ロフト付きはおもしろい

ロフト大好きの71歳の老人の日記です

長編小説「昭和」

長編小説「昭和」その51

お茶碗や箸を 洗うことはありません。 油の入った料理や 脂の多い食材を 扱うことなどない時代ですし 水道というものもない時代に 水で洗って 余計に食中毒を起こす 菌を付ける恐れがあるので 洗わないのは 当然のことです。 この習慣がなくなるのは 水道が …

長編小説「昭和」その50

現代では よく噛んで ゆっくり食べるのが 最善ですが この時代の 食事は 早飯です。 早く食べて仕事をすると言うことと 早く食べないと自分の分がなくなると言う意味があります。 その日に焚く 麦飯の量は 決まっています。 1年に食べられる 麦やお米の量は …

長編小説「昭和」その49

食べることに感謝の意味もあって 食事中は 無言です。 音を出して 食べるのは 何の問題もありませんが 「頂きます」 「ごちそうさまでした」 以外の言葉は 言うことはできません。 「麦ご飯は 美味しくない」 と言うようなことを 言う人間は この時代にはい…

長編小説「昭和」その48

起きて 朝食までの仕事を 当地では 「朝の間の仕事」仕事と言います。 慣用句の 「あさめしまえ:朝飯前」の 語源となる様な 仕事です。 とにかく 朝起き縦の空腹時 重労働は こたえるし 薄明かりの中する仕事ですし 簡単な仕事が 多いのです。 家長の 清左衛…

長編小説「昭和」その47

正月が終わると また一年の始まりです。 天気が 毎年同じなら 全く同じ 同じ年になるのですが 江戸時代は 自然災害が 多発した時代でした。 小氷河期が やって来たと言われた時代でした。 今のように 冷害に強い品種改良などもなしに 冷害がやってくるので …

長編小説「昭和」その46

元旦は 何もせずに 一日が終わります。 2日目は 事始めです。 新しい下駄を下ろして 小作人の清左衛門は 地主様のところに 年始の挨拶に出かけました。 近くの 五人組の仲間と 一緒に出かけました。 五人組は 江戸時代のはじめにできた 組織のひとつで 連帯…

長編小説「昭和」その45

正月元旦は 今で言う 寝正月です。 日が昇ってから 雑煮を作ります。 お餅と 大根が入ってもので 年末に仕込んだ 味噌仕立てになっています。 まず ご仏壇と かまどに お供えしたあと みんなで 食べます。 各自のお膳を 板間に出して 全員 正座して 家長であ…

長編小説「昭和」その44

農閑期の 農作業は それ程でもありません。 夏の暑さに比べれば 冬の寒さは 仕事をしていると 苦になりません。 夏に 日射病(今は熱中症と呼んでいるようですが)で 倒れることが あっても 冬の寒さで 倒れる人は いませんでした。 こうして 一年が終わる …

長編小説「昭和」その43

屎尿の 肥料を 「下肥:しもごえ」と 呼んでいます。 下肥は 少し置いてから 田んぼに撒きます。 置いておく施設が 「土壺:どつぼ」です。 現代でも その言葉が残っていて 「土壺にはまる」と よく聞きます。 土壺は 関西の方言で 関東では 野壺と言うらし…

長編小説「昭和」その42

たんごは 口が40cm弱 底が30cmほどの 逆円錐台の形をしていて 2本の角のような 板が出ていて 底に 縄を通して それを 天秤棒で担いで 運びます。 たんごは 竹で 強く輪掛けされていて 屎尿が 漏れないようにしています。 不潔とか 不衛生などという 域を 現…

長編小説「昭和」その41

叔父さんの 大工としての技術は 相当なものです。 少しずつ 道具も蓄え いつか 大工として 独り立ちする日を 夢見ていたのです。 しかし 大工仕事が ズーッと 続くかどうか 心配でした。 叔父さんは 踏み切れないまま へやずみとして 清左衛門の家に住んでい…

長編小説「昭和」その40

まつりの次の日は 休みではなく 仕事です。 雨ならば ワラ仕事 天気なら 麦の準備です。 亀太郎は 翌日 肩が 赤く腫れて 腕が上がりません。 休むわけにはいかず ぎこちなく仕事をしていました。 まつりが過ぎると 一年お仕事の大半は 終わったことになりま…

長編小説「昭和」その39

平素 飲み慣れていない お酒を飲んだ村人たちは 羽目を外すこともありますが どんなことがあっても 酔って 地主さんに 絡むことはありません。 以前 絡んで ひどい目にあった 小作人のことが 伝説になっているのです。 お酒を飲まない 世話役が付いていて 注…

長編小説「昭和」その38

今津には 福應神社・上野神社があって ふたつの神社の だんじりが ぶつかり合うのが まつりの 最高潮です。 平素 働いてばかりの 日々ですが この日は 朝の間の仕事だけです。 朝食後は 神社に集まってまつりが始まりです。 戸主は 羽織を着て 前を歩くこと…

長編小説「昭和」その37

お米が取れると 麦を作り始めるまで 少しだけ余裕があって その時間が まつりです。 今津のある地方では 秋祭りが行われます。 神社の行事です。 今津の神社は 10月13日秋祭が行われます。 もちろん旧暦ですので 11月下旬 今の勤労感謝の日 あたりです。…

長編小説「昭和」その36

中学の歴史の授業で 江戸時代の初めは 四公六民でしたが 暴れん坊将軍で有名な 徳川吉宗公が 五公五民に 引き上げられたと 講義を受けたことを 記憶しております。 江戸時代の末期ですので 基本は 五公五民だったと思います。 清左衛門が 農業を営んでいた …

長編小説「昭和」その35

俵に入れた 玄米は ワラ縄で ぐるぐる巻にします。 コクゾウムシが付かないように 強く縛るのです。 そんなことしか 対抗手段がないことが その縛る最大の 原因です。 現在のお米に コクゾウムシが 混ざっていないので 知らないと思いますが 夏場 倉庫に仕舞…

長編小説「昭和」その34

現代の農業なら 刈り取りから脱穀まで 一度にしてしまうし 籾摺りは 機械ですぐです。 江戸時代の末期は 稲刈り 乾燥 脱穀 籾摺り の工程は どの工程をとっても 大変な仕事です。 手数のある 清左衛門の家でも これらのことが終わるのは 夜明け前から 夜更け…

長編小説「昭和」その33

仕事を急ぎました。 稲を 千歯こぎによって 脱穀し 収穫が始まりました。 脱穀したお米を 籾(もみ)と言います。 籾は 発芽する能力があります。 来年に備えて 一番良く できたところの 籾を置いておきます。 倉庫の奥に仕舞ってしまうのです。 残りの籾は …

長編小説「昭和」その32

現代の洪水は 泥水が流れ込んで 大変な目にあったいる映像が よく映し出されているみたいですが この当時の 溢水は そんな泥水では なかったのです。 洪水は ズーッと水かさが増してくるのです。 時間が経つと 水は引いてしまいます。 流れがあると 稲が倒れ…

長編小説「昭和」その31

収穫は嬉しいことですが 仕事自体は きついです。 それに 季節外れの 北東の風が 吹き始めたのです。 浜では 波が高くなっているようです。 きっと 野分が近づいているのではと 清左衛門は 考えました。 家人に 伝えて 収穫を早めるよう しました。 稲刈りし…

長編小説「昭和」その30

北東の風が吹くと 大風の 予兆と 先代の清左衛門から教えてもらったことが ありました。 その年は 被害が出るほどの 大風もなく 堤防が決壊するほどの 大雨も降らず 病虫害もなく 平穏な 収穫を迎えました。 ここ何年 収穫は 少なくなっていたので 村人は喜…

長編小説「昭和」その29

他の宗派の人からは 『門徒もの知らず』と言われていましたが 清左衛門らは 『門徒もの入らず』と言っていました。 何ごとにも お金をかけない 門徒の精神は 小作人には もってこいだと思っていました。 盆だと言うことも 知らずに 働く 亀太郎には そんなこ…

長編小説「昭和」その28

まだまだ未熟な 亀太郎であろうと 熟練した清左衛門であろうと もう真夏になっている 田んぼでの仕事は 暑いと言う一語に尽きます。 笠を被っていても 汗が噴き出してきます。 熱中症になる様な人は その時代は 生きては行けません。 きっと子供の時に 死ん…

長編小説「昭和」その27

二番草の生える時期になると 稲も大きくなって 少々の雑草にも 負けないようになっていましたが 「ひえ」が 生えてくるのです。 稗(ひえ)は 同じ稲科の植物です。 小さい時には ほとんど 稲と同じです。 稗を取らずに 育てると 稗の方が よく育ち 背が高く…

長編小説「昭和」その26

その年は 7月に入ってから 雨が降り 水の管理は 容易になりました。 稲の株が増えて みるみる大きくなっていきました。 それと同時に 雑草も 生えてきました。 現在なら 除草剤で パッパですが 手で抜くしかありません。 明治時代後期には 回転中耕除草機と…

長編小説「昭和」その25

所々にある 用水池は それぞれ決まっていて 清左衛門の村の 池は 少し上にあって 水を蓄えていました。 今津は 大昔は 武庫川の氾濫瀬で 石がごろごろの ところでした。 この時代には 武庫川は 今の武庫川の位置にあって JA東海道線と国道2号線の間から その…

長編小説「昭和」その24

先々代の清左衛門が 戸主を務めていたころに 日照りが続いて 稲が ほとんど枯れて 収穫できなかったことがあります。 田植えのあと 稲は少しやすんだあと 根が新しくなって 生気を取り戻します。 その後 気温と 水の管理が合えば 稲は 株はドンドン増えてい…

長編小説「昭和」その23

田植えは 一日中 中腰になって 足場の悪い田んぼを 後ずさりしながら 進んでいく 仕事です。 関東では 進みながら 田植えをするのですが 関西では 後ずさりしながら 足跡を 手で平にして 消しながら 植えていきます。 同じ日本でも 田植えの仕方が 大きく違…

長編小説「昭和」その22

亀太郎はまだ子供で 幼いのに 働きは 屈強の清左衛門と同じ時間 働かなければなりません。 家族一丸となって 働かなければ お米はできない できなければ 家族全員の食い扶持がなくなり 家族全員が 餓死する可能性があるのです。 家長たる清左衛門は 幼い自分…