

そんな時
ほぼ同時に
ふたつの
ラインの通知音がしました。
一番目が純一
ちょっと遅れて
カオルでした。

ふたりの内容は
ほとんど同じで
「今度の日曜日
プールに行かないか」ということでした。
どちらかを行って
どちらかを行かないなんてできないので
両方とも
用事があって
できないと
答えておきました。

そう答えると
またまたほぼ同時に
「来週の日曜日に」と
送ってきました。

それには
予定が不明だと
答えておきました。

翌日
真心(まこ)が
聞いてきました。
いつものように
純一のことです。
理子は
カオルのことも
話しました。
真心は
モテキ到来ね」と
答えたので
理子は
本当にモテているのか
信じられませんでした。

暑い夏の日の事件も
話しました。

真心は
笑って
「そんなの聞けばいいじゃないの」と
答えました。

理子は
「これは、はっきりしておいた方が
将来のためにもいいか」と
考えにいたりました。

そこで
ラインで
今夜会えませんかと誘いました。

カオルは
「喜んで」と答えて

夜居酒屋で合うことになりました。

前にも使った
透明な板の隔壁のある居酒屋です。

突然の誘いに驚いて
カオルは汗をかきかきやっていました。

カオル:

話って何

理子;

昔のことなんですが
覚えているかな

カオル;
昔っていうのは
いつ頃

理子;

高校3年生の夏
暑い夏の日なんですが

カオル;

今日みたいな暑い日

なんかの小説みたいだね

どんなこと
理子;

あのね
私がプールの監視員の
助手をしていた時の話です。

カオル;

じゃ
真夏のプールの出来事
特に
なんかあったの

理子;

その日
カオルさんは
女性と
プールにやってきたんです。

どんな関係なんですか

カオル;

どんな関係と言われても
誰と言ったのかな
思い出せない

高3の夏
思い出せないな
夏はいつ頃

理子;

たぶん

お盆休みの頃かな

カオル;

お盆で女性
たぶん従妹かな

東京の従妹が
親と一緒に帰省していたもの
一緒にプール行ったこともあったような

理子;

そうなんですか

心配して損しちゃった。

カオル;

何の心配ですか

理子;

いやいや

、、、、、

カオル;

、、、、、、

その後、

ふたりは話が盛り上がって
しまいます。