ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

小説『冴子』震災部分その5

 

大きな
コンクリートの塊が
あって
なかなか進めません。

しばらくの時間が経つと
消防士さんが防火服を着て
穴の中に
飛び込んできました。

穴の中は
火炎が
入り込まないような構造なのか
あまり暑くないのです。

でも
もう
穴の外は
防火服でないと
近づかないような状態です。

「ここは
危険です。

後ろに下がりなさい

早く早く」と大声で
倫子の手を掴みました。

「中に
主人がいるのです。

声がしました。
従業員と一緒です。
助けて下さい。」と
叫ぶ倫子を
ふたりの消防士は
体を持ち上げるように
後ろへ
連れて行くのです。

どんどん遠ざかる
店の方に向かって
「勇治
勇治
勇治
、、、

 

 

 

」と
叫びました。

河本さんのいる
国道の向こう側まで
運ばれてしまいました。

 

 


国道まで連れてこられた倫子は
お店の方を見ました。

もう黒煙と
その間から見る炎が
見えました。

もう
店には
行く事ができないのは
誰の目にも
倫子にも
理解できました。

焦げた
何とも言えない臭いが
周囲を
覆いました。

「勇治の声が
聞こえた」と
河本さんに
言いました。

でも
横に
河本さんがいるとは
言えませんでした。

言ったところで
助けに行くこともできないのです。

倫子は泣き崩れました。

倫子は
帽子を被っていましたが
出ていた髪の毛は
焦げていました。

河本さんの母親は
地面に座り込んで
じっと
店の方を
眺め
涙を流していました。

父親は
たちすくむのが
やっとです。

ふたりの兄は
他の人を助けるために
他の場所を掘っていました。

炎を見ているのがつらいのでしょう。

炎は
日が傾く夕方になっても
衰えることはありません。

国道まで
炎がせまったので
倫子や
河本さんは
後退を余儀なくされました。

夕食は
河本さんが持ってきた
おにぎりを
食べました。

じっと
この場で
店を見たいけど
見たくないような気もします。

夜も更けてきても
状況は変わりません。

河本さんは
一度
北野の家に帰ることになりました。

倫子も
一緒にと言われましたが
そんな気にはなれませんでした。

余震が続くので
外で
たき火をして
すごしている人の近くで
一晩すごしました。