特に何もやりたいわけでもなく 憧れるようなものもなく 特技のようなものもない 登には 夢はありませんでした。 姉との対比で 父親には よく言われていました。 そのことで よけいに 「夢など持たない」と 考えていました。 でも 就職もせず 「プー太郎」を決め込めるわけでもなく どこかに就職することが 必要だとは 考えていました。 就職するために 会社まわりや 履歴書作り 会社訪問 面接など 苦手でした。 そこで そんなことを すこしは少なくなる 公務員に応募することにしました。 超氷河期の 就職ですので 公務員は 狭き門です。 それに 農学部出身ですので 採用するほうも 少ないのです。 調べると 京都府が 農業指導員を 採用する枠が あることがわかりました。 採用試験の 6月に向けて 勉強を 始めました。 人間には 苦手ですが 勉強は 得意だと 登自身は 考えていました。 成績は 学年一で 自信があったのです。 美奈子さんとも別れ 勉強しかない 登は 勉強に励みました。 あとになって 登自身が 気が付くのですが 登は 試験の運だけが きわめて良いのです。 試験になると わかる問題だけが 出てきて 良い点を 取れるし それ以上に 問題の答えが 全くわからなくても 問題の趣旨とか 背景とか 前後の兼ね合いとかで 正答を得る 動物のような勘を 登は持っていたのです。