ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

長編小説「昭和」

長編小説「昭和」の清左右衛門の屋号は「山セ」だった

今日は 母方の実家の お墓参りに行っていきました。 高台にあって 大阪が見晴らせるところにあります。 私の母が 大小7つの墓を ひとつにして 玉垣を付けたお墓です。 いつも何気なく見ていたのですが 今日よくよく見ると 屋号らしきものが 墓石に 彫り込ん…

長編小説「昭和」その218

家督を 譲った頃には 4町歩の田んぼを 持っていた 野田家ですが 清左衛門は これ以上 田畑は 増やさない方針でした。 これ以上増やすと 小作に出さなくてはならないからです。 小作人の 悲哀を いやと言うほど 味わった 清左衛門ですから 小作には出したくな…

長編小説「昭和」その217

家長を 退いても清左衛門の 家での発言は 絶対です。 清左衛門の 仕事に対しての 方針 今時で言えば 経営方針は 父親から受け継いでいます。 「一人前の 農家になるためには 最良の道具を 使わねばならない」と いうものです。 「資本の投下なしに 利益なし…

長編小説「昭和」その216

鶴松は 村はずれの いずれの小作人とも同じ あばら屋の当主となったのです。 と言っても 奉公の女中と その母親しか居ませんでした。 小作地も 清左衛門が 受け継いでいて 家の前に 畑がある程度でした。 鶴松は 農業ができる才覚もないので 都合だと思って…

長編小説「昭和」その215

明治になったからといって 何も変わっていませんでした。 「お家大事」の 鉄則は 全く変わっていませんでした。 家の喪失は 家族全員の死を意味します。 長男の相続が 慣習となっていた 今津でも お家のために 長男を 廃嫡して 次男に継がせる例も ありまし…

長編小説「昭和」その214

時間が流れました。 おますは 顔は 無表情ですが 心の中は とても 心配でした。 清左衛門の顔を 見ていると だんだん表情が 変わっていくのが わかりました。 鶴松に 「早く答えたらわ」と 優しく言いました。 でも 無言の時間が 過ぎました。 明治時代です…

長編小説「昭和」その213

清左衛門は おますに 「話はやさしくしてください」 と念を押されているので 小声で話しました。 優しくと言う意味を 小声で言うことだと 理解していたのです。 怒ったときが 甲高い声なのだから 優しくは 小声というのは 一応 筋が通っていると 考えていた…

長編小説「昭和」その212

鶴松は あとで生まれた伊之介との違いを 強く感じていました。 鶴松が 小さい時には 父親と 話したことなどない 伊之介は 何度も話している 母親は 伊之介の服を着せたり お風呂に一緒に入ったりしているのに 鶴松には そんな記憶がないのです。 父母に言わ…

長編小説「昭和」その211

座敷に座ると 凄い緊張です。 遠くの方で 弟の はしゃぐ声が聞こえました。 鶴松は その時に 考えました。 私が小さい時は 父母は とても忙しくて 私の面倒なんか 全く見なかった。 私は 叔母さんに 育てられたと 記憶しています。 父母と 遊んだことなど全…

長編小説「昭和」その210

鶴松にとっては ホッとしましたが 単に 少し時間が 先に伸びただけで 何の解決もありません。 心配して 母親は 鶴松に 「頑張って 家長を 継ぐと 言うんだよ」 優しく 言ってくれました。 鶴松は その気持ちはあるのですが 口から その言葉が 父親の前に行く…

長編小説「昭和」その209

209 清左衛門が 言ってから だいぶ時間が過ぎましたが 鶴松は 返事がありません。 清左衛門は 気が長い方で ゆっくりと 鶴松の返事を待っていました。 清左衛門が 鶴松を 見れば見るほど 萎縮してしまって 鶴松は ますます声が出ません。 数十分の 沈黙の時…

長編小説「昭和」その209

209 清左衛門が 言ってから だいぶ時間が過ぎましたが 鶴松は 返事がありません。 清左衛門は 気が長い方で ゆっくりと 鶴松の返事を待っていました。 清左衛門が 鶴松を 見れば見るほど 萎縮してしまって 鶴松は ますます声が出ません。 数十分の 沈黙の時…

長編小説「昭和」その208

明治17年の 無事に 収穫も終え 農作業も 少しだけ一段落して みんなが ホッとしている時 清左衛門は あることを考えていました。 家督を 譲って 隠居したいと 思っていたのです。 まだまだ働けるのですが いつまでも 出しゃばっていたら お家のためにならな…

長編小説「昭和」その207

15才を超えて 私塾に行く人が ほとんどなかった時代だったので 私塾では 一番年長に なっていました。 勉強は嫌いでは なかったのですが 何分 気力と 体力がない 鶴松ですので ズルズルと 惰性で勉強していたというのが 実情でした。 当時の勉強が とくに 田…

長編小説「昭和」その206

新しいお家が 良いのは 古今東西同じです。 鶴松は 他の人に迷惑を かけないために さっさと 引っ越ししたのですが みんなには そんなふうには 見えませんでした。 「何の手伝いもせず 新しい家に 一番で引っ越しするとは どういうこと」と 思われてしまった…

長編小説「昭和」その205

鶴松は 家の建築に 声がかからなかったことを 残念に思っていました。 役に立たないことは分かっていても 頼んで欲しかったと 思ったのです。 前に 働き始めた 12才の頃からは 相当大きくなって 背だけは 親の清左衛門と 同じになっていました。 頼りにされ…

長編小説「昭和」その204

鶴松が15才になった時 清左衛門は 家を 変えることにしました。 今までの 家は 地主の家としては 手狭です。 収穫できた お米を 座敷まで積む 始末でした。 それに 清左衛門の 弟と妹も 同居していますが 縁側の隙間で寝起きしている始末です。 地主になれた…

長編小説「昭和」その203

塾での 勉強は 当時のことですから 漢文や儒学が主です。 「子曰、巧言令色、鮮矣仁」とか 言うのを 勉強しているのです。 儒学は 奥が深いから 終わりはありません。 鶴松は はじめは 難しいことを 父母に披露して 誉められたいため 熱心に勉強していました…

長編小説「昭和」その202

村人が 出払って 閑散とした時間に 街道筋を 一目散に 私塾に向かいました。 帰りは 夜なべ仕事が 終わる頃に 帰っていました。 そんな時間まで 私塾は やっていませんでしたが 早く帰りたくなかったので 自習していたのです。 始まったばかりの 小学校でも …

今日は観月会:お月見ですね

私の小さい頃 たぶん5歳頃までは お月見は 我が家の 行事では 大きなものです。 お月様は 水の神さま 農業は 水が大事ですから お月様を 敬愛するのは 貧乏な百姓としても 大事な 記念日です。 一家揃って 縁側で お月様をめでます。 そして 父親が お月様の…

長編小説「昭和」その121

当時は 医学というものが ほとんどなかった時代です。 病気になると 生死を分けるかも知れません。 事実 清左衛門の 下ふたりの兄弟は 10代で亡くなっています。 それに この高熱です。 実の親である 清左衛門や おますは心配しました。 その心配する 父母を…

長編小説「昭和」その200

そばで見ていた 母親のおますは 心の中で 「まだまだ12才なんだから 力仕事は 大変だ。 もっと見守ってあげないと」 と思いつつ みんなの手前 優しい言葉は 鶴松には かけられませんでした。 鶴松自身は 頑張って やっているつもりだけど みんなにそんな風に…

長編小説「昭和」その199

鶴松が 働き始めの時は まわりも そんな目で見ていて 働きが悪くても 文句など言いませんでした。 しかし 働き始めてから 1ヶ月も経つと 厳しい目になってきます。 鶴松は 親譲りで 12才にしては 背は高いです。 ひょろっと 高い鶴松が とろとろ仕事をしてい…

長編小説「昭和」その118

清左衛門も 鶴松も 6才から 今津のお寺 浄願寺に 勉強のために通っていました。 いわゆる 寺子屋です。 明治5年になって 学制発布がされて 学校を作ることになりました。 今までの 教育拠点であった お寺が 今津小学校となりました。 明治6年のことです。 鶴…

長編小説「昭和」その117

家督を 相続した 新しい 清左衛門は 子供に 特に鶴松には 厳しかったのです。 母親は 少しは取り直しましたが 鶴松は 不満でした。 自分が 総領息子であることを 自覚していませんでした。 普通の子供が 良いと思っていたのです。 鶴松が 物心ついた時には …

長編小説「昭和」その116

伊之助が よちよち歩き始め 夏が 終わりかけた頃 清左衛門は 家督を 亀太郎に 譲ることにしました。 明治10年の初秋です。 清左衛門の家のものは 当時としては 長寿です。 当時の平均寿命は 50才くらいでしたが 清左衛門は 68才になっていました。 近頃は 朝…

長編小説「昭和」その115

「おとんぼ」とは 末っ子のことを言います。 伊之助が生まれた時 父親の亀太郎が44才 母親のおますは35才の時でした。 平均寿命が短かった 明治維新の頃ですので 35才は 相当高齢出産です。 おますは 出産後 1ヶ月は 普通の女性のように しっかり 横…

長編小説「昭和」その114

仕事が少し少なくなった頃 3番目の子供ができます。 女の子で およしと言います。 赤ちゃんの時から 器量よしで 家人には 人気がありました。 一番目の子供 おせいは 7才になっていて およしを よく面倒をみてくれました。 お乳を 与える以外は おせいが 育…

長編小説「昭和」その113

鶴松が生まれたあと おますは 赤ちゃんができませんでした。 避妊していていたわけでもありませんが あまりにも 過労からそうなったのかと あとになって わかりました。 自作地が 2町歩(2ヘクタール:2万平方メートル)になった頃 宮水運びは なくなってしま…

長編小説「昭和」その112

子供のいない時期は そんな スーパーウーマンの仕事ができました。 しかし子供ができても やはり おますは したのです。 亀太郎の 妹が 赤ちゃんの面倒を みてくれていたのです。 お乳をあげる時だけ 子供に会うとうい 日課でした。 一人目の おせいの時は …