ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの68歳の老人の日記です

小説『冴子』震災部分その6


夜明けの頃は
とても寒くて
火に近づきました。

昨日汗をかいて
下着が濡れたためかもしれません。

凍れる程寒い中
北の空は
明るくなっていました。

まだまだ燃えているのです。

水道が
でないので
消火栓から水が出ません。

全く
消防隊は用をなしません。

燃え放題で
それを見て
また倫子は
涙しました。

そんな北の空を見ていると
「あなたは
倫子さんではないですか」と
呼ぶ声があります。

倫子は聞き覚えのある声です。

声の方を見ると
勇治の両親です。

岡山から
自動車でやって来たのです。

昨日
朝に
電話をしたけど
連絡が取れなかったので
いろんなものを積んで
車で出発したそうです。

姫路辺りまでは
高速できたのですが
不通になっていて
一般道も混んでいて
夜遅く着いたそうです。

付近の人に聞き回って
倫子のところに
やって来たそうです。

勇治の母親は
倫子に
勇治のことを聞きました。

倫子は
義理の両親をみて
泣き崩れました。

倫子は
「勇治さんは
まだ店の中にいます」と
言うのが精一杯でした。

両親は
それを聞いて
立っていられず
その場に
崩れるように
倒れ込みました。

「あの火の中に
今もいるのか」と
激しい口調で
父親は
倫子に言いました。

「あなたは
助けに行かなかったのか」と
あとになっては
八つ当たりのように
言い放しました。

倫子は
ただただ泣き崩れるばかしです。

夜が明けて
数時間
そんな状態でした。

 

 


翌日は晴れていました。

太陽が
煙で覆われていましたが
東の空には
輝いていました。

真冬には
暖かい
陽光でした。

冷えた体を
照らす
太陽は
こんな惨事のあとも
かわらないのです。

いつもなら
この時間には
勇治が
店のシャッターを開けて
倫子が
店の前を
掃除していたと思うのですが
太陽だけがかわらず
辺りのがれきの山は
全く違います。

太陽を見て涙
がれきを見て涙
そして
煙を見て涙です。

勇治の両親は
もう
倫子を
責めることすらできないと
感じつつ
助けに行くわけにも
行けないので
ここで
火事が収まるのを
見るだけです。

太陽が高く昇ってくると
自衛隊の車や
警察の車が
国道にやってきました。

消防が
海から
水を引いて
やっと消火が
始まっていました。

倫子には
もう遅いとしか
思えませんでした。

昨日の昼から
消火していたら
きっと
勇治は
助け出せたに違いないと
それを見て
思ってしましまいました。