ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

長編小説「昭和」

長編小説「昭和」その21

貴重な苗を 大事にしながら 苗取りを 朝から晩までしました。 現在の常識に従えば 朝から晩までと言えば ながいと言っても 午前8時頃から6時頃でしょうか。 せれでも 昼一時間の休みを取っても 9時間です。 重労働ですので 9時間も働けば 充分に疲れてい…

長編小説「昭和」その20

苗取りは 農業の中で 唯一座ってする仕事です。 小柄な 力のない 亀太郎にも その仕事が回ってきました。 小さな 木でできた椅子に座って 両手で 苗取りをします。 のしろの田んぼは 充分に柔らかく作られていて 苗の根を 痛めず 抜くことができるのです。 …

長編小説「昭和」その19

大正時代に 水道が 塩素殺菌される 時代がやってくるまで 新生児の死亡率は7パーセント 一歳まで乳児の死亡率は15パーセント でした。 一歳過ぎても 体が弱い小児は 亡くなることが多かった時代です。 弟が 亡くなったからと言って 特別なことではなかったの…

長編小説「昭和」その18

総領息子(家督を 譲ることが予定されていた息子)の亀太郎は 頑張らねばなりません。 長男だからといって 家督を相続できるとは 限りません。 実力と努力がない者は 家督の相続は出来ません。 家督を相続できないと 結婚など 絶対に出来ない時代です。 それ…

長編小説「昭和」その17

水が まだまだ 水路に少ない時なので 川をせき止め 堰を開けたからといって 田んぼに水が 入ってきません。 そこで 水車(みずぐるま)を 使います。 木で出来ていて 一段低い水路の水を 少しだけ 上げて のしろに 入れます。 備中が お金を出して 買わなけ…

長編小説「昭和」その16

春先には 空で止まりながら ピーピーと鳴いて 卵を守る姿が 愛らしいと 思っていました。 それに ヒバリは 悪いことをしないし 亀太郎は好きでした。 辛い代かきの仕事も 人海戦術で 何とか 田植えの時までに 出来上がりました。 亀太郎が 田おこし代かきを…

長編小説「昭和」その15

現代では 無農薬・有機栽培は とても誉められた 農法だと 評価されています。 江戸時代明治時代の頃までは 効果的な 農薬などありませんでした。 信仰とか 祈祷とか そう言うものに 頼っていたのです。 農薬がない時代に 田んぼの中は 生き物が 「うじゃうじ…

長編小説「昭和」その14

水の管理は 省力化されていても 代かきは 現代に言えば 「超たいへん」な仕事です。 農作業は すべて たいへんですが 代かきは そんな仕事でした。 水のたまった 田んぼに 入ります。 長靴はありません。 わらじを 履く程度です。 普通は履きません。 田おこ…

長編小説「昭和」その13

何とか 時期までに 田おこしが完成すると 次は 代かき(しろかき)です。 水は 順番に 上から使われてきます。 一番下の 今津は 五月末です。 代かきは 田植えをし易いように 田んぼの土に 水を含ませ 柔らかくして 平にします。 言葉にすれば 農作業は 何で…

長編小説「昭和」その12

備中は 貴重な鉄で出来ていて 農機具の中では 高価なものでした。 当時の鉄は 粗悪品もあって 歯が折れたりして 鍛冶屋に 修理してもらうことも度々です。 柄の部分は 固い木で出来ていて 丈夫ですが すり減って 細くなっていました。 細くなって 鉄の部分も…

長編小説「昭和」その11

麦を刈り取り 束にします。 稻藁でくくります。 束にして 家に持ち帰ります。 刈った後 すぐに 稲を植えるために準備が始まります。 田おこしからはじめます。 備中と呼ばれる 農機具です。 先に話した 千歯こぎと同じように 江戸時代の 農業の 大発明品でし…

長編小説「昭和」その10

10 水利は 農業の要です。 今津の用水は 百間樋井組(ひゃっけんびゆぐみ) と呼ばれています。 今の 宝塚市の高司辺りの 武庫川から 取水して 天井川の 仁川の下を掘り抜き 今津まで流れてきたものです。 400年以上前 作られて 数々の血なまぐさい騒動があ…

長編小説「昭和」その9

桜が咲く頃から 本格的な農業の始まりです。 村総出で 道普請・川普請といって 村の道と 水路を 修復するのです。 今津の 近くには 江戸時代の 主要道の 山陽道:西国街道と 大坂から西宮の西国街道まで通じる 中国街道があります。 それらの街道は 幕府の力…

長編小説「昭和」その8

まだまだ少年の 亀太郎ですので 将来のことや 結婚のことなど 考えるのが 現代では普通でしょう。 江戸時代は そんなことを 考える 考えても意義がある 人など 一握りいるかいないかです。 小作の子は小作 長男に生まれた亀太郎は 結婚は出来るけど 相手は …

長編小説「昭和」その7

冬場の農作業は 麦の世話です。 麦踏みです。 農作業の中では 楽な方ですが 寒風すさぶ 寒い日に 見渡す限りの 麦畑を 踏んで回るのは 苦です。 しっかり踏まないと 父親に にらまれます。 収穫を少しでも 増やす目的です。 麦の株が 増えて 麦の穂が多く付…

長編小説「昭和」その6

ワラを 叩いて 柔らかくすることを 「わらをかつ」と言います。 わらをかつ道具は 長年使いますので 叩くところが 摩耗して すり減ってしまっています。 柔らかくした ワラを ワラ縄にするには 「縄を綯う(なわをなう)」と言います。 2束のワラを 手のひら…

長編小説「昭和」その5

江戸時代末期の 農作業は 人手だけが頼りです。 馬はもちろん牛はいません。 明治時代になって 今で言えばリース制度のようなもが 出来るまでは 小作農では牛はいません。 正月三が日は休みますが 4日からは 仕事です。 農閑期には ワラ仕事が主です。 お米…

長編小説「昭和」その4

清左衛門は 働くことができるようになった 12才になった時から 父親と同じように 野良仕事に出かけていました。 当時は かぞえですので 10才の頃です。 まだまだ 力がなかった時から 働き始めたのです。 それまでは 寺子屋で 読み書きそろばんを 習っていま…

長編小説「昭和」その3

その1その2を少し書き換えました。 1 この物語は 明治・大正・昭和を 疾風のように駆け抜けた 人々の物語です。 今からもう150年前になるのでしょうか 大きな変化がなかった 平和な江戸時代から 怒濤の 大変革の明治時代になった頃から このお話は始まります。…

長編小説「昭和」その2

この物語のころの 今津は 半農半漁の港町でした。 砂浜が続く 海岸線の 砂防林の後ろに 田んぼが 広がっていました。 田んぼには 夏はお米 冬には野菜や麦 畦には豆と 使えるものは わずかなところも使って 農業は営まれていました。 そしてその 田んぼのほ…

長編小説「昭和」その1

この物語は 明治・大正・昭和を 疾風のように駆け抜けた 人々の物語です。 今からもう150年前になるのでしょうか 大きな変化がなかった 平和な江戸時代から 怒濤の 大変革の明治時代になった頃から このお話は始まります。 江戸時代は 農業の世界では 全くとい…